ときぶーの時間

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一本の電話

2011-11-23 11:30:27 | 日記
NO-8                                                                                               都会はいいね!田舎に戻る事ばかり考えている僕だが、かみさんはもう田舎に帰りたく無いみたいで、色々と大変だよー。

美味しいものにも出会えるし、洋服だって種類が多いし、何にしてもスピードが早いし、とにかく便利だね。都会はいいやねえー、志村けんの世界だな、こりゃ。                                                                          

ゆっくりとした福島のリズムじゃ、都会の生活はやっぱダメだわ。都会の人は歩くのも早いし、夜は遅くまで飲み歩き、次の日の朝は栄養剤飲んで仕事行くし、田舎っぺの僕には、まね出来ません。(笑)                                                       

今日は昨日の続きで、原発が爆発してからの彼の事を話そう。その頃の彼は、自分が知らない所で、新聞のある一面の記事の中に、毎日掲載される人間になっていた。地元有力紙の新聞の行方不明者の公示の欄に、氏名を掲載されていたのである。                                            

役場の職員さんは、3月12日に地区別に住民を体育館などに誘導して、その誘導先の体育館で住民に氏名や家族の人数などを、書いてもらい住民の安否を把握しようとしていた。                                                             

僕も小野町の体育館に行ってすぐに、自分とかみさんの名前を書いたのを思い出す。そんな時、彼は富岡町に居残っていたのだから、行方不明者になっているのは当然だった。                                                           

ある日、運がよく彼に一本の電話が入る。彼の親戚のおじさんからの怒りの電話である。                                                          

「おまえは、今まで何処にいて、いったい何をやっているのだ!」と、かなりきつく叱られたと彼は言っていたが、新聞で毎日行方不明と報じられていて心配し、何度も連絡しようと電話をし、なかなか連絡が取れずにいて、おじさんは怒っていたのである。                                            

このいきさつを聞き彼は、「これは、まずい!」とすぐに思い、この件に関しては必死だった。「俺は死んでいないし、こうして生きてるから、行方不明者のリストから外せ!」と新聞社に文句を言って、何としても止めてもらわなくてはと、郡山の新聞社に行くつもりでいた。                                                                       

そんな時に、面倒を見ていた年寄りの友人が、「そろそろ俺のところも、何も無くなってきたから、避難所に入ろうと思うんだけど」と、打ち明けられた彼は一石二鳥とその友人を、車に乗せ避難所に送ってあげるのと、自分の行方不明者扱いを止めるため、約1時間かけて避難所へ向かう。                                                       

到着して避難所に入るや否や「俺はこんな所にいられないな!」と直感し、二日だけ避難所に泊まったが、入所希望の友人を置いて、避難所を担当していた役場職員の呼び止めを無視し帰ってしまった。                                             

それから、新聞社に文句を言ったのだが、新聞社の人に「それは、警察の方から指示が出ているので、警察に直接言ってくださいよ」と。これには彼もお手上げだった。                                                              

この日は仕方なく「とにかく俺は生きてるんだから、掲載するのはやめてくれ!」と頼んで帰って来たのだが、次の日もまた次の日も掲載されていたらしく、何度も文句を言ってようやく止めてもらった彼がいた。                                                  

富岡町に戻ってからの彼は、すぐに20km圏外のホームセンターを軒並み回り、自分のお金で犬、猫、鳥用の餌を買いあさった。3月12日からずっと、各家々のペットの世話をしていて、集めた餌が少なくなっていたからだ。                                                                            
ホームセンターで買った餌で少しの期間、動物たちに餌を与えられるが、これも時間の問題だと、次の方法を模索していた。


何故なら当時、いわき市などの避難準備区域(人が住める場所)でも、放射能が怖いからと言って、品物を届けない運送会社もあって、コンビニの店頭もどこもかしこも、陳列棚に商品は無く、品切れ状態が続いていたのだ。                                                                                               

ペットの餌だって、一度にまとめ買いするが、次に買いに行くと品物が入荷しないでいた。おまけにガソリンも品不足で、いわき市のガソリンスタンドでは、毎朝5時前から車が並び出し、開店時間ともなると200台から300台くらいの車が並び、ひどい所は信号機が作動しているにもかかわらず、右折も左折も、また直進も出来ないような道路になるほど混むスタンドもあり、これには僕とかみさんも驚いたことを思い出す。                                               

この頃の福島の各地のスタンドは、入荷するガソリンがとても少なくて、1台につき10Lという制限を設けて、ガソリンを販売していたから、毎日混みあってしまうのは仕方がなかったと思う。                                                             

田舎での暮らしは、車が生命線であって車が無いと生活するのにも大変不便である。東京のみたいに、電車が2~3分おきに走る山手線のような路線でも張り巡らせているなら、問題もないけど一時間に一本しか電車は無く、都会のようにたくさんの路線も無いから、車は本当に自分の足になっている。                                                            

だから、通勤に毎日往復40km50km走る人なんて、当たり前のようにいるし、それ以上走って通勤してる人もいるから、10L補給して一日で半分以上のガソリンを消費してしまう人もいて、毎日スタンドに並んでガソリンを入れに来る人がたくさんいた。                                                                                  

道路の真ん中で、ガス欠で立ち往生するなんてカッコ悪くて、絶対に嫌だから僕だって、朝早起きして朝5時前から並ぶよ。僕ら避難者にも、ガソリンの心配は大きな問題であり、避難所を一緒に出て来た友人の車屋の社長も、横浜の親族の家に向かうのに、ガソリンが少ししかなくて、本当に決死の思いで家族を乗せて出て来た。                                                                                                

避難所の近くのスタンドで、毎日並んで10Lづつ給油してタンク半分くらいになったから、出るか出ないか?出る時に途中で給油出来なかったらどうしようか?と悩み迷いながら敢行したのだ。                                                  

都会の人には分からないかも知れないけれど、大変だった。(泣)あの頃は、全ての意味で震災を感じて、みんなが生活をしていたと思う。                                               

そんな生活をする中、4月22日に避難指示が強制避難命令に変わり、彼の父母は静岡県に住む彼の姉夫婦が「こんな、放射能で危ない場所に親を置いておけない!」と、父母を引き取っていった。                                                 

彼の父母も、自分の娘が迎えに来てくれて嬉しかっただろうし、彼にとっても姉が見てくれる事を、安心で何よりも心強く喜ばしい事であったに違いない。                                                                      

彼も姉さんが両親を見てくれて、本当に助かったのだと思う。餌の話に戻すが、彼は個人的な予算ではとても生かしてあげられないと一人単身で上京し、ある動物愛護団体の事務所に向った。                                                             

そこで熱く、残されたペットたちの事を語り、餌を用意して欲しい!と陳情するのだが、どこの馬の骨だかわからない人間の話を、最初は全然聞いてもらえない様子だったと言った。                                                                 このままでは、らちがあかないとその事務所の電話を借りて、事故を起こした電力会社の本社に電話をかけさせた。                                                                                               そこで、「こんな事、俺がやる事じゃないだろ!事故を起こしたおまえらの会社がやる事だろ!」と、それは罵声と怒号と聞こえは悪いが、本当に喧嘩をしているような口調と言葉で文句を言ったのだ。                                                                     
愛護団体の事務局長も自分の目の前で、約1時間も大声を出して、本気で怒っている彼を見てこれは徒事ではないと。彼の話から、強制避難区域にたくさんの動物たちが、残されている事をその場で知ってくれたのだと思う。                                                                        
そんなこんながあって、ようやく理解を得た彼に犬用400ケース、猫用400ケース、鳥用400袋の餌が、彼の名前でいわき市の役所に届けられるようになった。                                                                                          
ペットを飼っている人には、一ケースに缶詰めがいくつ入っているか、お分かりいただけると思うけど、各400ケースだから相当な量だったと。しかも、一度だけじゃなくその後も、何度も用意して頂きどれだけの数の動物の命を、救う事が出来たであろう。                                                                     
この場を借りて、動物愛護団体の事務局長のYさんに僕からもお礼の言葉を、述べたい。事務局長のYさん、本当にありがとうございました。深く感謝いたします。今後もどうぞ、宜しくお願い致します。                                                                    
この時の彼には、本当にびっくりしたよ。放射能の汚染に晒されて生活しているだけでも凄い事なのに、動物たちの命を守るべく一人で、東京まで出てきて、愛護団体に行き餌を調達してしまったのだから。                                                                                                       同じ避難者なのに、あの彼の行動力には驚いた。この頃は、仕事を失った人や住む場所を失った人は、次に何をしたら良いのか?分からずに途方にくれ、鬱になっている人も多くみんなが困っていた。                                                    

そんな時だから、彼の行動力はみんなには眩しかったと思う。僕が一番に驚いていたかも?そんな訳で、長々と書いてしまったが、今日はここまで。また明日会いましょう。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    
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