「三人寄れば文殊の知恵」という諺があります。『文殊菩薩』とは、悟りへ到る重要な要素、般若=智慧であることから「智慧」を司る仏とされています。「文殊の知恵」とは『文殊菩薩』のような、すぐれてよい知恵という意味で、受験や資格試験などの受験生が知恵にあやかるように参拝に訪れます。
智恩寺二日目は、本堂に掲げられた絵馬を紹介しようと思いますが、実にその数72面。丹後随一の質量を誇る絵馬ですが、実際に見るのと画像に残すのとではあまりにも勝手が違いすぎて、位置的に綺麗に写せたものに限定しました。
最初はお寺さんに相応しいのかどうか・・・否、お寺さんだから相応しい「地獄絵図」。大作過ぎて二つに分かれてしまいました。正直な話、私はこの地獄図絵と言うのが和洋を問わず苦手。天上から見下ろす仏たちは、どのような思いで地獄の責め苦に喘ぐ亡者を見ているのでしょう。
文政元年(1818)奉納の 「和算図」の絵馬。和算は江戸時代に発達した日本独自の数学で、ここでは、大円・小円の径を求める解法について、設問と回答が記されています。理数系が大の苦手だった私は、ただ感心して見上げるばかり😓
正徳五年(1715)奉納の「忠臣蔵絵馬」。元禄十五年(1702)の赤穂浪士の吉良邸討ち入りから十四年後の奉納。現存する忠臣蔵事件を画いた絵馬としては最古で、激しい武闘の場面が生々しく描かれています。

右に『森 周齋』、左に「文化丁卯(1807)夏」の墨書。 漆黒の駿馬にまたがり、敵に向かって長槍を突き出す図は三国志の一場面「趙雲 阿斗を奪還して敵陣を突破する」の図と思われます。
「天保丙甲(1836)八月奉納」。二人の武士が刃を交える図は、もしかして「天橋立で父の仇討ちをする岩見重太郎の図」かな? 勝手に推測していくのもなかなか面白い。
ラストですが・・・これが一体何の場面なのかさっぱりわかりません。 裃姿の男性は侍のようですが、その前に両手を広げた人物は切られたのかそれとも飛んでいるのか😲 たじろぐように身を引く商家の主・・・う~~~ん、謎の絵馬😔❓
線香の煙にいぶされた本堂の彫刻は長い年月の間にさらに凄みを増して、まるで今にも飛び立ちそうな勢い。本当であれば阿吽の一対で残したかったけど・・きっとこの時は、写せない理由があったのでしょう。
智恩寺の絵馬は「三人寄れば文殊の知恵」の文字、「火焔形梵字を背に乗せた赤獅子」。獅子は『文殊菩薩』の使いであり、背に乗せた火焔形梵字は『文殊菩薩』を表しています。
境内の多宝塔と向かい合うところに並ぶ「石仏三体」。雪舟の「天橋立図」にも描かれており、いずれも等身で、左手宝珠を捧げ、右手は今は失われていますが、錫杖を持つ形から地蔵菩薩像と知られます。
最も保存のよい 南の一体の背に刻まれた銘文に、応永三十四年(1427)に三重郷(中郡大宮町)の大江永松が発願して造立した一千体の地蔵のうちの一体とあります。
少し離れた北側の一体は、頭部を後補されていることが惜しまれますが、体部の衣文には優れた彫刻技術が見られます。銘文から竹野郡恒枝保の三上因幡守の発願で、永亨四年(1432)に造立されたと知られます。
『和泉式部』の歌塚と伝えられる鎌倉期の筺鏡印塔。明応年間の頃、山門より600mほど南にある鶏塚から掘り出されたと伝えられ、1993年に地蔵立像の二躯と共に市文化財に指定されました。
『稲富一夢斉(祐直)』供養塔。『稲富祐直』は戦国時代から江戸時代初期にかけての武将、砲術家。稲富流砲術の開祖として知られ、徳川幕府の鉄砲方として国友鍛冶の組織化に尽力した人物。
文字のみが彫り付けられた「庚申塔」。地蔵立像に並んで建立されていた「宝篋印塔」。
囲いの中の3個の力石は、大:約130kg、中:約100kg、小:約70kg。祭りなどの際に力比べとして用いられていたと思われますが、何時の頃からか、この石に触ると力と智恵が授かるといわれるようになりました。
力石の後方に見えるのは「豫科練供養塔」🙏🙏。「予科練とは海軍少年飛行兵の称である。予科練の歴史は僅か15年余りに過ぎないが、日支事変・太平洋戦争の全期に亘り厳しい訓練を経て戦いの大空に雄飛する。戦局利あらず多くの若者が祖国同胞の為と信じ無限の未来を秘めた若い生涯を桜花よりも更に潔く祖国防衛に捧げた。英霊の永久の冥福と世界平和の礎となることを祈念し之を建てる。」碑文より
境内の一画には、宮津の人々に愛され、今もなお美しく化粧を施された地蔵様が並びます。
境内には多くの石造物が奉納されていますが、何と言っても有名なのは「知恵の輪灯籠」。文珠水道(天橋立水路)を行き来する船の安全を祈って建立されたもので、享保11年(1726)刊行の「丹後興佐海天橋立之図」にも、この輪灯篭が描かれています。そして・・輪灯籠の輪を三回くぐれば、文殊さまの知恵をさずかると云われていますが、さすがに挑戦する根性は・・・😅
境内の松に満開の「扇子型おみくじ」
今回の智恩寺参拝、何と言っても忘れがたいのは、境内や本堂でくつろぐ沢山の猫たち。文殊堂の擬宝珠高欄付の落縁から参拝者たちを見守る猫の表情がとてつもなく穏やかで優しいのです。堂の片隅には、ちゃんとキャットフードの入ったお皿と水の皿が幾つも並べられており、猫好きの私には、思わず手を合わせたくなるような光景でした。人それぞれで好き嫌いもあるでしょうが・・そんな訳で本日のお賽銭はいつもよりも多め😊
2017年4月、文化庁により「智恩寺」は日本遺産」の「丹後ちりめん回廊」を構成する文化財のひとつに認定されました。
参拝日:2010年11月3日&2017年6月12日