tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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“水源地の村”からの提言

2008年08月30日 | 林業・割り箸
8/27(水)、川上村の「森と水の源流館」が主催するシンポジウム「“水源地の村”からの提言『地域をいかす環境教育とは』」を聞きに行った。開催場所は、橿原市商工経済会館(橿原神宮駅東口)7階大ホールだった。
http://watashinomori.jp/news/2008/20080821_44.html

シンポは3部構成で、森林ジャーナリスト・田中淳夫氏の基調講演、学校関係者の報告、田中氏と辻谷達雄氏(森と水の源流館館長)との対談、と盛りだくさんだ。


冒頭で挨拶される川上村・大谷村長

私の目当ては、田中淳夫氏のお話であった。これまで田中氏の著書は何冊か拝読している。とりわけ07年5月に刊行された『割り箸はもったいない?』(ちくま新書)は、胸がすく快著であった。「マイ箸」運動など「割り箸は森林破壊だ」という誤解を解くための材料が、ぎっしり詰まっている。
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480063649/

私も吉野杉の割り箸には以前から関心を持っていて、インターネット新聞に記事を書いたことがある。今は吉野の林業問題を考えるための端緒として、間伐材利用のことなどをリサーチしているところだ。
※割り箸鑑定団(JanJan)
http://www.news.janjan.jp/business/0404/0404082947/1.php

まず、田中氏の基調講演「吉野林業は 学びの“びっくり箱”」から印象に残ったフレーズを拾うと、
○植林(造林)の発祥地は吉野である。今も残る人工林には、樹齢400年の杉(慶長杉)があるが、最古のものは1501年という記録があり、世界最古といえるのではないか。

○この造林法を確立し、吉野林業中興の祖と仰がれるのが土倉庄三郎(どくら・しょうざぶろう 1840~1917)である。乱伐により国内の森林率が45%にまで低下していた明治時代、政府は「吉野に見習え」と指令したことで「土倉式造林法」は全国に広まった。おかげで現在、森林率は67%にまで回復している。
http://www.chiiki-dukuri-hyakka.or.jp/1_all/jirei/100furusato/html/furusato063.htm

○吉野林業の特徴は「密植・多間伐・少主伐」である。1haに1万本以上植えて間伐を繰り返し、100年後に1haあたり100本の大径木を伐る。この間伐材を商品化(床柱、足場用の丸太、三宝・割り箸 など)して収入源とするのが吉野林業の特徴であった。


田中氏の基調講演

○しかし現在、吉野の林業は低迷している。森を作ることには成功したが、林業が成り立たなくなった。森林蓄積は増えるが、間伐などの手入れが不十分で、山が荒れている。間伐材を利用した新商品の開発も怠り、植林→間伐・商品化→主伐→植林というサイクルが回らなくなっている。
※このシンポに関する田中氏のブログ記事
http://ikoma.cocolog-nifty.com/moritoinaka/2008/08/post_e46d.html

田中氏が師と仰ぐ辻谷氏との対談(森林放談)でも、鋭い指摘が続く。
○吉野の林業家に、林業が元気な他県の状況を伝えても聞き流すだけで、それを参考にしたり採り入れようとする気がない(逆に他県の人だと、すぐ現地に見に行って確かめようとする)。

○川上村は約20年前に「ホテル杉の湯」をオープンさせ、林業から観光へと舵を切ったようだが、ハコ物(ハード)ばかり作っても、ソフトがなければ観光客は1度来たら2度目は来ない(リピーターにならない)。

○手間暇かけて育てた吉野材は安売りすべきでなく、他県にはない特徴で高く売る工夫をすべきだ。例えば、木材1本ごとの歴史を調べ、文化やロマンを感じさせるとか…。


森林放談

吉野の林業が疲弊しているのは事実である。昔ながらの日本家屋が建たず、銘木や良質材へのニーズは減少している。山林経営の規模が小さく、ハウスメーカーが希望する大ロットでの出荷ができない。林道が整備されていないので、切り出しコストも高い。木が売れないので手入れもされず、放置されている森林が多い…。

辻谷氏は「材価(木材価格)が上がれば全て解決するのだが」という。中国やロシア材の供給減から材価はジワジワと上がってきているが、吉野材の伐り出しコストが回収できる価格にはほど遠い。多くの人手と時間を要する「土倉式造林法」は、もはや現代の林業には合っていないのではないか、とすら思える。

林業活性化の糸口が見えたというより、問題点が浮き彫りになった感のあるシンポジウムだった。入口(林業・木材供給側)に打開策が見つからないなら、出口(消費者・需要者側)を検討しなければならない。夏休みは終わったが、宿題はまだまだ山積している。

森林からのニッポン再生 (平凡社新書 (380))
田中 淳夫
平凡社

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4 コメント

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コラボ (tetsuda)
2008-09-04 05:02:39
タダアキさん、コメント有り難うございました。9/1、仕事がらみで川上村に行ってきました。高原の魚釣り場で、写真を撮ってきました。

> 和歌山や三重産の材を使っている事がほとんどだと聞いています。
> その中で、林業一等地の川上村の威信にかけて一つ本物の吉野杉で
> 割箸を作ろうではなかと動き始めました。

それは存じませんでした。私も今、割り箸を使って何かできないかと考えているところです。うまくコラボできれば良いですね。
返信する
吉野林業の可能性 (藤丸タダアキ)
2008-09-02 13:28:54
tetsudaさん 御無沙汰しています。
私の会社では現在、川上村の製箸業者と
山守の方とグループを作り、川上産の吉野杉の
割箸の製作に取り組んでいます。
 現在の吉野杉の割箸のほとんどが吉野市場で
仕入れられていますが、実際は和歌山や三重産
の材を使っている事がほとんどだと聞いています。
その中で、林業一等地の川上村の威信にかけて
一つ本物の吉野杉で割箸を作ろうではなかと
動き始めました。
 川上村の端材は他県産の端材よりも木目が細やか
であり、同じ大きさの端材から一つランクの上の
割箸が採れる事がわかりました。
 これから冬にかけて山守の方の仕事として
採算が合うように計算しながら取り組んでいく予定です。いずれ、ならまちの提携各店舗の協力の下に
ならまちに観光で訪れる方々が訪れる事によって
環境問題に取り組めるような企画を用意しています。
返信する
吉野材を使おう (tetsuda)
2008-08-31 09:03:58
南都さん、お忙しいのに鋭いコメントを有り難うございました。

> 行政は奈良県産木材を持続的サイクルで活用し続けられるよう
> 思い切った木造民家需要喚起の策を講じるべきでしょうね。

県産材を使った住宅への補助は、やっと奈良県が重い腰を上げました(近畿で最も遅い)が、対象は40戸程度で、補助も10~20万円、おカネは施主ではなく建築業者に入り、しかも募集期間はたったの11日間でした(すでに終了)。
http://www.pref.nara.jp/dd_aspx_menuid-5168.htm

> 地元産木材をしっかり使い、奈良の森林が今後も持続していけるよう
> 行政がそれなりの役割を担うべきでしょうね。そうすれば美しい街並み
> と森林再生が相互にリンクして日本のあるべきエコモデルにつながる

同感です。奈良の森林は民有林が多く、また持ち主も小規模で不在山主が多い、という特徴があります。ですから主伐はおろか間伐もままならず放置されているのです。県は山主の許可を得て無料で間伐をするサービスを始めましたが、なかなか追いついていない状況です。

一方、杉をどんどん伐採して中国に輸出までしている宮崎県は、奈良と違って林道が整備されているのでそれが可能なのですが、山の木を丸ごと皆伐していますので、いずれ行き詰まったり、山崩れなどの災害が起きる危険性があります。

大切に育てられた吉野材は、その価値を知って大切に使ってもらえるような手立てを講じなければなりません。
返信する
需要者側 (南都)
2008-08-31 08:20:52
最近は奈良町でも木造で格子造りのしっかりした民家が造られていますし、明日香、宇陀・榛原の方ではやはり大和造りのしっかりした民家も新築でも健在という印象です。
ただそれらの木造民家でしっかり奈良県木材を使っているのかどうかは分りませんが。。。
県材については補助も出るようですがもっと本格的に行政は奈良県産木材を持続的サイクルで活用し続けられるよう思い切った木造民家需要喚起の策を講じるべきでしょうね。(地区的には意匠ガイダンス、使用木材指定まで)
ナショナルブランドや他府県のハウスメーカーが残念ながら奈良県でも市場の大部分を占めてしまっているように思えます。結局は利益の大部分は東京に持っていかれるだけです。一定規模、水準以上では地元産木材をしっかり使い、奈良の森林が今後も持続していけるよう行政がそれなりの役割を担うべきでしょうね。
そうすれば美しい街並みと森林再生が相互にリンクして日本のあるべきエコモデルにつながるかもしれません。石化製品主体の生活から脱却することが望まれます。
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