ときぶーの時間

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助けられた2頭の牛

2011-11-20 07:10:38 | 日記
NO-5 牛の話 (後編)                                      昨日、僕の先輩のA氏と会うために、厚木市へ出向いたのだが、街を彩るイルミネーションが点灯されていて、もうすぐクリスマスだなあと思いながらも、僕はあの日から被災者になり、今年はそれを楽しむ心の余裕がない。                                                            
こうしてブログを始めたが、3月11日以前の生活に戻れれば、いつものクリスマスを迎えられるのにと思った。                                                 

おそらく、僕と同じく生活の基盤を失った人や、今でも不便で慣れない生活をしている人たちは、同じ思いをしているのではないだろうか?今の僕に出来る事、それはあの日からの彼と友人の事などを、こうして書き続けるのだと自分に言い聞かせて、今日も書こうと思う。                                                                     

強制避難区域の富岡町に一人で残り、残された動物たちの世話をしている松村直登氏が、餌を配りながらその日2頭の牛をある所で見つけたのだが、それは今までの動物の世話の中で唯一の大仕事になった。                                                      

人間たちが一斉避難したために、牛舎の中で殆どの牛が死んでいったと思われているが、牛を飼っていた人達は水も餌もあげられないなら、せめて牛には自由に草を食べて生きて欲しいと、放し飼いにした牛が原発復旧のため、夜間ひっきりなしに走る大型トラックに、跳ねられて死んだ牛も数頭いた。                                                            

実は彼も薄暗くなってきたからその日の餌やりを終えて、家に戻ろうとしていた夕方に、道路の前方に数頭の牛がいたため、停車して牛が去るのを待っていたのだが、土手の下の暗がりから大きな牛が、いきなり飛び出して来て、車に体当たりして彼は車を壊された。                                                                        

道路の脇の土手には、草が伸びていて全く牛の姿が見えなくて、そこから突然飛び出してあの大きな頭で、車にぶつかって来たから、びっくりしたそうだ。                                                                             

車は軽傷であったがライトがプラプラ状態で、当然車のボディはへこんだ。「これも、電力会社に弁償して貰う」と、彼はそれを笑いながら僕に話したが、あの大きな牛を跳ねていったトラックは大丈夫だったのかな?いくらトラックが、鉄の塊とは言え、かなり凹んだのではないだろうかと思った。            

                                               
他にも水田用の水路深さ約1,8m幅は約2mくらいのところに落ちて、餌が無く出られずに餓え死んでいった牛もいた。彼も水路で死んでいたその牛の姿を見たと言った。                                                         

そんな事があって、彼は他の水路にも気を配りながら残された動物たちに餌やりをしている時、水路に落ちて出られなくなっている2頭の牛と遭遇した。                                                   

彼はすぐに建設業をしている友人に事情を話し「クレーン車と手を貸してくれないか?」と頼み、友人も快く答えを出してくれて、二人は急いで水路に向かった。                                                                         

その中の一頭は約2ヶ月間出られないで、その水路で生きていたという。水は水路の下を少しだけ流れていたから、水は補給出来たのだが餌は地上から垂れ下がって、水路の中に入ってくる僅かな草しか無く、それだけを食べて生きていたという。                                          

伸びて水路に入ってくる草を食べてしまうと、また伸びてくるまで餌が無い状態が続くわけだったのだが、それを繰り返しその牛は良く生きていたと思う。                                                  

もう一頭は落ちてまだ一週間くらいで、肉付きも良く太った牛だったと言っていた。彼は駆けつけてすぐ、水路に降り牛の腹に二本のベルトを巻きつけて、友人に操作してもらって、クレーンでつり上げて救出したのだが、牛はおとなしく彼らのやる事を嫌がるそぶりも見せず、その身を委ね作業させたと彼は言った。                                                     

ただ、慣れない仕事で生きている牛に、ベルトを掛け吊り上げる事が、初めての経験だったからかなり緊張したらしい。ガリガリにやせ細った牛は、よほどお腹が空いていたのだろう。                                                   

彼らに助けてもらったお礼もせずに、一目散に生い茂る草むらに向かったという。彼は、自然児で動物の言葉が少し分かるのか?牛にモー(助けてくれてありがとう)と声を出して欲しかったのだ。                                                          

彼に言わせると、無視して行かないで挨拶ぐらいちゃんとしろよ!って事だと思うのだけど。それなのに、わき目もふらず草に向かい声を出さずに去っていった牛にクレームを付けた彼を、おもしろいと思った僕だが無理も無い。                                                           

これが本当に牛?と思うくらい悲壮感たっぷりの姿だったと彼は言っていた。また、友人はその時撮ったクレーンで吊り上げられ、骨と皮だけになりながら生きていた牛の写真を、家に帰って奥さんに見せたそうだが、奥さんは、その写真を見るなり「この牛、助かってほんとに良かったね」と、涙を流して喜んでくれたそうだ。                                               


やさしい奥様である。痩せこけた牛の姿は色々見てきたが、その牛は骨だけが以上に目立つ、あちこちでこぼこの異様な体つきだと聞いた。牛の骨は大きくてゴツゴツしていて、おしりの前の背骨の骨なんか凄く出っぱって気持ち悪いよ。                                                                            

肉付きがいい時は、背中が平らなんだけど、痩せてくるとその骨が突き出て背中の真ん中あたりが、へこんでくるから、見た目にも変な感じがする。その牛に限らず痩せすぎると、皮も弛んで来るそうだ。                                                       

あれから、水路に落ちた牛の話しを聞いていないから、多分、今のところ水路で死んで行く牛はいないと思うのだが、これからも無いとは限らない。                                                             

それにしてもこの原発事故で僕らの町を含む6町村にいた牛たちは、どれだけ死んでいっただろうか?前編の子牛もその日死んで、放たれた牛の中にもこうして死を迎える牛がいるのが現実だ。                                                   

動物愛護の観点で僕は、今、声に出して言いたい。誰が責任取るのだ!と。                                                                                                                                                       
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