特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第303話 20歳のイルミネーション!

2007年04月10日 00時35分11秒 | Weblog
脚本 阿井文瓶、監督 藤井邦夫

江東区の運河から、全身が刺し傷だらけの水死体が発見された。死体は前日に捜索願が出されていた宝石店の店主と判明する。被害者は普段から女性関係が派手で、数日家を空けることも少なくなかったらしく、「なぜ今回に限って捜索願を出したのか」と被害者の妻を問い質したところ「商店会の役員に強く勧められたから」だという。
早速、商店会の副会長である呉服屋を訪れたところ、「会長なのに役員会を欠席したので、おかしいと思った」と理由を説明する。呉服屋の店先に並んだ着物の値段に驚いた紅林は、若い女店員に「若い女性には目の毒ですね」と軽口をたたく。その言葉に不可解なほど怒り出した女店員は、その場を取りなそうとする店主に「着物を盗んだのは私じゃない。自殺しようとした娘の方よ」と言い捨て、店を出て行った。事情を聞いたところ、数日前に店頭の着物が紛失し、二人の女店員のどちらかが無断で持ち帰ったものと疑われた。その場に居合わせた被害者が着物の金を出し、「無かったことにしよう」と店長を説き伏せたため、犯人は曖昧なままに終わったという。
被害者について不審な言動が目立ったため、商店会の役員連中を問い詰める特命課。商店会では、大手スーパーの進出を食い止めるべく政治家に働きかけるため、一千万円の資金を集めており、被害者はその資金を持ったまま消息を絶っていた。それが捜索願を出した本当の理由だった。また、死体発見の数日前の夜、運河近くで男同士が言い争うのが目撃されており、被害者と犯人だと推測された。
一方、自殺を図った娘のアパートを訪れた紅林は、室内に盗まれた着物が飾られているのを発見。室内からは被害者の指紋が検出され、呉服屋で店長を説き伏せた直後に娘の部屋を訪れたものと推測された。「着物を盗んだことを咎められたために殺したのか?」と問い詰める紅林だが、娘は泣きじゃくるだけで要領を得ない
その後の調べで、被害者が商店街の若い女を次々と食い物にしている事実が判明。最近では呉服屋の女店員と付き合っていたらしい。「取調中の娘ことか」と色めき立つ特命課だが、紅林は反論する。「被害者は、着物を盗んだ容疑者二人のうち、娘の住所しか店主に尋ねなかった。それは、もう一人の女店員の住所はすでに知っていたからではないか」自らの主張を確かめるべく、女店員のアパートを訪ねた紅林は、管理人の証言から、彼女が被害者と愛人関係にあったことを確認する。しかし、女店員は被害者との関係を認めたものの、犯行は否定する。立ち去りかけた紅林だが、女店員の部屋の前に待ち伏せしている男を発見し、二人の会話を立ち聞きする。女に愛人をやめるよう説得し、拒絶された男は「結局は金か?だったら一千万円あればいいのか?」と口走る。「被害者を殺して金を奪ったのはこの男だ」と確信した紅林は、追跡の末に男を逮捕。男は被害者に女店員との付き合いをやめるよう頼んだが、金を見せびらかされながら「女なんて金で買えると分かるまで、恋愛なんてするな」と言われたため、我慢できずに殺したのだと自供する。
事件は解決したが、娘の行動には疑問が残った。紅林は、娘の前で着物を引き裂くと、「私の着物!」と泣き叫ぶ娘にむかって「これは君のものじゃない、君が盗んだ着物だ」と決め付ける。娘は泣きながら、その日の真実を語る。娘は一日だけ着物を借りて、部屋で成人式の記念写真を撮ったら返すつもりだった。しかし、部屋を訪れた被害者は「着物は私からのプレゼントだということにしよう、その代わり・・・」と娘の体を要求。「警察に行きたいのか」と脅して体を奪ったのだという。紅林に着物を見つけられたとき、娘は着物が奪われるのを恐れて、口をつぐんだのだという。「だって、それじゃあ私に残るのは、汚らしい思い出だけじゃないですか!」と叫ぶ娘に、紅林は「それでいいじゃないか。たとえ汚らしい思い出でも、それをしっかりと受け止めるんだ」と諭します。
ラストシーン。釈放された娘は、同じく取調べを受けていた女店員と連れ立って、憂さ晴らしにディスコへ出かけます。そんな娘に、娘の部屋で見つけた、弟からの手紙を差し出す紅林。そこには、仕送りへの感謝の想いと、そのために何も買えないでいる姉への申し訳なさが綴られていた。その手紙が物語る家族への想いから、紅林は娘がこれからも強く生きていくだろうと確信していた。

金がすべての世の中をしたたかに生きる若い女たちの姿を描いた一本です。欲望のままに奔放に生きる女店員の生き様を、ただ断罪するのではなく、そんな生き方にしか幸福を見出せない哀しさや、自分なりの確かな価値観をもって生きる強さとして描き出す脚本が秀逸です。今回の脚本は、長坂秀佳氏、塙五郎氏の両輪の影に隠れがちですが、味のある脚本に定評のある阿井文瓶氏。今回も印象深い台詞の連続なので、いくつか詳細に再現してみましょう。
まずはドラマ中盤、紅林が女店員のマンションを訪れるシーン。被害者と愛人関係にあることを悪びれもせず認める女店員に、憤りを感じる紅林。「誰もが金をすべてだと考えているわけじゃない。自分の心や体を金で売り渡すなんて・・・」と諭す紅林の言葉をさえぎって、女店員は「刑事さん、古いわ。彼は私を楽しませてくれたわ。お金のために泣く泣く自由にされたんゃないわ」と切り捨てます。
また、被害者との愛人関係をやめるよう、若い男が女店員を説得するシーン。「世の中には、金で買えない幸せだってある」と、かつて彼女に編んでもらったマフラーを見せる男に「清く貧しく美しく、あなたらしいわね。でも、私はいや」とあっさり拒絶する女店員。「金で買ったものなんて、いずれ古くなるし、壊れもする」と吐き捨てる男に「そうね。だけど、買わないと、いつまでも幻のままよ」と応える女学生。男は返す言葉もありません。
さらに、若者が被害者を視察するシーン。ナイフで脅しながら「これ以上、彼女をダメにしないでくれ」と頼む男に、札束を見せつけ「女なんて金で買えると分かるまで、恋愛なんてするな」と答える被害者。次々と若い女の弱みに付け込んでモノにする被害者は、決して許せません。しかし、この台詞は決して男を馬鹿にしたわけではなく、女に幻想を哀れな抱く若者に向けた、彼なりの忠告ではなかったのではないでしょうか。
女学生や被害者の放つ、ある意味で醜く、それでいて身にしみる台詞の数々には、奇麗事ではない真実が隠されています。金持ちの愛人になること=悪いこと、人として堕落すること、と決め付けるのは、女性に自分の勝手な理想を押し付ける男のエゴに過ぎません。「金で買えない愛がある」など空疎な理想を口にし続ける男は、「金」を得るための苦労から逃げる自分を正当化するだけの哀れな存在だということを、彼らは知っていたのでしょう。
自分の体を奪って立ち去る被害者を呼び止めた娘は「この安物の着物1枚が私の値段ですか?お金をください」と要求します。そんな娘に対して「それでいいんだよ」と微笑み、金を与える被害者。そこに単なる拝金主義ではなく、もっと奥深い人生の不条理さを感じ取れたような気がしたのは、深読みのしすぎでしょうか。

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