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よみがえれ、大和橘 絶滅の危機から再生へ!/奈良新聞「明風清音」第95回

2023年10月30日 | 明風清音(奈良新聞)
奈良新聞「明風清音」欄に月1~2回、寄稿している。今月(2023.10.19付)掲載されたのは「なら橘プロジェクト」、なら橘プロジェクト代表・城健治さんのお話である。
※トップ写真は城健治さん(10/2撮影)。城さんが手にするのは大和橘の葉っぱで、
容器に入れて熱湯を注ぎ、蓋をして20分経つと美味しいハーブティーが出来上がる

日本の固有種である大和橘(やまとたちばな)は、様々な薬効や機能性成分を持つスグレモノだが、生産が追いつかないのが悩みの種だ。大規模な計画的栽培に乗り出してくれる人はいないだろうかと、奈良新聞にこの原稿を書いた。心ある人は、ぜひご協力いただきたい。

なら橘プロジェクト
10月2日(月)、なら橘プロジェクト代表・城健治(じょう・けんじ)さんのお話をお聞きする機会に恵まれた。演題は「よみがえれ、大和橘(やまとたちばな)絶滅の危機から再生へ!」だった。

いただいた名刺の裏には〈大和橘は、かつて日本に自生していた直径3㌢ほどの小さな実で日本の固有種で柑橘(かんきつ)の原種です。『古事記』『万葉集』にも登場するほど古くから存在するものです。垂仁天皇の勅命で、菓子の祖、田道間守(たじまもり)が常世(とこよ)の国から不老長寿の妙薬として大和橘を持ち帰ったとされています。なら橘プロジェクトはゆかりの深い奈良で大和橘を守り広げるために植樹、研究、加工しています〉。

『万葉集』には、橘を詠んだ歌が約70首もあるそうだ。私は田道間守の伝説は知っていたが、「常世の国から持ち帰った」ということなので、中国原産の植物だと勘違いしていた。日本の固有種だったとは驚きだ。 
 
戦前は静岡県から九州の海辺にたくさん自生していたが、炭焼きの材料として伐採されたようだ。三重県鳥羽市答志島の桃取地区には今も自生の大和橘があり、同県の天然記念物に指定されている。

大和橘のデザインは、文化勲章や500円硬貨(裏=数字が刻まれている面)にも使われている。しかし「生息条件の変化によっては、より危険度の高い絶滅危惧に移行する可能性のある種」として、準絶滅危惧種に指定されている。

城さんと大和橘の出会いは、平成23(2011)年。「地元の土産物を作ろう」という大和郡山市商工会の呼びかけで、「産官学金」約20人のメンバーが結集した。当時、奈良信用金庫常務理事だった城さんも、このプロジェクトに参加。しかし、クッキーなど平凡なアイデアしか浮かんでこない。

その時、同市に本社を構える「本家菊屋」社長の菊岡洋之さんが「大和橘を使ってはどうか」と提案。しかし他のメンバーは当時、誰も大和橘のことを知らなかったという。

調べてみると、廣瀬大社(北葛城郡河合町)に5本の大和橘の木があることが分かった。同大社の社紋も、大和橘だった。11月末、たくさんの実をつけた大和橘を目にして、宮司に経緯を話すと、「どんどん持っていってください」。そこで平成24(2012)年、約30人のメンバーで、「なら橘プロジェクト推進協議会」を設立した。



城さんが配布された資料のひとコマ

大和橘の機能性成分を調べてもらうと、果皮には温州ミカンの約20倍のノビレチン(認知症予防・改善効果など)、約40倍のタンゲレチン(抗酸化作用など)が含まれていることが判明した。また香りには、柑橘香だけではなく、スズランの香り成分が含まれていることも分かった。また大和橘には酸味だけではなく、上品な苦味が含まれていることも特徴で、料理に使うと味が引き立つという。

そんな大和橘は評判が評判を呼び、化粧品、香水、医薬品だけではなく、お菓子や調味料、ジンやビールなどの食品にも応用が広がっている。中でも大和蒸留所の橘花(きっか)ジンは、大ヒット商品となった。

城代表は「大和橘を庭に1本植樹して、歴史と文化を身近に感じていただきたい。毎年春には、苗木を当会のウェブショップで販売している。日本の固有種、準絶滅危惧種の大和橘を世界に発信していきたい」と熱く語る。

奈良の宝である大和橘の育成と普及に、ぜひご支援・ご協力いただきたいと願う。(てつだ・のりお=奈良まほろばソムリエの会専務理事)


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