渡る世界は神仏ばかり―日日是お参りです。吉田 さらさ新宿書房このアイテムの詳細を見る |
吉田さらさ著『渡る世界は神仏(かみほとけ)ばかり ― 日日是(にちにちこれ)お参りです。』新宿書房刊 という痛快な本を読んだ。帯には「お寺めぐりが仕事です! 仏(ぶっ)ちゃんの星、テラタビスト(寺旅研究家)吉田さらさがお参りの旅ご指南!」とある。なお仏ちゃんとは吉田さんの造語で、「仏像とお寺めぐりを熱く好む人々の総称」だそうだ。
吉田さんのプロフィールは、《岐阜県生まれ。早稲田大学第一文学部美術史学科卒業。『ノンノ』編集部でファッションページ担当、『たまごクラブ』編集部で編集長など、雑誌編集に二十年ほど携わったのち、充電期間中に寺と仏像の面白さを知り、日本で唯一のテラタビスト(寺旅研究家)となる。主な仕事は、寺、仏像、神社、美術などに関する単行本と雑誌記事の執筆。寺めぐりツアーの企画と同行説明、カルチャースクール講師(朝日カルチャーセンター新宿教室など)、寺旅に関する講演など》(BOOK著者紹介情報)というものである。著名サイト「All About」の寺・神社のガイド(その道のプロ)も務めておられる。
http://allabout.co.jp/gm/gp/177/
なんと、今月3日(木)から、吉田さんは、毎週木曜日の午後10時から、NHK教育TV に出演されるという。新宿書房のHPには《吉田さらささんが、NHK教育テレビ「趣味工房シリーズ 直伝 和の極意 とっておきの宿坊を楽しむ」(6月3日より7月29日まで9回。木曜日)に講師として登場します。30代~40代の女性を中心に静かなブーム。寺に宿泊する〈宿坊巡り〉を紹介する番組。テラタビスト(寺旅研究家)吉田さらささんが全国9つの宿坊を案内します》と紹介されている。奈良周辺では、信貴山の玉蔵院や高野山の蓮華定院が登場する。
http://www.nhk.or.jp/shumi/wagoku/
さて『渡る世界は神仏ばかり』であるが、吉田さんは《楽しく読んで、ああ、お参りに行きたいなあ、仏像さんと話してみたいなあと思っていただければ、それが、わたしにとって、最大の御利益(ごりやく)です》と書いている。時にはマジメに、時にはジョークを交えながら、するすると読者を仏像とお寺めぐりに駆り立ててくれる仕掛けになっている。なお今年の2月、この本は日本図書館協会の選定図書にも選ばれた。
「寺旅のコツは『家族に乾杯方式』である」というくだりがあって、吉田さんも鶴瓶のように《「これぞという人に出会ったら、すぐに心の垣根を飛び越えてお言葉に甘える」をモットーに、家族に乾杯方式の旅を続けているのです》という。そこで「渡る世界は神仏ばかり」と感じたそうだ。
奈良市民の私が興味を持ったのは、「奈良のええとこ、あかんとこ」のくだりである。《なぜ奈良は京都にくらべて観光地としての知名度が低いのかについて考察してみたいと思います》《その理由は、1つには、奈良が京都にくらべてアピールがヘタだからだと思います》。
※参考:吉田さらさ著『奈良 寺あそび、仏像ばなし』(当ブログ内)
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/c00668a6fdbea0db19d168daf29d70e1
奈良 寺あそび、仏像ばなし吉田 さらさ岳陽舎このアイテムの詳細を見る |
奈良の駅前ホテルのフロント嬢に「コスモスの般若寺に行くバスは何番でしたっけ」と聞くと、「コスモス寺は桜井市の安倍文殊院です。電車で行って下さい」と言われたそうだ。旧京街道も転害門(手貝門)も通じなかったそうで、これは奈良市民として、情けない。
しかしその一方で《歴史から穴場まで何でも知っている地元人に遭遇する機会は、京都よりも多い気がします》と書いておられる。《奈良の本を出したときには、奈良在住の知らない方から、「読んだよ」とか「奈良のことをよく書いてくれてありがとう」というメールや手紙がいくつも来ました》《これは奈良の人に特有の地元愛なのかもしれません》。
そこで、ならまちのライブ&バー「蔵武D(クラブディー)」に話が及び、《熱き奈良人たちのたまり場で、夜な夜な集まっては、奈良の今後についての意見交換をしています》とお書きになっている。私も何度か吉田さんとお会いしたことがあるが、お会いした場所は、すべて蔵武Dだった。
※参考:吉田さらさ氏 visits 蔵武D(当ブログ内)
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/4cff51fd9bfdfb7cbc5df74ed81eb18d
吉田さんは蔵武Dで《いろいろな話を聞くほどに、奈良って本当に観光宣伝がヘタなんだなと、ため息が出てきます。お隣に日本一アピール上手な京都があるため、ヘタさがいっそう際立ってしまうのです》。しかし《奈良がお客さんを呼ぶイベントを着々と行ったり、山の辺の道あたりに女の子好みのグッズを売る店がたくさんできたりしたら、それはもう奈良ではなく、プチ京都です。奈良のよさをもっと多くの人に知ってもらいたいと思うものの、そういう京都化には、私も反対だな》。
そういえば吉田さんは、『文藝春秋』5月号に「古代のパワースポットを歩く―奈良の本当の面白さは南にある。飛鳥、山辺の道を徹底ガイド」というエッセイも書かれていた。飛鳥と山の辺の道周辺が、分かりやすい文章でコンパクトに紹介されていて、これを読んで来て下さった方も多かったろう。
『渡る世界は神仏ばかり』には、奈良、京都、鎌倉、滋賀など国内のお参りスポットのほか、韓国のお寺めぐりの話も登場する。一体どこまで足を伸ばせば気が済むのだろうか。終章「寺旅の最終目的地は極楽浄土である」を、著者はこう締めくくっている。
《地図を広げると、日本にはまだまだわたしの知らない場所が山ほどあって、心ときめきます。そこにはきっと、わたしの想像をはるかに超えた面白い寺や神社が数々あることでしよう。どうか健康でいつまでも旅ができますように、そしていつかは、六道(地獄など6つの迷界)から抜け出して自分なりの悟りの境地に至れますように。そうなるためには、日々是、足腰の鍛錬。そしてやっぱり、日日是お参りです》。
吉田さんは、筋金入りのテラタビストであり仏っちゃんなのである。そんな彼女の経験談や失敗談やウンチクに耳を傾けながら、お寺めぐりの楽しさを味わいたい方は、ぜひ本書をご一読いただきたい。また、NHK教育の「とっておきの宿坊を楽しむ」をご覧いただきたい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます