金峯山寺長臈(ちょうろう)田中利典師の「宇宙飛行士と山伏」(全5回)を追っかけている。師は2007年12月13日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)主催「宇宙ことづくりフォーラム大阪講演会」で、「山に伏し野に伏す修験道の世界 宇宙飛行士と山伏修行」という講演をされた。
※トップ写真は、吉野山・吉野水分神社の桜(2023.3.31撮影)
講演録は残っていないがこのあと、JAXA理事の小林智之氏から公式サイト用のインタビュー取材を受けられ、師はその内容を5回に分けてご自身のブログにアップされた。最終回となる第5回のタイトルは「宇宙とどうつきあっていくか」。今回のインタビューで小林理事は、立花隆著『宇宙からの帰還』(中公文庫)に触れている。この本は私も読み、感銘を受けた。
BOOKデータベースには、〈宇宙から地球を見る。この極めて特異な体験をした人間の内面には、いかなる変化がもたらされるのか。12名の宇宙飛行士の衝撃に満ちた内的体験を、卓越したインタビューにより鮮やかに描き出した著者の代表作。宇宙とは、地球とは、神とは、人間とは――。知的興奮と感動を呼ぶ、壮大な精神のドラマ〉とある。
利典師は〈(人類は宇宙や自然と)どう付き合っていくか、どう向き合うかを宇宙ステーションという地球外に出て、問い直すという視点を誰かが持たないといけない〉と説かれる。これは立花隆と共通した目のつけどころだ。では、全文を以下に紹介する。
「宇宙とどうつきあっていくか」ー宇宙飛行士と山伏⑤
~田中利典著述を振り返るH28.1.7
小林:先生が最初、ことを起こすという点で4つの点を挙げられました。無私である、理念を作る、人とのつながり、時代とマッチする。今の宇宙開発というのは、実はこの無私というところを忘れてしまって、国家の利益という視点から、例えば国威発揚なり、世界に比べて技術は圧倒的だぞというのを見せ付ける宇宙開発という側面もございます。
田中:宇宙開発は基本的に国と国との戦略的な意味の方が多かったのでしょう。大陸間弾道弾とかスターウォーズ計画とか。あの延長線ですよね。それははっきりとロシアやアメリカにはあったでしょうが、日本には他国を侵略するという考え方・手段が存在しない。
大東亜戦争に負けて、永久に戦争の放棄をしているわけですから。そういう意味で、宇宙開発に出て行く他国のような意味が基本的にないことになる。…まあ、本当はどこかにあるのかもしれないのでしょうけど。
小林:それは、ポリティカルなパワーバランスの中で、日本が位置づけられるポジションというのがあります。
田中:だからこそ、宇宙に出て行く意味を問い直さなければいけませんね。
小林:理念、日本の宇宙開発の理念を誰が語れるか。なかなか、先生、難しいですね。
田中:でも、たちまち問い直さなければいけないところに来ているのではないですか。これからは今までと違って、お金がない時代に入っていくでしょうから、どこに何のために使うかっていうのが問われてくる。今までのようにジャブジャブとは使えないので、より問われますよね。
小林:今の科学技術政策の中で、宇宙開発分野というのは、真ん中以下に位置していますね。8つの分野があったとしたら、5番目くらいだと。今の位置づけでは。それが必然性、必要性、価値、いろんな面から今の時代に生きる人間の目から見て、宇宙開発ってこんなもんだなという評価が全てに成らざるを得ない、というつらい側面もございます。
こういった観点から、無私で、理念があって、人とのつながりに非常に重要な役割を果たせて、いわゆる人間の精神を考える場として活かせるというのが、今存在する宇宙開発の施設とすれば、宇宙ステーションしかない。ただ、あそこに残念ながら中国は入っておりません。
これからどうくるかは、ポリティカルな面があってよくわからないのですが、今の話を伺いまして、今軌道上にあって、この3月・4月で日本の施設が取り付けられる。これが最後の質問になるのですが、国際宇宙ステーション計画、そして今度日本の暮らせる施設が軌同上にある、存在する、これに対して、先生ご自身、どのような意味なり、価値があるとお考えですか。
田中:専門的なことはわからないですけど、私の言えることがあるとすると、先ほどから述べてきたスタンスの問題で、宇宙とどうつきあっていくか、自然とどう向き合っていくかということ。これが人類の、これからの最大の課題かもしれません。
どう付き合っていくか、どう向き合うかを宇宙ステーションという地球外に出て、問い直すという視点を誰かが持たないといけないという気がします。
実験もよろしいし、医療の開発も結構ですし、最先端の技術をさらに宇宙の真空の中でやるということは素晴らしいことですが、私が思うのは、地球環境問題にしろ、宇宙全体の問題にしろ、それとどう人間が向き合っていくのか、付き合っていくのかが大切だということ。
先の講演の最後に申し上げた人間の霊性というか宗教観というか、そういう問題にも関わる視野も入れて、ですね。それを問うということにおいて、あの宇宙ステーションというシチュエーションは面白いところだと思います。
小林:そうですね。地球の外に出て、人間が宇宙とどう付き合っていくのか。先生のお話の中の宇宙というのは、自然の1つという点でございますね。わかりました。
田中:あまり役に立たない話ばかりでしたね。
小林:今日のインタビューは、昔、立花隆さんが宇宙飛行士にインタビューされた著作物があるのですが、全く違った視点から、田中先生の今なさっている仕事に立脚して、JAXA、そして国際宇宙ステーションはこうあるべきだという話を初めて広く皆に伝えることができる話を伺えたと思います。先生、本当にお時間をとっていただいてありがとうございました。
~JAXA(宇航空研究開発機構)宇宙ことづくりプログラムインタビュー(2008年2月)より(インタビュアー:JAXA理事 小林智之氏)
****************
7年前のインタビューですが、自分ながらなかなかいいお話だったと思います。あいかわらずの、自画自賛・我田引水ですが…(^_^;)
実は、昨日も少し書きましたが、JAXAの私の講演は関係者に馬鹿受けして、その中の加納さんという理事は、三日三晩かかって「田中利典を宇宙に飛ばしてなにを感じるか、体験させよう」というレポートを書き、理事長に提出されたそうです。もちろん理事長さまの神判断で「一宗教団体の役員を国のお金で宇宙飛行士には出来ない」と却下されたという後日談までありました。笑い話ですが、加納さんはマジだったそうです。
いま、日本の宇宙開発は活発に進展していますが、JAXAにもいろんな方がいて、頼もしいですね。私にとってもとても思い出深い講演と、取材インタビューでした。JAXAの公式ページからいつの間にか削除されたのが残念です。長い記事を最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
※トップ写真は、吉野山・吉野水分神社の桜(2023.3.31撮影)
講演録は残っていないがこのあと、JAXA理事の小林智之氏から公式サイト用のインタビュー取材を受けられ、師はその内容を5回に分けてご自身のブログにアップされた。最終回となる第5回のタイトルは「宇宙とどうつきあっていくか」。今回のインタビューで小林理事は、立花隆著『宇宙からの帰還』(中公文庫)に触れている。この本は私も読み、感銘を受けた。
BOOKデータベースには、〈宇宙から地球を見る。この極めて特異な体験をした人間の内面には、いかなる変化がもたらされるのか。12名の宇宙飛行士の衝撃に満ちた内的体験を、卓越したインタビューにより鮮やかに描き出した著者の代表作。宇宙とは、地球とは、神とは、人間とは――。知的興奮と感動を呼ぶ、壮大な精神のドラマ〉とある。
利典師は〈(人類は宇宙や自然と)どう付き合っていくか、どう向き合うかを宇宙ステーションという地球外に出て、問い直すという視点を誰かが持たないといけない〉と説かれる。これは立花隆と共通した目のつけどころだ。では、全文を以下に紹介する。
「宇宙とどうつきあっていくか」ー宇宙飛行士と山伏⑤
~田中利典著述を振り返るH28.1.7
小林:先生が最初、ことを起こすという点で4つの点を挙げられました。無私である、理念を作る、人とのつながり、時代とマッチする。今の宇宙開発というのは、実はこの無私というところを忘れてしまって、国家の利益という視点から、例えば国威発揚なり、世界に比べて技術は圧倒的だぞというのを見せ付ける宇宙開発という側面もございます。
田中:宇宙開発は基本的に国と国との戦略的な意味の方が多かったのでしょう。大陸間弾道弾とかスターウォーズ計画とか。あの延長線ですよね。それははっきりとロシアやアメリカにはあったでしょうが、日本には他国を侵略するという考え方・手段が存在しない。
大東亜戦争に負けて、永久に戦争の放棄をしているわけですから。そういう意味で、宇宙開発に出て行く他国のような意味が基本的にないことになる。…まあ、本当はどこかにあるのかもしれないのでしょうけど。
小林:それは、ポリティカルなパワーバランスの中で、日本が位置づけられるポジションというのがあります。
田中:だからこそ、宇宙に出て行く意味を問い直さなければいけませんね。
小林:理念、日本の宇宙開発の理念を誰が語れるか。なかなか、先生、難しいですね。
田中:でも、たちまち問い直さなければいけないところに来ているのではないですか。これからは今までと違って、お金がない時代に入っていくでしょうから、どこに何のために使うかっていうのが問われてくる。今までのようにジャブジャブとは使えないので、より問われますよね。
小林:今の科学技術政策の中で、宇宙開発分野というのは、真ん中以下に位置していますね。8つの分野があったとしたら、5番目くらいだと。今の位置づけでは。それが必然性、必要性、価値、いろんな面から今の時代に生きる人間の目から見て、宇宙開発ってこんなもんだなという評価が全てに成らざるを得ない、というつらい側面もございます。
こういった観点から、無私で、理念があって、人とのつながりに非常に重要な役割を果たせて、いわゆる人間の精神を考える場として活かせるというのが、今存在する宇宙開発の施設とすれば、宇宙ステーションしかない。ただ、あそこに残念ながら中国は入っておりません。
これからどうくるかは、ポリティカルな面があってよくわからないのですが、今の話を伺いまして、今軌道上にあって、この3月・4月で日本の施設が取り付けられる。これが最後の質問になるのですが、国際宇宙ステーション計画、そして今度日本の暮らせる施設が軌同上にある、存在する、これに対して、先生ご自身、どのような意味なり、価値があるとお考えですか。
田中:専門的なことはわからないですけど、私の言えることがあるとすると、先ほどから述べてきたスタンスの問題で、宇宙とどうつきあっていくか、自然とどう向き合っていくかということ。これが人類の、これからの最大の課題かもしれません。
どう付き合っていくか、どう向き合うかを宇宙ステーションという地球外に出て、問い直すという視点を誰かが持たないといけないという気がします。
実験もよろしいし、医療の開発も結構ですし、最先端の技術をさらに宇宙の真空の中でやるということは素晴らしいことですが、私が思うのは、地球環境問題にしろ、宇宙全体の問題にしろ、それとどう人間が向き合っていくのか、付き合っていくのかが大切だということ。
先の講演の最後に申し上げた人間の霊性というか宗教観というか、そういう問題にも関わる視野も入れて、ですね。それを問うということにおいて、あの宇宙ステーションというシチュエーションは面白いところだと思います。
小林:そうですね。地球の外に出て、人間が宇宙とどう付き合っていくのか。先生のお話の中の宇宙というのは、自然の1つという点でございますね。わかりました。
田中:あまり役に立たない話ばかりでしたね。
小林:今日のインタビューは、昔、立花隆さんが宇宙飛行士にインタビューされた著作物があるのですが、全く違った視点から、田中先生の今なさっている仕事に立脚して、JAXA、そして国際宇宙ステーションはこうあるべきだという話を初めて広く皆に伝えることができる話を伺えたと思います。先生、本当にお時間をとっていただいてありがとうございました。
~JAXA(宇航空研究開発機構)宇宙ことづくりプログラムインタビュー(2008年2月)より(インタビュアー:JAXA理事 小林智之氏)
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7年前のインタビューですが、自分ながらなかなかいいお話だったと思います。あいかわらずの、自画自賛・我田引水ですが…(^_^;)
実は、昨日も少し書きましたが、JAXAの私の講演は関係者に馬鹿受けして、その中の加納さんという理事は、三日三晩かかって「田中利典を宇宙に飛ばしてなにを感じるか、体験させよう」というレポートを書き、理事長に提出されたそうです。もちろん理事長さまの神判断で「一宗教団体の役員を国のお金で宇宙飛行士には出来ない」と却下されたという後日談までありました。笑い話ですが、加納さんはマジだったそうです。
いま、日本の宇宙開発は活発に進展していますが、JAXAにもいろんな方がいて、頼もしいですね。私にとってもとても思い出深い講演と、取材インタビューでした。JAXAの公式ページからいつの間にか削除されたのが残念です。長い記事を最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。