tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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環境にやさしい吉野割り箸を使おう!

2012年04月03日 | 林業・割り箸
奈良新聞(3/28付)で、「吉野杉でつくられた環境に優しい割り箸」という卒業論文を読んだ。紙面の2ページを割いた堂々の大論文である。書かれたのは、帝塚山学園の塚本奈都子さんである。「割り箸は環境を破壊している」という誤解を払拭するに十分な材料を提供している。しかも驚くべきことに、これは大学ではなく「小学校」の卒論なのである! 400字詰め原稿用紙30枚以上に及ぶ力作の一部を以下に紹介する。
※トップ画像は日本割箸協会のホームページより

Ⅰ.テーマについて
奈良県上北山村の新屋箸製作所で割り箸作りの工程を見学させていただきました。新屋さんの説明によると、割り箸は端材という本来なら捨てられてしまう部分を利用して作られているとのことでした。これまで私が思っていた割り箸のイメージとかけはなれていて、環境に優しいものだということを知りました。そこで割り箸のことをもっとくわしく調べようと思い、このテーマを選択しました。



Ⅱ.割り箸を知ろう
1.割り箸の歴史

箸そのものは聖徳太子の時代に「箸食制度」が取り入れられたが、「割り箸」は江戸時代に飲食店とともに普及した。ただし、このときの割り箸は竹製で「引裂箸(ひさきばし)」と呼ばれるものだった。明治時代になると衛生面への配慮から料亭で割り箸が出されるようになったが、それは高級な店に限った話で、ほとんどの飲食店では洗って使える塗り箸を使っていた。しかし、昭和初期になると割り箸製造機が誕生。大量生産が可能になり、飲食店の多くが割り箸を置くようになったのである。

1970年代以降は、外食産業の急激な発展、衛生面への関心の高まりなどにより、割り箸の需要が激増。国内生産が追いつかなくなる。結果、量と安さを求めて外材の割り箸を大量に輸入するようになった。現在使われている割り箸は、明治時代に吉野(奈良県)で樽材として使っていたスギの端材(必要な部分を切り取ったときにできる余った木片)を有効活用することから生まれた。もともと箸は一本ずつばらぱらで作られていたのだが、吉野出身の小間治三郎という箸職人によって現在の1膳そろったものが発明された。



割り箸などにする杉の端材。桜井市の松原木材で撮影(10.3.4)

2.割り箸の作り方
一部で森林の敵と思われている「割り箸」だが、「吉野割り箸」は国内資源の有効利用といえるだろう。「割り箸」を2本に割る行為は、これからの食事を始めることを意味し、日常生活の流れに精神的なけじめをつける有効な方法とされている。「吉野割り箸」は、有効な資源活用の上、機能と便利さ、衛生的であるために1回で使い捨てるようになっている。

吉野地方では、あくまでも森林の恵みを余すことなく活用し、森林の保護育成を図り、清らかな水と緑、澄んだ空気を生み出す自然を守っていくことを考え、先人の知恵である「吉野割り奢」作りの灯をいつまでも絶やすことなく、大切に守り続けている。

株式会社マーヴェックのホームページより

3.割り箸の種類
・利久

千利休が考案した卵中(らんちゅう)を基にして作られたことからこの名前がついた。千利休は、客を招く日の朝、必ず吉野地方より取り寄せた杉材を、客の人数分だけ小刀で両端を細かく加工して、軽くて持ちやすく、食べやすい箸を削り作ったといわれている。当初は利休と呼ぱれていたが、「利を休む」という語呂を嫌った人々によって利久と改められたものが広まった。

・天削(てんそげ)
角や平面のシャープさとまっすぐな美しい木目など「杉材」の特徴、美しさを最も感じさせる形状である。この杉の柾目部を正面に加工した杉柾(すぎまさ)天削が、割り箸の高級品とされている。 

・卵中(らんちゅう)
千利休が考案したとされる中太両細の「中広平箸」だ。両端は丸く削られ、中央部は持ちやすく転がりにくいように平らになっている。古来、日本ではお正月、お祝いなど晴れの日には普段使っている箸ではなく、その日のための新しい箸を使い、片方を人が、もう片方を神様が使うという意味で両口の端を使う習慣がある。卵中は割り箸ではなく、もともと2本に分かれた箸である。



春日ホテルのレストランで出てくる吉野杉の天削箸(08.10.30撮影)

4.割り箸は今…
現在、日本国内では年間250億膳もの割り箸が使われているが、実はその98%は海外から輸入されたものだ(その内99%は中国製)。そのため、国内の割り箸工場数も年々減少し、平成18年には101エ場になっている。エ場数の減少に伴い、日本国内の割り箸製造業に携わる労働者も減っており、平成元年には約4,000人だったが平成17年には450人に激減した。
(tetsuda注:2005年の統計では250億膳もの割り箸が使われていたが、現在は190億膳を割っている。)

・都道府県別割り箸の生産量
国内の割り箸の生産量は奈良県(82工場)が最も多く、全体の約7割を占めている。次いで石川県(10工場)が約1.5割、北海道7工場)が1割を占めている。

・間伐材の利用と京都議定書
割り箸だけでなく、木材も輸入材に押され、日本の木材の自給率は2割まで落ち込んでいる。林業は衰退し、山村の高齢化が進み、林業の担い手がおらず、手入れできずに荒廃している森林も少なくない。割り箸に限らず、間伐材を有効活用することは、資金を山に還元し、森林整備を促進することにつながる。



向かって左の3膳は卵中(らんちゅう)、それ以外は天削(てんそげ)

6.国産割り箸と中国産割り箸の特徴
・外国産割り箸の特徴

①原木すべてを割り箸に加工している。
②中国産割り箸の店頭小売価格は1円程度(国産は1膳3円程度)。原料は日本とは異なるアスペンやシラカバ、竹を使用している。

7.間伐とは
植林された杉や桧は、年々の成長に伴い木々の間隔が狭くなってしまう。そのままにしておくと、陽光が入らなくなり、ひ弱な木になってしまい、将来立派な丸太(原木)を育成するためには過密になる木々の一部を計画的に伐る作業が必要である。



第9回奈良県“暮らし”と“環境”フェスティバルで(3/31撮影)

・吉野の間伐材と吉野の割り箸
間伐は一般的に、杉については16~20年より行い、40年頃までは3~5年に1度、70年頃までは7~10年、以後10~20年に1度行われる。小径木時の30年前後位までは主として保育を目的に行われ、その後は木材の利用を目的として間伐されている。桧については、杉より遅く20~25年と30~35年に2割強程度行われ、それ以降は成長に応じて行われている。

8.日本の割り箸は森を守り、環境保護に貢献している
箸の原料である吉野の杉材はすべて植林で、建築材などに利用した木材の端材を有効活用したものである。古来、吉野では切った分を植林して山を守り、手入れすることで循環させながら自然を守ってきた。割り箸は、その中で出る端材や森の手入れによる間伐材から作られたものだ。この割り箸は、森林資源の維持や林業の育成に貢献し、森を守る重要な役目を担っている



環境フェスティバル会場・帝塚山学園の展示(3/31)

・日本の森を守る意義
日本の山林の多くは木を育て、間伐をして森の手入れをすることで守られてきた。近年の林業の衰退で森の手入れが行き届かなくなることで、森の保水力が弱まり土砂災害の元になったり、花粉飛散の1因にもなっているといわれている。森林は手入れすることで木の成長を促しCO2をより吸収するようになるが、手入れをしないとCO2の吸収も落ちてしまう。これらを解決する方法は、私たち消費者が国産の木を積極的に使うことに他ならない。木はCO2を吸収して育つので、日本の森で育った木を使用して焼却してもCO2は循環するだけで増加することはない。

・吉野割り箸の削りくずも有効利用されている
割り箸を製造する過程で「木毛くず」「木綿くず」「おがくず」の他、「切れ端(木の端)」などの木くずができるが、決して無駄にはされていない。「木毛くず」はスレート屋根の断熱材としての木毛セメント板、「木綿くず」は植生マットや室内装用の壁紙の原材料として、有効に活用されている。「おがくず」や「切れ端(木の端)」はお風呂の芳香剤、各割り箸工場で箸加工時の煮沸や乾燥の燃料として余すところなく利用されている



帝塚山学園の展示に、小学生の卒論が並んでいた。手前が塚本さんの作品(同日)

Ⅲ.調査の結果
■新屋箸製作所をたずねて
《新屋箸製作所》
所在地=奈良県吉野郡上北山村 工場の面積=約1200㎡(建物のみ)従業員数=8人 創業=40年

《社長の新屋佳久さんに質問させていただいた》
1.原料はどこから調達していますか?→吉野付近
2.品質を高めるためのエ夫は?→刃物が良く切れるように手入れをしている
3.加工の工夫は?→お箸がまっすぐに割れるように手間をかけること
4.この仕事を始めて何年ですか?→23年
5.どのように出荷していますか?→問屋・小売店・家庭・ホテルなどに直接配送する
6.作業の一番大変なところは何ですか?→柾目引き
7.この仕事をしていて、一番嬉しいことは何ですか?
→「あなたのところで作ったお箸しか買っていないよ」と言われること
8.この仕事に関して将来の夢は?→もっとこのお箸のことを知ってもらいたい
9.箸の生産量は?→1日約3万膳、1年720万膳(良質なもの)
10.どの時期の木が良いお箸になりますか?→11月~4月の木
《新屋箸製作所の方々からのメッセージ》
「自然を愛する心」と「伝統を守り続ける心」を1人でも多くの人に伝えたいです。



塚本さんの卒論。カラー写真もきれいに収まっていた(同日)

■割り箸アンケート調査
他の人達の割り箸への関心が知りたいと思い、下記のようなアンケートを実施した。
1.割り箸をエコだと思うか? YES 7人(27%)、NO 19人(73%)
2.1.の答えの理由(抜粋)
YESの理由
・間伐材で作られているので森林破壊ではなく、逆に計画的な植林になる
・箸を洗うための水や洗剤の節約
・間伐材はそのままであればゴミになるが、割り箸としてリサイクルしている。
・使い捨て(衛生的にOK)
NOの理由
・間伐材を他にも使う道があれば必要ではないと思う
・森林伐採を行い割り箸を作るため、エコではないと思う。
・使い捨てでもったいない
・ほとんどが輸入品(中国)で森林を伐採しているため
・不要な間伐材だが、それを割り箸にする時にエネルギーを使用するから
・自然破壊につながるのではないか
・資源の無駄使い
・MY箸ブームの今、割り箸はどこで使うのかによりエコになったり、そうでなくなったりするように思う


割り箸はもったいない? ― 食卓からみた森林問題 (ちくま新書)
田中淳夫
筑摩書房
 
Ⅳ.まとめ
普段何気なく使っている割り箸。実はその9割以上が外国産のものだったのですか、誰もが知っていて、どこにでもある身近な存在の割り箸で、特に国産のものに私は注目してみました。調べを進めていくと、割り箸にも「利久箸」「天削箸」「卵中」などの種類があり、国産割り箸は残材や端材、間伐材を利
用しているエコ商品であり、薬品なども一切使用されていません。そして、使い捨てではあるけれど、リサイクルも可能なのです。割り箸を使うことが、森
林破壊やゴミの増加の問題などに直結しているわけではないのだということを知りました。

そこでアンケートを行ってみて、他の人が割り箸のことをどう考えているのかを知りたいと思いました。いただいた回答を見ると「MY箸ブーム」というわりには「割り箸はエコである」という人が多かったです。それでもNOと答える人が圧倒的でした。「割り箸は使い捨てだからもったいない」というのも正しい意見だと私は思います。けれども、国産割り箸の良さ、すなわち「その製造に関わって間伐が活発におこなわれるようになり、森は活性化されて森林が豊かになる」という点を、皆が理解していくことができれぱと思います。間伐材を使用する環境に優しい国産割り箸を私達が使うことは、「森林破壊」でも「環境汚染」でもないのだということを、もっと広くアピールする必要があるのではないかと思います。



吉野ヒノキの割り箸。秋葉原の箸勝本店で撮影(2008.9.11)

Ⅴ.感想
毎晩、毎晩遅くまで書いていて、正直とってもしんどかったです。それでもなんとか仕上げることができました。最後には大きな達成感を味わうことができて嬉しかったです。お忙しい中、工場見学をさせてくださった新屋箸製作所の新屋さん、アンケートに答えてくださった皆さん、電話で色々教えてくださった日本割り箸協会の方、ありがとうございました。そして最後に毎晩手伝ってくれた父や母に感謝します。


いかがだろう。とても行き届いた卒論だ。「毎晩、毎晩遅くまで書いていて、正直とってもしんどかったです」という感想には実感がこもっている。それにしても塚本さんの将来が楽しみだ。割り箸から垣間見える林業の実態や切り捨て間伐の現況、国内では木が余っているのに海外から輸入するという矛盾、山村の高齢化など、さまざまな問題を「割り箸」という切り口で鮮やかに提示している。

国産の割り箸は端材・間伐材の有効利用だからどんどん使うべきだ、という正論は、徐々に市民権を得つつあるが、外食産業などでは(品薄になってきた)中国割り箸を止めてもプラスチック箸に切り替えたりと、国産割り箸への代替があまり進んでいないのが現状である。環境にやさしく、しかも手触りや口当たりが良くて料理が美味しく食べられる吉野割り箸を、どんどんお使いください!

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2 コメント

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感服です!! (asunaro)
2012-04-03 23:07:58
凄いとしかいいようがないですね。塚本さんの思いが伝わり久しぶりに感激しました。もっと広く日本中の人達に読んでいただければ、環境保全についてもかなり変わってくるのでは。
将来はYoshinoheartプロジェクトに参画して頂きたいです。
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小中学生の目線で (tetsuda)
2012-04-06 06:27:32
これはこれはOH先輩、コメント有り難うございました。

> 塚本さんの思いが伝わり久しぶりに感激しました。もっと広く日本中の人
> 達に読んでいただければ、環境保全についてもかなり変わってくるのでは。

全く驚きました。私の知らなかった情報も、掲載されていましたし。正しい情報は全国に伝えたいですね。

> 将来はYoshino Heartプロジェクトに参画して頂きたいです。

同感です。小中学生の目線で、林業振興による環境の保全をアピールしていただきたいと思います。
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