tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

「御墳印」で、奈良の古墳をPRしよう!/観光地奈良の勝ち残り戦略(135)

2023年08月27日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
NPO 法人「スマート観光推進機構」理事長の星乃勝さんから、こんな情報をいただいた。「御朱印」や「御城印(ごじょういん)」は聞いたことがあるが、最近は「御墳印(ごふんいん)」なるものも登場したそうだ。星乃さんは、
※トップ写真は、河合町が発行する「御墳印」

私が「御墳印帖」を見たのは、埼玉県行田市のブラタモリ(2023年7月15日)だった。今や〇〇印帳がブームだが、古墳を巡る「御墳印帖」のブームもじわりと始まっているようだ。全国の古墳が連携すれば大きな可能性に繋がる。著名な古墳は行ったことがあっても、著名ではない古墳は訪れる人も少ない。これをきっかけに大きなブームになって欲しいものだ。

奈良県内では河合町が2021年6月に4種類の「御墳印」と、地域の古墳を表紙にデザインした「御墳印帖」を製作、現在は御墳印を20種類まで増やしたそうだ。また上牧町、王寺町、広陵町にも呼びかけ、今年4月からは3町でも独自の御墳印を発行しているという。これについては、産経新聞(8/23付)が詳しく報じている。記事全文を紹介すると、

古墳めぐりで「御墳印」ブームじわり 郷土愛も育み全国へ波及
寺社を巡り授かる「御朱印」ならぬ、古墳を訪れて集める「御墳印」が広がりを見せている。名古屋市内の古墳紹介施設が令和2年に始めた取り組みだが、人気ぶりを受け、独自の御墳印を発行する自治体も出てきた。新たな観光誘客とともに、地域住民らに地元の歴史遺産を再認識してもらうことで、郷土愛の育成にもつなげたい考えだ。

御墳印を初めて発行したのは、名古屋市の「体感!しだみ古墳群ミュージアム」。令和2年9月、「尾張三大古墳」と呼ばれる白鳥塚(名古屋市守山区)と断夫山(だんぷさん)(同市熱田区)、青塚(愛知県犬山市)の各古墳の管理者と協力し、それぞれの古墳の御墳印を出した。松井致也子館長らが、御朱印と並び全国の城好きたちの間でブームになっていた「御城印」をヒントに、思いついた。

屋外で楽しめる古墳巡り
はがきサイズで、古墳名ともに各古墳の形状や出土品などをイメージした印をプリントし、ミュージアムと各古墳近くで1枚300円で販売。松井館長は「新型コロナウイルス禍で観光客が減る中で、古墳巡りは屋外で楽しめるため、たちまち評判になりました」と振り返る。

これに着目したのが、奈良県河合町だ。町内には4~6世紀の古墳が約60基点在し、有力豪族が被葬者とみられる大塚山やナガレ山など全長100メートル以上の古墳も8基ある。

3年6月に第1弾として4種類の御墳印と、地域の古墳を表紙にデザインした御墳印帖を製作。町内の書家や篆刻(てんこく)家も協力し、現在は御墳印を20種類まで増やした。対象となる町内の古墳を訪れて写真に撮影し、画像を町中央公民館で提示すると1枚100円で交付される。



「御墳印」の収集で古墳を巡る親子=奈良県河合町のナガレ山古墳

町の担当者は「見過ごされがちな歴史遺産を地域の人に再認識してもらい、郷土愛を育む目的もある」と説明。同町山坊(やまのぼう)の主婦、服部和揮子さん(46)も「御墳印の収集が趣味となり、小学生の子供2人と町内の古墳巡りを楽しんでいます。町の成り立ちに思いをはせるきっかけにもなった」と笑顔を見せる。

岡山や埼玉でも
河合町は、同じ北葛城郡内の上牧、王寺、広陵の各町に呼びかけ、今年4月からは3町でも独自の御墳印を発行。御墳印に関連する郡内の古墳や史跡を紹介する共通の「ほっかつ(北葛)御墳印帖マップ」も作製した。さらに各町のイメージキャラクターを表紙にあしらったオリジナルの御墳印帖も発行し、王寺町の担当者は「周辺エリアが協力して御墳印の普及を盛り上げていきたい」と意気込む。

一方、岡山県では「桃太郎伝説」ゆかりの岡山、倉敷、総社、赤磐の4市でつくる協議会が、全長350メートルで全国4位の規模を誇る造山(つくりやま)古墳(岡山市)や、墳丘の円状列石が有名な楯築(たてつき)遺跡(倉敷市)など県内7古墳(遺跡)にちなんだ御墳印を作り、各古墳に近い5施設で無料で押せるようにした。埼玉県では6月から行田市を中心に県内7市町で22種類の御墳印を1枚300円で販売している。

松井館長は「愛知から広がった取り組みが全国に普及するのは大歓迎。今後は各地で連携して古墳の周遊観光の拡大につながれば」と期待を寄せた。(西家尚彦)
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ポストコロナの観光は奈良・和歌山・三重の「広域周遊観光」! by 秋山利隆さん(南都経済研究所 主任研究員)/観光地奈良の勝ち残り戦略(134)

2022年08月17日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
久々の「観光地奈良の勝ち残り戦略」である。一般財団法人「南都経済研究所」の『ナント経済月報』(2022年8月号)に、主任研究員・秋山利隆さんの「奈良県の広域周遊観光促進に向けた提言」が掲載されていた。
※トップ写真は熊野古道・大門坂。写真はすべて私が撮影した

これは副題に「計量テキスト分析を活用したアプローチ」とあるとおり、秋山さんお得意の緻密なデータ分析に裏付けされた県観光振興のための貴重な提言である。全文は、こちら(PDF)に掲載されている。10ページにもわたる提言書を安易に要約して紹介することは避けたいが、私の感想を交えてざっくり言い換えると、以下のようなこととなろう。


十津川村・果無(はてなし)集落

これまで奈良市など県北部エリアは「近すぎて泊まってくれない」「お土産を買ってくれない(観光消費単価が低い)」、県南部は「遠いので観光客が来てくれない」と嘆いていた。北部は大阪や京都に近いので、「大阪・京都に泊まり、奈良は日帰りする」という人が多いのである。日帰りだから、お土産もあまり買ってくれない。そこで秋山さんが提案するのは、「奈良県中南部と和歌山県・三重県との周遊観光の促進」だ。秋山さんによると、

(P18)県中南部地域および隣接する和歌山県、三重県は奈良市とは異なる観光資源にあふれており、観光のバリエーションは広がる。さらに和歌山県、三重県を含む広域周遊観光は、奈良県の地方創生・地域活性化という面でも、奈良市周辺部の観光に比べて宿泊を伴う可能性が高い分、経済効果が大きい。


十津川村・玉置山からの眺望

世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」(2004年7月登録)を考えてみよう。「吉野・大峯」、「熊野三山」、「高野山」という3つの「霊場」とそれらを結ぶ「参詣道」が世界遺産登録されたものだ。この世界遺産登録は、和歌山県や三重県の入込客数増加に大きく貢献しているが、残念ながら奈良県では、目に見えた効果は上がっていない。

私(鉄田)は以前、奈良市→京奈和自動車道・紀北かつらぎIC→高野山→野迫川村(泊)→龍神温泉(田辺市龍神村)、というルートをマイカーで往復したことがあるが、北部に住む奈良県民は、あまりこのようなルートを思いつかないようだ。田辺市まで来れば、そこから熊野三山をめざすという手もあるし、ここには日本最古級の温泉・湯の峰温泉もある。熊野からは伊勢神宮を経由して奈良に戻るのも良い。秋山さんによれば、


おはらい町(伊勢内宮周辺)

(P25)交通アクセスに関する情報発信
広域周遊観光の交通手段は主に自家用車やレンタカーであるが、遠方からの観光客にとって紀伊半島の山道運転への心理的抵抗は大きい。実際はこの3県を周遊する主要道路はほとんどが片側1車線以上に整備されており、冬場を除き運転には支障がない。その点を広くPRすることが、旅行先として選ばれる意外な要素になるかもしれない。


参詣道周辺エリアにおける民間企業の取り組みとして、秋山さんが注目するのは町宿「SEN.RETREAT」を展開する株式会社日本ユニスト(大阪市)のプロジェクトだ。

(同)自治体の垣根を越えた取組み
民間企業の取組みとしては、株式会社日本ユニスト(大阪市)が熊野古道の参詣道「中辺路」沿いに地方創生を理念とした町宿「SEN.RETREAT」をつくるプロジェクトが興味深い。中辺路は巡礼に4~5日間を要する長距離ルートで、宿泊施設の不足が課題となっていたが、同ブランドの宿が道中に4か所できることで、巡礼者の利便性は改善される。宿はすべて和歌山県内であるが、熊野古道(熊野参詣道)沿いを意識したもので和歌山県に限定した取組みではない。

また、同社の取組みで特筆すべきは地方創生へのこだわりであろう。地元食材の提供や地域雇用の推進は、過疎地域で事業を継続していく上で重要な要素で、地域の観光拠点としての役割が期待される。民間企業のこのような取組みが、広域周遊観光促進の起爆剤になると思われる。


全10ページの論文は、秋山さんのこんな言葉で締めくくられている。

広域周遊観光はポストコロナの観光のキーワードの一つで、奈良県観光の質を高める重要なコンテンツである。本稿がこれまでの観光振興に一石を投じる提言になれば幸甚である。

国も自治体も民間も、奈良県を北から眺めているから、なかなかこのような発想が出てこない。野迫川村は田辺市と境を接している。十津川村は新宮市と、下北山村は熊野市と、上北山村は尾鷲市とそれぞれ境を接している。県境を越えた柔軟な発想で、質の高い観光プランを考えよう!

(追記1.)8/17この記事をアップしたあと、どうも「(図表3)奈良県来訪者の発地割合(2019年)」(P18)の数字が気になった。これは奈良県内で1泊以上宿泊した観光客がどこから来たかを調べたものである(2019年 奈良県観光客動態調査)。そこには〈発地割合は、関東(36%)、中部(25%)、近畿(15%)の順で、関東からが最も多い〉とある。



私は来月(2022年9月)東京圏の奈良ファン向けに、東京・新橋の「奈良まほろば館」で、「吉野山の謎」と「お伊勢参りと熊野詣」という各90分の講演をする予定であるが(東京都民の発地割合は16%と全国で最高だ)、気になったのは奈良県民の発地割合がわずか「1%」だったことだ。

県は過去に、十津川村に宿泊すれば路線バス運賃が半額になるというキャンペーンをしたことがあるし、今も「いまなら。キャンペーン2022プラス」(旅行商品の50%割引)を展開中だが、これはもっと県民にアピールして、県民には率先して県南部に泊まってもらわないといけない。

(追記2.)8/18「追記1.」をお読みになった読者から、こんなコメントをいただいた〈最後の追記の部分ですが、2019年に比べていまは県内の方が県内宿泊をして、リピーターも増えている話をよく伺っています。コロナ禍前と後ではまた県内の方の状況も変わってきてるかもしれないですね。いまならが県民の県内再発見に及ぼしたデータが出るのはまだ先かもしれませんが、リアルに実感するので、気になります〉。「いまなら。」の好影響が出ているのならそれは嬉しいことではあるが、一過性のもので終わらないことを祈りたい。
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「観光による地域活性化」by 南都経済研究所・秋山主任研究員/観光地奈良の勝ち残り戦略(133)

2020年09月16日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
力のこもったレポートを読んだ。一般財団法人南都経済研究所が発行する「ナント経済月報」(2020年9月号)に載った特集「観光振興を地域活性化につなげるための方策~奈良県観光の今後の方向性をデータ分析により考察~」で、執筆されたのは課長・主任研究員の秋山利隆さんだ(レポートの全文は、こちら)。10ページもの堂々たるレポートだが、最後の2ページ分が「まとめ」になっていて、これは親切だ。以下、「まとめ」から忠実に抜粋する格好で、レポートの要点を紹介しつつ(青字部分)、私もコメントをつけ加える(黒字部分)。

これまでの分析結果等をもとに、奈良県が目指すべき観光地としてのあり方について考察する。
まず前章の第一の方法「観光客数の増加」である。
「観光客数の増加」はコロナ前には三つの方法の中で最も達成が容易であったが、うまくいかなくなった時の痛手が大きく、また観光公害など地域の社会問題への配慮も必要となるだろう。

短期的な利益にとらわれず、地域における適正な観光客数の受け入れを目指すとともに、その数の範囲内で地域経済を効率よく活性化させる施策が求められる。


インバウンド需要を当て込んでオープンしたホテルが、コロナ禍で苦戦している。奈良市の東向商店街でも、ドラッグストアが次々と姿を消した。観光は「平和産業」と言われる。逆にいうと「有事」には弱い。事業計画は「バラ色」一色ではいけないのだ。

その方法が前章の第二、第三の方法である。まず第二の方法「観光消費単価の増加」である。観光消費単価は宿泊客であるか日帰り客であるかによって大きく変わる。これには宿泊費とともに夕食が大きく影響しており、宿泊客の増加とあわせ夜のイベントの開催が検討される所以である。

「奈良のナイトライフを充実させればよい」との考え方が一部にある。それも自然な意見ではあるが、夜の楽しみは観光客だけのものではなく、企業活動や日常生活における需要も取り込み成り立っている。奈良の経済規模を考えると大阪、京都のような賑わいを創出することは難しく、また観光客に依存すると宿泊施設と同様、有事に対して極めて脆弱となる。

奈良にとっては奈良らしさが強みである。奈良の文化・自然遺産に関心を持ち、「静けさ」「やすらぎ」といった価値観に共感してくれる観光客を大切にすることが、中長期的な視点から観光消費単価を増加させることにつながる。奈良は決して「小大阪」「小京都」になってはならないのである。


私は過去に7年間(1994~2001年)、京都市内(烏丸御池)の事業所で仕事をしていた。夜にはよく同僚と四条河原町などの飲食街に繰り出したものだが、そこで気づいたことがある。飲食街で飲み食いしている人は、観光客より京都市内で勤務する人たちのほうが、ずっと多いのだ。これは以前に金田充史さん(もと魚佐旅館専務)も指摘されていたことだ。奈良市内で勤務する人は多くない。奈良のナイトライフを充実させるには、奈良市民のパワーが足りないのである。

次に第三の方法「県内自給率の改善」について考える。観光地の宿泊施設において「地産地消」は最大のアピールポイントである。

全国の観光客にとって奈良に海がないことは周知の事実である。夕食に新鮮な魚介類を期待して奈良に来る人はまずいない。奈良ならではの山の幸や食文化に、県産のブランド野菜・肉、日本酒・クラフトビールなどを組み合わせて提供できれば、観光客を満足させるとともに、県内自給率を改善できる。

宿泊施設の売店では奈良の特産品である奈良晒(さらし)や木工製品等がまとめて展示され、地場産業としての歴史も説明されている。県外産品の代わりにここで販売されている土産物を観光客に購入してもらうことは、県内自給率の改善につながることはもちろん、観光客が土産物を使用する際、奈良の地場産業への思いを巡らすこととなり、新たな奈良ファンの創出にも役立つ。
 
その他、県内自給率の改善に資する取組として地域商社の設立、6次産業化などが考えられる。これらは国の地方創生への取組みと連動し、全国で進められているが、すぐに成果の出る取組ではない。官民協働でできるところからスタートさせ、観光振興に貢献し、地域経済の底上げを図っていければと考える。

マイケル・E・ポーターは、「ある特定の分野に属し、相互に関連した、企業と機関からなる地理的に近接した集団」をクラスターと定義している。クラスターでは、各産業が標準産業分類の枠を越えて技術、スキル、情報、マーケティング、顧客ニーズをもとにつながり、大きな競争力やイノベーションを生み出すという。

観光関連産業は各地域でクラスターを形成しているといえるが、今後はそのクラスターの競争力が観光地としての成功を左右するであろう。そして、その勝者はウィズコロナ、アフターコロナにおいて、観光客にこれまで以上の付加価値を提供し地域経済を牽引していくものと考える。 


以前、藻谷浩介氏をお招きして、奈良市内でシンポジウムを開催したことがある(2018.1.25)。藻谷氏は(あえて「地産地消」をひっくり返して)「地消地産が大事です」と強調された。観光客や地元民など、地域で消費されるものは地域内から調達する。分かりやすい例として「大阪のたこ焼きは地消地産になっていない。小麦粉はオーストラリア、タコはモロッコから調達している」。



レポートには、こんな表が登場する。「地域経済循環率」とは、生産(付加価値額)÷分配(所得)で、地域経済の自立度を示す。この値が高いほど自立度は高い。奈良市は85.9%で全国で46位にとどまっている。地域外に生産物を販売し収益を稼ぐ力が弱く、市民が地域外から稼いだ給料や国の交付金で地域経済が回っていることを表している。逆に工業の盛んな和歌山市は、124.8%で全国3位である。

秋山さんが観光について書く「県産のブランド野菜・肉、日本酒・クラフトビールなどを組み合わせて提供できれば、観光客を満足させるとともに、県内自給率を改善できる」は、まさにそのとおりである。

「観光関連産業は各地域でクラスターを形成しているといえるが、今後はそのクラスターの競争力が観光地としての成功を左右するであろう」もそのとおりである。同じ観光地内で業者同士がいがみ合っている場合ではない。行政と手を携えて、地域が一丸となって地域を盛り立てなければならない。

示唆に富んだレポートだった。秋山さん、今後ますますのご活躍を大いに期待しています!
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星野佳路氏がマイクロツーリズム(小さな国内旅行)を提唱/観光地奈良の勝ち残り戦略(132)

2020年07月14日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
日刊ゲンダイDIGITAL(2020/07/13 06:00公開)の「注目の人 直撃インタビュー」欄に星野リゾート代表・星野佳路(ほしの・よしはる)氏が登場していた。タイトルは「コロナと共生“マイクロツーリズム”で生き抜く」だ。全貌は末尾に掲載するが、ポイントは以下の通りだ。
※トップ写真は星野佳路氏、同記事から拝借した

・日本の観光業を牽引する経営者は、「3密対策」として独自に「マイクロツーリズム」(小さな旅行)を提唱、“近場の魅力”の再発見を訴えている。
・終息まで18カ月間程度と予測していますが、今後、第2波、第3波が来るたびに自粛、緩和、自粛、緩和が繰り返されます。緩和の時にどれくらい需要を取り戻せるかが、観光産業の勝負どころです。
・インバウンドを戻そうとするのではなく、国内旅行を戻すのが大事だと思っています。

・順序としては近場の観光地から旅行客は戻ってきます。そこで「マイクロツーリズム」という新しい商圏をつくるべきだと考えました。
・地方自治体が観光産業をサポートしようという動きも出ているので、マイクロツーリズム商圏を意識した観光産業側の戦略も大事になります。
・マイクロツーリズムを通じて、自分たちが住んでいる地域の周りには、こんなに面白くていい食材があることに気づいて欲しい。そしてプライドを持ってもらう。コロナが終わった後の日本の観光力を高める上で、すごく重要なことです。プライドを持つと、強い観光地になります。

・ある程度の観光需要がある状況をつくり、マイクロツーリズム商圏を意識できていれば、お互いに「観光しましょうよ」ということになります。9割の需要がなくなったら生き延びられませんが、3割減、4割減で済ませる方法をもっと意識して取り組むべきです。
・昔と違い、日本も製造業からサービス業までさまざまな産業があり、テレワークも普及しました。皆で一緒に休む必要もなく、先進国同様、休みを分散する。これがウィズコロナ時代を生き抜いていくひとつの方法だと思っています。

・(Go To キャンペーンは)マイクロツーリズム商圏を意識し、東京や大阪で感染が拡大していても、島根や鳥取など地方で使えるようにする方法もあります。9割の需要とはいかないまでも、首都圏や関西圏から旅行客が来なくても、地域同士だけで6、7割の需要があり、キャンペーンがあって助かったという活用の仕方もあります。
・今後は波を打って感染拡大と緩和の期間が来るので、それに合ったキャンペーンのあり方をもう一度考える必要があります。

・キャンペーンで観光需要を復活させるのではなく、キャンペーンの予算でコロナ期を生き延びるための下支えをしていく。自粛期でも困らないぐらいの需要をマイクロツーリズムでつくり上げる。
・9割減の波が2回も3回も来たら持ちません。4割減でも痛いですが、4割なくなっても仕事がある状況をつくる。第1波が落ち着いたころから、そっちに切り替えていった方がいいのではと思い始めました。


では、以下に全文を貼っておく。

新型コロナウイルスの感染拡大で、最も打撃を受けているのが観光業だ。4月、5月の訪日外国人数は2900人、1700人といずれも前年比99・9%減だった。昨年4~6月の国内旅行者数は延べ1億6000万人余と、春休み、GWは観光業にとって書き入れ時。だが今年は駅や空港、高速道路から旅行客の姿が消え、東京五輪は延期された。緊急事態宣言解除後のこれからが正念場だ。日本の観光業を牽引する経営者は、「3密対策」として独自に「マイクロツーリズム」(小さな旅行)を提唱、“近場の魅力”の再発見を訴えている。

――これまでと観光のあり方はどう変わりますか。
終息まで18カ月間程度と予測していますが、今後、第2波、第3波が来るたびに自粛、緩和、自粛、緩和が繰り返されます。緩和の時にどれくらい需要を取り戻せるかが、観光産業の勝負どころです。日本のインバウンドは4・8兆円、国内旅行27・9兆円の約17%です。日本人の海外旅行の代金は外国で使う費用を含めて約2・3兆円です。4・8兆円がなくなっても日本人の旅行が海外から国内にシフトすれば、2・3兆円戻ってきます。インバウンドを戻そうとするのではなく、国内旅行を戻すのが大事だと思っています。

◆7~8月の最初の緩和期が勝負
――コロナで仕事を失い、あるいは給料が下がり、感染が不安でとても旅行どころではないという人もいます。

どれくらいの方に安心して戻っていただけるか。それが最初の緩和期のこの7~8月です。まずやらなくてはいけないのが、3密回避です。安心、安全ではない旅行などあり得ません。観光地は十分に感染予防対策をやっているのか、顧客は気にしています。順序としては近場の観光地から旅行客は戻ってきます。そこで「マイクロツーリズム」という新しい商圏をつくるべきだと考えました。

日本人のアウトバウンド(海外旅行者数)は2000万人を超え、毎年、最高レベルの旅行に行っていたわけです。それに比べるとマイクロツーリズムは交通費が圧倒的に安い。1、2時間圏内の観光地に行くだけです。交通費を含めて考えると、旅行代金そのものが下がりますから、これまで1泊だったのが2泊したり、年に複数回行ったり、リピーターになるかもしれません。地方自治体が観光産業をサポートしようという動きも出ているので、マイクロツーリズム商圏を意識した観光産業側の戦略も大事になります。

――観光業が立ち直らなければ、地方経済に与えるダメージも大きい。
地方の魅力をその地域の方に再発見してもらう、いい機会だと思っています。高速道路や新幹線がどんどん延び、LCCが発達し、ここ20年、日本人は遠くに旅行に行こうとし過ぎていました。近くにも素晴らしい観光地がたくさんあるのに、近場の魅力を知らない人が多い。マイクロツーリズムを通じて、自分たちが住んでいる地域の周りには、こんなに面白くていい食材があることに気づいて欲しい。そしてプライドを持ってもらう。コロナが終わった後の日本の観光力を高める上で、すごく重要なことです。プライドを持つと、強い観光地になります。

――東京五輪に合わせて建設されたホテルも数多くあります。
東京は日本最大の観光地です。巨大な都市であり、多くの魅力があります。美術館、文化、スポーツイベント、劇場、芝居、すべて東京が中心です。インバウンドも増えていましたが、日本人にとっての観光地でもあったわけです。ですから国内の需要を東京に呼び込むべきだと思います。東京周辺には神奈川、千葉、埼玉など、大きな都市があります。人口が多く交通網も発展し、恵まれた場所なので、マイクロツーリズムをやるには一番いい。むしろ工夫がなくては乗り越えられないのは、もっと遠くの地方の観光地です。

◆地方の県境移動自粛は不必要な規制
――かつて誰も経験したことのないピンチに対し、どう対応するべきですか。

緊急事態宣言で分かったのは、感染者の拡大は都市圏に集中していて地方は心配するほど感染は拡大しませんでした。ですが全国一律に県をまたいだ移動を制限する、不必要な規制があったのではと感じています。例えば青森と岩手、秋田は県境を本当に閉める必要があったのか。

第2波、第3波が来た時の緊急事態宣言では、もう少しきめ細かくするべきです。一律で県境を閉じるのはやめて欲しい。ある程度の観光需要がある状況をつくり、マイクロツーリズム商圏を意識できていれば、お互いに「観光しましょうよ」ということになります。9割の需要がなくなったら生き延びられませんが、3割減、4割減で済ませる方法をもっと意識して取り組むべきです。

――観光地に旅行者がどっと押し寄せると「3密」になります。
日本には27・9兆円という巨大な国内旅行需要があります。GWのように皆が同じ日に休めば、密をつくってしまいます。「GWは家にいて下さい」というのを全国でやったものですから、稼ぎを期待していた観光産業にとって大きなマイナスになりました。27・9兆円を365日に分散できれば、密をつくらない観光が可能になります。

観光地は混まず、道路は渋滞せず、宿泊費は安くなり、コロナで経済的にマイナスになったとしても、観光全体がリーズナブルになることで維持できます。昔と違い、日本も製造業からサービス業までさまざまな産業があり、テレワークも普及しました。皆で一緒に休む必要もなく、先進国同様、休みを分散する。これがウィズコロナ時代を生き抜いていくひとつの方法だと思っています。

――政府が1兆6794億円を投じて旅行代金の約半分を支援する「Go To キャンペーン」についてどう思いますか。
需要が喚起されるのは良いのですが、予約を取った日が感染拡大の日にあたるかもしれません。そうするとまた自粛期に入ってしまう可能性もあります。果たして全国一律のキャンペーンがいいのかどうか。マイクロツーリズム商圏を意識し、東京や大阪で感染が拡大していても、島根や鳥取など地方で使えるようにする方法もあります。9割の需要とはいかないまでも、首都圏や関西圏から旅行客が来なくても、地域同士だけで6、7割の需要があり、キャンペーンがあって助かったという活用の仕方もあります。

◆9割減なら持たないが4割減なら生き延びられる
――どれくらいの効果があると見込んでいますか。

観光産業を下支えしてくれるのは、ありがたいですね。それがなくてはウィズコロナの時代に、せっかく育ててきた地方の観光人材を維持できなくなります。ただ今後は波を打って感染拡大と緩和の期間が来るので、それに合ったキャンペーンのあり方をもう一度考える必要があります。

キャンペーンで観光需要を復活させるのではなく、キャンペーンの予算でコロナ期を生き延びるための下支えをしていく。自粛期でも困らないぐらいの需要をマイクロツーリズムでつくり上げる。むしろ緩和期においては、黙っていても市場は自動的に自然に動きますから、そこにキャンペーンを当ててもっと動かそうとするのではなく、各地域、地方の下支えになるような使い方なら、検討に値すると思います。

――ここに来て全国的に再び感染者が増加傾向にあります。
第2波が来た時に観光産業は本当に耐えられるのだろうかと、ひしひしと感じています。9割減の波が2回も3回も来たら持ちません。4割減でも痛いですが、4割なくなっても仕事がある状況をつくる。第1波が落ち着いたころから、そっちに切り替えていった方がいいのではと思い始めました。そういう準備を今から急いですることが大事なのではないかと。それこそ「生き残り策」です。自粛の波が2回、3回来たとしても、3割減、4割減でしのげるような体制をつくっておけば、何とかなる可能性はあります。(聞き手=滝口豊/日刊ゲンダイ)

▽ほしの・よしはる 1960年、長野県軽井沢町生まれ。慶応大経済学部卒。米コーネル大ホテル経営大学院でMBA取得。88年家業の星野温泉に入社するも翌年退社。91年星野温泉に再び入社し、代表に就任。
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インウンドバブルの「毒」を抜け! by アレックス・カー/観光地奈良の勝ち残り戦略(131)

2020年07月02日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
朝日新聞の「耕論」(2020.6.24付)「旅、変わる、変える 新型コロナ 岡部宏生さん、アレックス・カーさん、鈴木文さん」を読んだ。リード文は《人間は潜在的に旅する欲求を持っている。しかし、新型コロナ禍で移動そのものがままならない時代に。感染拡大の長期化も見込まれる中、これからの旅の形を考える》。とりわけアレックス・カー氏の指摘には、膝を打った。彼の話を抜粋して紹介する。
※トップ写真は、アレックス・カー氏。サイト「旅ぐるたび」から拝借

◆観光業界の「毒」抜く機会 アレックス・カーさん(東洋文化研究者)
観光庁が掲げてきた今年の訪日外国人4千万人の目標は、コロナ禍によって、ほぼ達成不可能になりました。観光業は日本にとって極めて大事な産業であり、政府も「観光立国」を掲げています。しかし、受け入れ側の準備が整わない中で急速に訪日客が増えたため、マイナス面も生んでいました。

私はコロナ禍という災厄を、日本の観光業が抱えている「毒」を解毒する機会と位置づけるべきだと考えます。「毒」とは、オーバーツーリズム(観光公害)です。京都のお寺で総門を抜けて最初に目に入ってくるのは、参道を埋め尽くす人々の波です。こんなカオスの状態で、日本古来の文化を本当の意味で味わうことはできません。

イタリアのボルゲーゼ美術館は入館の完全予約制を導入、南米の都市遺跡マチュピチュでも入場制限をしています。海外では対策が進む一方、日本は大きな後れをとっていました。本当に行きたい人が行けるような、公平な仕組み作りが求められます。

文化の稚拙化も「毒」の一種といえます。例えば、京都の二条城のふすま絵は劣化から守るため、複製に差し替えられました。キラキラと輝く派手な色合いが人気のようですが、外国人にこんなチープなものが日本文化だと思われて良いのでしょうか。

 「京都の台所」である錦市場も抹茶アイスクリームの売店やドラッグストアなど観光客好みの店が増えて、地元の人は足を運ばなくなっています。市場原理で売り上げは増えているのかもしれませんが、文化的には京都の町にとって損失です。

コロナ後は、訪日客の数など数値の回復ばかりが重視され、コロナ前に気づき始めていたマイナス面の解毒を忘れてしまうのではないかと心配です。コロナ対策で取り入れた入場制限などの対策が、騒動の収束とともになくなることも懸念しています。日本の製造業も公害問題という危機の時代に正面から向き合って対応することで、「健全」になることができた。観光業も同じです。

私は8年前から、徳島県の祖谷(いや)で古民家を修復した宿泊施設を運営しています。この地での滞在は異質な自然環境との出会いであり、深い谷間から湧き上がる霧は幻想的で、心が弾みます。日常から離れて煩悩から開放される。そういった「特別感」は旅に欠けてはならないものです。コロナ前の日本ではこの旅がもつ「特別感」が残念ながら失われていました。

全国の観光地がコロナ後にどのような観光の姿をめざすのか。それは、国が決めることではなく、その地に住む人たちや観光業者、行政機関が話し合ってどのような道を選ぶのか、だと思います。(聞き手・湯地正裕)


オーバーツーリズム(観光公害)や文化の稚拙化という「毒」を抜け、完全予約制や入場制限が必要、公害問題に正面から立ち向かって「健全」になった製造業に学べ、旅には日常から離れて煩悩(ぼんのう)から開放されるような「特別感」が必要、コロナ後の姿は住民・観光事業者・地元行政が話し合って絵を描け、なるほどもっともなことだと納得する。インバウンドバブルがはじけた今、奈良の観光業界も正念場を迎えている。
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