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田中利典師「宇宙飛行士と山伏」(1)修験道という前近代的なものから学ぶ

2023年04月08日 | 田中利典師曰く
田中利典師を追っかけるシリーズ、今日からは「宇宙飛行士と山伏」(全5回)だ。金峯山寺長臈(ちょうろう)田中利典師は2007年12月13日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)主催の「宇宙ことづくりフォーラム大阪講演会」で、「山に伏し野に伏す修験道の世界~宇宙飛行士と山伏修行~」という講演をされた。
※トップ写真は、吉野山の桜(2023.3.28撮影)

講演録は残っていないがこのあと、JAXA理事の小林智之氏から公式サイト用のインタビュー取材を受けられ、師はその内容を5回に分けてご自身のブログ「山人のあるがままに」に、アップされた。ヨソでは聞けない貴重な話なので今日からは、これを追っかけて紹介することにしたい。初回のタイトルは「気づきを共有しあうこと」。師のブログ(2016.1.1付)から全文を抜粋する。

「気づきを共有しあうこと」ー宇宙飛行士と山伏①
~田中利典著述を振り返るH28.01.01

明けましておめでとうございます。今年最初の著述を振り返るのは、私にとって記念すべきJAXA(宇宙航空研究開発機構)での講演会に続く公式サイトでのインタビュー記事からの抜粋です。もう8年前の記事ですが、自画自賛ながらなかなか読ませます。今回はその第1回。もうJAXAの公式サイトでの削除されているようで探せませんから、それなりに貴重ですよ。

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小林:田中利典先生が現在取り組んでいらっしゃる大きな仕事なりを教えていただけますでしょうか。

田中:現在の(当時:著者注)普段の私の仕事は寺と、宗門の、いわば統括管理職です。それが主たる仕事で、後は実家が祈願寺なので自坊の住職もしていますが、もう10数年に及ぶ単身赴任中でして、自坊はいわば開店休業中というひどい状態です(笑)。主たる仕事が寺内の管理なので、事務ワークもしています。ただ宗務総長というと宗外、寺外に向けての広報というか渉外活動も担っていて、これもやってます。

この渉外活動という辺りが今の私にとっては重要な活動と位置づけていて、外に向けての活動を行うことで、色んな人々や運動と繋がって行ったように思います。結果、自虐的にいうと、お坊さんをしてんのか、吉野の宣伝マンをしてんのか、自分でもよく解らないようなことになっていますが…(笑)。

寺の歴代の総長…私と同じお役になった人たちが、みんな同じようにやっていたかと言うと、全くそうでは無くて、やはり今の時代性とか、私を応援してくれる人達との関わりとかで、そういった広報的な活動の場がたくさん与えられたのだと思っています。それは誰でも与えられるわけではない分だけ、大変有り難い事だと自覚して積極的にやっています。

今回のJAXAさんからの講演依頼にしても、普通では考えられないようなお話だけに、厚かましくも出向させていただいたわけでして、不思議なご縁ですよね。

私の話は、基本的には私の所属する吉野修験の紹介というか、外の方々に向けてのご案内といった事ですが、ただ、単に吉野とか金峯山寺を紹介するだけではなくて、その活動を通じて修験道全体の価値観のような、そういった物の位置付けが段々と広がって行けばという思いがあります。

先のJAXAの大阪講演の際にも申し上げましたように、現代社会が持っている色々な問題というか、歪みというか、そういう物を解く鍵が、修験の修行の中にあると私は思っているので、現代の歪とか現代の行き詰まりを、修験を語る中で見て行く事が出来ればと願っているのです。

具体的には吉野大峯のユネスコ世界遺産の登録活動とか、修験道の中での各教団との連帯協議とか、そういった事がここ数年で実績として出来てきたのですが、今の私はもうちょっと先も望んでいます。

それは今までの活動というのは結果的には、ちょっと大げさな言い方なのですが、近代主義との戦いなのだと気づいたのです。近代との戦いを始めている…。こういうと格好よろしいな(笑)。

ところで、私達はもうすでに近代社会のたくさんの物を享受してきたじゃないですか。明治に新政府が発足して以降、日本でも近代が生まれました。やっぱりあの当時の日本としてはなんとしても近代を迎えざるを得なかった訳ですね。

あの時に近代を迎えていなければ、東南アジアや中国同様に欧米諸外国の植民地というような、もっと酷い歴史にこの国もなっていたのかも知れないので、近代を迎えた事は大変意味があったわけで、決して全部悪い訳では無いのですが、でも近代を迎えて、それが全部良かったかというと、実はそういう訳でも無いという事が、近頃ヨーロッパ社会でもボツボツ出てきていて、19世紀以前に戻ろうという運動も有るようだと聞いています。

ですから、近代がもたらした良いところと悪いところをきちんと見ていなければいけない。今まではややもすると、近代が全部善だというような幻想があったように思いますが、そういう価値観を見直す必要があって、ではその近代の悪いところをどう近代以降、次のポスト近代で見ていくかというのが、今世紀の課題であり、人類の将来に対する課題だと私は思っているのです。地球環境問題もしかり、です。

産業革命以降、近代社会が発達すればするほど、物質文明が発展して、その結果、地球環境を破壊していったというのはもう間違いないわけですから…。それをどう解決つけるか、そのツケが20世紀以降、回ってきている。

そうすると、今言いました近代の幻想…近代がもたらしたものが全部優等であるというのではなくて、近代もよいところがあったけれども、悪いこともある。それをふまえるのが現代社会の課題だと思うのですよね。その答えはまだ誰も用意できていない。

そういうところで、修験という前近代的なものが抱え続いてきているものの中に答えのヒントが残されている、というのが、私が対外的な活動をする現在の帰着点なのです。そこをどう活かすかを模索しつつ、たくさんの人に知っていただく機会を作っていきたいと思っております。

吉野大峯のユネスコ世界遺産登録のときは、世界遺産登録を通じてそういう、修験の持っている価値観を訴えてきました。その後、世界遺産も一段落して、次のステップとして、事業というか、今どんな取り組みをしているのかといえば、実は具体的にはまだないのです…。

ただ、幸い、たとえば明日も奈良県下の某高校と大学の公開講座で呼ばれているんですよね、1日2つも。そういう依頼が続いている限りは、世間に対して申し上げる場所があるので、私なりにお話をしながら、今後も皆と共有できるものを目指していきたいと思っています。

でも最終的に世の中を変えたり、世の中を支えていくのは、人と人との気づき合いですね。何も気づかないで生きているほうが楽なことがたくさんありますが、それですと何も生まないし、何も生まれない。気づきを共有しあうこと、自分の気づいたものは人に伝え、人に伝える中で、また自分自身新しい気づきを与えていただける。そういうことを目指して、活動というか今の取り組みを行ってます。

~JAXA(宇航空研究開発機構)宇宙ことづくりプログラムインタビュー(2008年2月)より(インタビュアー:JAXA理事 小林智之氏)
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