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田中利典師の「チベット旅行記」(3)

2024年09月04日 | 田中利典師曰く
今日の「田中利典師曰く」は、「チベット旅行記」(3)(師のブログ 2016.9.2 付)、「仏教タイムス」に2006年に連載された旅行記(全9回)の3回目である。師は中国に併合されたチベットの現状を目にして、立ち尽くす…。では、以下に全文を紹介する。

「チベット旅行記」(3) 田中利典著述集を振り返る280902
10年前に綴ったチベット旅行記のその3です。

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「文化大革命とチベット国」
周知の如く、第二次大戦後、中国の侵攻によって、チベットは大中国併合される。そして漢人たちのチベット移入はあたかも大波が小舟を飲み込むが如く、怒濤のように押し寄せていった。その道程の初期には、凄まじい文化大革命の破壊活動がチベット全土を襲う。

中国本土でさえ、自国のあらゆる歴史・文化と文物を否定した文革の嵐である。まして異国のものなど、一顧だにされることなく、容赦のない打ち壊しが行われた。とりわけチベット人民の精神的支柱であった多くの仏教寺院は大法難ともいえる破壊の標的とされたのである。

近年、ようやく文革の災禍を顧みて、仏教寺院の復興に手がつけられつつある。とはいえ、デブン寺やガンデン寺、シガツェのシャル寺など、訪れた寺院のほとんどが未だにその凄まじい破壊の爪痕を残していた。それは単に建物の破壊ではない。ダライ・ラマ14世をはじめ、文革の難を避け、高僧たちの多くが故国を捨て、亡命せざるを得ない状況を生み、チベット仏教は風前の灯火と化したのである。

今回の訪問では幸いセラ寺のチャンバイワンジェイ長老など今もチベット本土で中国政府の理不尽な弾圧にも負けることなく、活躍されている高僧たちとの邂逅を得て深い感銘を受けた。

しかし多くの寺院で出会った覇気のない若い僧侶たちの面容には、ポタラ宮同様に、文革の大いなる爪痕を感じさせる悲哀があった。せめてもの救いは、参観中、至る所で目撃した真摯な巡礼者たちの祈りの姿だった。中国はいよいよチベット侵攻を進めている。私はこの国とこの国の人民を憂い、しばし立ちつくしていた。

※仏教タイムス2006年9月掲載「チベット旅行記」より
※写真はチベットでお会いしたセラ寺の住持チャンバイワンジェイ長老。ここ10年の混乱で長老の安否が心配である。
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