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銀行員からお坊さんへ鮮やかな転身!大安寺副住職・河野裕韶(ゆうしょう)さん/奈良新聞「明風清音」第84回

2023年01月31日 | 明風清音(奈良新聞)
毎月1~2回、奈良新聞「明風清音」欄に寄稿している。先週(2023.1.26)掲載されたのは〈大安寺 愛と葛藤の日々〉、大安寺副住職・河野裕韶さんの著作『癌封じの寺 大安寺の365日』の紹介だった。南都七大寺の一つ、大安寺の一人娘・河野文香さんと恋愛して婿入りされた裕韶さんの姿が活写されていて、興味が尽きない。以下に全文を紹介する。
※トップ写真は、奈良新聞(2022.3.31付)から拝借した

大安寺副住職・河野裕韶(ゆうしょう)さんの著作『癌封じの寺 大安寺の365日』(西日本出版社刊 税別1500円)を興味深く読み終えた。裕韶さんはもと南都銀行生駒支店勤務。そこで大安寺・河野良文貫主(住職)の一人娘だった文香さんと知り合い交際・婚約、出家得度して婿入りされた。この時は行内で話題になったことを今もよく覚えている。

大阪市淀川区のサラリーマン家庭で生まれ育ち、3年半の銀行勤務を経て仏門に入ったシティボーイは、何をどう感じ、どんな葛藤を経て古刹のお坊さんになったのか、本書からかいつまんで紹介したい。

▼奈良も「関西」だった
裕韶さんは銀行志望として就活を続けていたが、メガバンクも関西の地方銀行も、なかなか内定には至らない。そんなある日、面接会場で隣り合った女子大生が南都銀行のエントリーシートを持っていた。「どこの銀行だろう」と興味を持ち、調べてみると奈良の地銀だった。

「そうか、奈良も関西なのに眼中になかったな」と気づき、早速シートを取り寄せて速達で郵送した。面接も全く緊張せず流暢に話し、無事に内定を得た。



この写真は、奈良新聞(2022.12.20付)から拝借した

▼社会経験をお寺で活かす
約2年間の交際期間を経て、結婚を考えるようになる。しかし寺に婿入りするとはどういうことなのか、皆目見当がつかない。思い切って貫主に相談すると、高野山専修学院(専学)で1年間修行をすると僧侶になれるということが分かった。

また「一般家庭や一般社会経験者の方が、これからの時代のお寺にとって良い面もあるのでは」との言葉にも背中を押され、25歳の秋に銀行に辞表を提出した。

▼辛かった「専学」での修行
退職後には出家得度の儀式を受け、頭も丸めた。専学には26歳の春に入学した。1学期はお経の読み方や法衣の着方、仏教の基礎を学び、2学期は加行(けぎょう)という本格的な修行、3学期は作法など実践的なことを学ぶ。

特に辛かったのは2学期の加行。1日3回、長い時は1回5時間ほど拝む。1日15時間拝み、その他の時間には準備、片付け、朝夕の勤行をするので、睡眠時間が2~3時間しか取れない日もあったという。

▼修行前と修行後の変化
〈体重が10㌔減りました、物欲がなくなりました、ポジティブな性格になりました、人前で緊張しなくなりました、全体的にメンタルが強くなった様に感じます。ちなみに体重はもう元に戻りました〉(本書より)。

▼奈良の良さは「人の良さ」
奈良には優しい人が多いという。〈奈良は神社仏閣が多く企業が少ないことになんとなく要因がある気がする。心の拠り所が多くあり、かつ物事を商業ベースで考えることに偏らないため、おおらかで優しい人が多いのではないだろうか〉。

▼変えるべきか否か
裕韶さんが婿入りされてから、大安寺では様々な変化が起きた。主なものだけでも「天平伽藍CG復元プロジェクト」とクラウドファンディング、特別展「大安寺のすべて」(奈良博)、「神仏酒合プロジェクト」、特別企画「大安寺の仏像」(東博)、「宝物殿の増改修工事」とクラウドファンディングなど。

しかし裕韶さんによると〈誤解されることが多いのだが、私は決して革新的な人間ではない。(中略)保守を基本スタンスとしながらも、残すべき伝統が時代の荒波に飲まれないよう、必要な変化を加えてやり、後世に伝える。これが本当の意味での伝統を守るということではないだろうか〉。

裕韶さんは今年35歳、前途は洋々だ。72歳の河野貫主に協力しながら、大安寺をかつての高みに引き上げていただきたいと願う。(てつだ・のりお=奈良まほろばソムリエの会専務理事)


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