水徒然2

主に、水に関する記事・感想を紹介します。
水が流れるままに自然科学的な眼で解析・コメントして交流できたらと思います。

再生可能なエネルギーに係る記載(その15:Mgを媒体とした発電・蓄電の現状と将来への展望)

2013-03-17 | 食糧・エネルギー・資源の自給関連

'13-3-17投稿

プロダクトサービス特集:環境に優しいエネルギー技術
マグネシウム文明の夜明け −石油に代わる新しいエネルギー
東京工業大学 機械物理工学専攻 矢部 孝 教授   本文を読む

(一部割愛しました。)

1.はじめに

太陽光のエネルギーは無尽蔵です。世界中の電力使用量が、わずか数万平方Kmの面積に降り注ぐ太陽光のエネルギーで賄える程です。サハラ砂漠の面積が860万平方Kmなので、そのエネルギーの巨大さが想像できるでしょう。しかし、この太陽光の利用は、現在非常に性能が上がってきているとは言え、太陽電池で行なえば十分なのでしょうか?困ったことに、曇りや雨を考慮すると、我が国の年間平均日照時間は4時間しかありません。太陽光だけで日本全体のエネルギーを賄うには、国土の60%にも上る太陽光受光面積が必要となるのが実情です(太陽利用効率30%と仮定し、リスク回避で10日分の貯蔵を念頭においています)。

世界中には年間平均日照時間が10時間を越す国もあるのでそこで発電するにしても、そこからエネルギーを輸送してくる方法がなければ他の国がその国に降り注ぐ太陽光を利用することはできません。即ち、エネルギー貯蔵ができ、移動可能な媒体が必要となる訳です。しかも、年間100億トン消費している石油・石炭をこのエネルギー貯蔵で賄おうとすると、当然数10億トン規模の媒体が必要となってきます。また、その媒体を製造するエネルギーも考えなければならないので、媒体候補となる物質はほとんど限られます。

私は、マグネシウム(Mg)を用いたエネルギー貯蔵を提案しています1,2)。Mgを酸素や水と反応させてエネルギーを取り出し、反応生成物である酸化マグネシウムを、太陽光や風力などの自然エネルギーを用いて、Mgに戻すことができれば、このMgがエネルギーの貯蔵、輸送媒体となることが期待できるからです。このサイクルには一切、化石燃料は関与せず、即ち、地球温暖化の危険因子となるものが介在しません(図1)。以下では、Mgを媒体とした再生可能エネルギーに関する研究開発の現状と将来への展望を述べたいと思います。

図1 マグネシウムと太陽光励起レーザーを用いたエネルギー循環システム。

2.なぜマグネシウムか

Mgの資源量は海水中でナトリウムに次いで2番目に多く、地球の海水中に1800兆トンあると言われています。また、ゴビ砂漠やアリゾナの砂漠には、かなりの量のMgが含まれています。埋蔵量を見ても、亜鉛の4億トン、アルミニウム150億トン、鉄8千億トンに比べて、桁違いに多いのです。

エネルギー貯蔵能力を考えると、単位体積当たりに発生できる熱量は液体水素の5倍であるので、コンパクトなエネルギー源でもあります。100万kWの発電所のわずか一日分の燃料を蓄えるためだけでも、1気圧水素だと、高さ10mで1km四方のタンクが必要ですが、Mgだと、高さ10mで15m四方と桁違いに小さいもので済みます(ここで、1気圧の水素としたのは、1気圧の圧力差では1平方mの面積に10トンの力がかかるため、大きなタンクでは気圧差をつけることができないので、大気圧で貯蔵するしかないからです)。自動車の例で考えると、ガソリンスタンドは通常、車200台分のガソリン10m3程度を蓄えています。これを水素と置き換えると、何と、33,000m3のタンクが必要となり、日本中の地下に水素タンクを設置しなければならないでしょう。

Mgの重量当たりの反応熱(水素燃焼も含めて)は25MJ/kgであり、石炭30MJ/kgとほぼ同程度です。現在の火力発電所の燃料をMgに替えることができれば、蒸気タービンで発電する現在の化石燃料の代わりに“リサイクル可能な石炭”としてMgを使うこともできるので、既存のシステムを継承することができます。また、Mgは引火の危険がないため、大量のエネルギー貯蔵には向いている物質です。

別の利用方法はマグネシウム燃料電池(空気電池)です。聞きなれない言葉かもしれません。一般に、燃料電池と言うと水素燃料電池しか考えない人が多いのですが、これは、水素を燃料として供給して、酸素との反応で電池になるものです。燃料となる水素は常に外から供給されるので、効率が高くなる。一般に、電池の効率は、容器全体を含めた電池の重量に対して発生可能な電力を言うので、金属電池は重量が重いために効率が悪いと信じられているのです。そこで、重量の軽いリチウムイオン電池が現在よく使われています。リチウムイオン電池の発電効率は、最高650Wh/kgですが、定常的には200Wh/kgと言われています。

ところが、燃料が外から供給される場合には、基本的には燃料は無限にあると考えられるので、容器の重さは無視できます。そのため、水素燃料電池の効率が高くなるのです。そういう見地に立てば、金属も、燃料として外から供給できれば、金属そのものが持つ純粋な能力を引き出すことができるようになると考えられます。米国の私たちの共同研究者は、既に亜鉛燃料電池を製作し、1回の燃料供給で普通乗用車(ホンダ・インサイト)の500km走行に成功しています(2003年のギネス公認記録)。しかも、燃料を供給することで、100回以上もこれを繰り返せることを実証しました。このときの亜鉛燃料電池の効率は500Wh/kg。これをMgに替えると、1500Wh/kgとなることが分かっているので、今後が大いに期待できる技術です。

リチウムイオン電池のように電気を使って充電するようなものは、普通乗用車には余り薦められません。充電が完了するまでドライバーが待てるかどうかは問題でしょう。これに対して、上述の亜鉛燃料電池では、亜鉛(将来はMg)燃料パックの交換はわずか3分で済みます。また、安全性も高いので、コンビニでも販売でき、新たなインフラも不要です。将来的には、リチウム空気電池も有望なのですが、リチウム原子の性能が、比容量3.83Ah/g、酸化還元電位3Vであるので、最高11.5kWh/kgが可能としても、500km走行可能な100kWhの電池を搭載する自動車が、現在世界中にある9億台に達するには、780万トンのリチウムが必要となる計算です。これに対してリチウム埋蔵量1100万トンは、余りにも少ない。また、現在年間リチウム生産量は2万5千トンしかなく、それでもリチウム争奪戦が繰り広げられています。大量にリチウムを含んでいると言われている海水資源でも、実は、1kgの海水中にリチウムは0.1mgしかありません。そんな資源を石油に代わる燃料とするリスクを冒せるでしょうか。

3.マグネシウムの還元

使用済みのMgは酸化マグネシウムMgOという白い粉末となって残りますが、次にこれを元に戻すことが必要です。従来のMg精錬は、ドロマイト(MgCO3/CaCO3)を焼成してCO2を飛ばし、MgOにケイ化鉄FeSiという還元剤を使用して1200-1500度という比較的低温で行われています。しかし、還元剤を回収できないために、これを作る資源とエネルギーを考えると、そのまま模倣しても再生可能エネルギーとはなり得ません。実際、世界のMgの7割を生産しているピジョン法(熱還元法)では、Mg1トンの生産にコークス10トンを使用しているので、Mgを燃料にするくらいなら、石炭をそのまま使った方が遙かに環境に優しい。

還元剤無しでMgを還元することは、そう容易なことではないのです。MgOの還元は蒸発の潜熱や分解に要するエネルギーに打ち勝ちながら、4000度という高温を実現しなければなりません。このエネルギーを単純に温度に換算すると2万度近くにもなります。このエネルギーを太陽光で賄おうとしても、ただ太陽光を集めるだけでは、このような分解を達成できないことは明らかです。

確かに太陽炉内で4000度近い高温を実現したという報告はありますが、これは単に加熱して到達した温度(顕熱)だけです。先に述べたように、蒸発・分解に要するエネルギーは顕熱に比べ桁違いに大きいので、その状態で物質を高温に保つことは不可能なのです。私は、この太陽光をレーザーに変えることができれば、更にエネルギー集中を高め、超高温を実現することができるであろうと考えました。加えて、レーザーでは容器全体を暖めずに局所的に高温を実現できるので、炉壁が超高温となることは無いというメリットがあります。

例えば、太陽光が1cm径の円状に集光されたと考え、その際に到達する温度が100度であったとしましょう。レーザーによって同じエネルギーが1mm径に集光できれば面積が100分の1となるので、1万度の高温が達成できます。太陽は光源が有限の大きさであるため、集光サイズの下限はこの光源の大きさで決定されます。太陽をレーザーという別の光に変換できれば、この限界を超えることが可能となる訳です。

面白いのは、1mm径の局所的な部分だけが高温となるので、そこから噴出して1cm径まで膨張すると、100度まで温度が低下することです。元々のエネルギーが1cm径を100度にする能力しかないのでこれは当然のことで、集光点から1cm離れたところは低温です。しかし、1mm径の小さな領域だけでは生産量を増やすことができないので、実際には何100本かのレーザーを1cm間隔で照射することになります。

熱伝導によってMgO中を熱が伝わると思う人が多いのですが、レーザーアブレーションの知識がある人はそうでないことが理解できると思います。レーザーエネルギーのほとんどは噴出する蒸気によって持ち去られるので、内部にはほとんど伝わらないのです。このときに持ち去られるエネルギーは、蒸発の潜熱であり、運動エネルギーです。

私たちのプロセスで更に重要なのは、こうした相変化を起こす領域を利用していることです。通常、入射エネルギーが増大すると温度が上昇します。輻射損失は温度の4乗に比例して増大するので、このままでは、どこかで輻射損失が優位となり、入射エネルギーがほとんど外部へ放出され利用できない事態が生じます。しかし、蒸発・分解する温度では、蒸発が継続している間温度上昇が停止するので、全ての物質が蒸発してしまうまで、温度は沸点に保たれるのです。水の蒸発を思い起こせば理解できると思います。いくらエネルギーを注入しても温度が増大しないため、輻射損失も増大しなくなる。このような状況を利用すれば、入射エネルギーが有効に蒸発・分解に費やされるということになります。

4.太陽光励起レーザー

    ・・・(中略)

5.おわりに

私たちは、地上での太陽光励起レーザーにこだわっていますが、これには理由があります。宇宙でのレーザー発振を目指すのも、夢はありますが、限られた予算をこれに費やすのは無駄に思われます。全世界で使用している電力は年間18兆kWh。100万キロワットの発電所にして2000基分です。・・・

図3 実用化に向けたロードマップ

 

最後に、地球温暖化や化石燃料の枯渇が深刻になるのは、まだ相当先の話。と思っている人が多いでしょう。しかし、今から20年以内には、30億人分の水が不足すると言われており、これは、農業・工業用水を含めた量であるので、まもなく、人類は深刻な食糧危機に見舞われることとなるでしょう食料の60%を輸入に頼っている我が国も深刻な打撃を受けることは間違いありません。この水不足に対して、逆浸透膜がそれを解決するかのような報道がありますが、逆浸透膜で、30億人分の水を作るには、9兆kWhの電気が必要です。これは、世界中で使われている電気18兆kWhの50%の量なのです。

 

私たちは、この水を太陽熱で海水から精製する装置を完成させました。30億人が1年間に必要とする水は1.5兆トンですが、この中には、20億トンのマグネシウムが含まれています。世界で年間使用されている石炭・石油が100億トンなので、5年でこれに匹敵するリサイクル燃料が手に入ることになる計算です(図3参照)。現在、このようなシステムの実現に向けて、トルコでテストプラント建設がスタートしています。今後1年以内に、世界が驚くシステムが出現するでしょう(更に詳しい解説は、日経サイエンス6)とPHP新書7)をご覧ください)。・・・

・・・(後略)   」という。

 週プレNEWS エネルギー革命を起こす?新発明の「マグネシウム電池」ってなんだ

>>詳しく見る

トルコでテストプラント建設がスタートという。中東で実施するのは太陽光励起レーザーの日照時間を稼ぐためなのだろうか?

「世界の日照データ」
 わが国の日照時間は東南アジア、中東などと比較して短い。

 海水の淡水化(図1)で地球の海水中に1800兆トンあるというMgを海から回収して使用するようです。4方海に囲まれたわが国では非常に有利な方法であり、資源・エネルギーの自給に期待されます。

「地球温暖化や化石燃料の枯渇が深刻になるのは、まだ相当先の話。と思っている人が多いでしょう。しかし、今から20年以内には、30億人分の水が不足すると言われており、これは、農業・工業用水を含めた量であるので、まもなく、人類は深刻な食糧危機に見舞われることとなるでしょう食料の60%を輸入に頼っている我が国も深刻な打撃を受けることは間違いありません。この水不足に対して、逆浸透膜がそれを解決するかのような報道がありますが、逆浸透膜で、30億人分の水を作るには、9兆kWhの電気が必要です。これは、世界中で使われている電気18兆kWhの50%の量なのです。」の記述には同感です。

 ちなみに、発電のための金属資源を回収するその他方法としては、
「海水中に存在する微量元素」の回収に係る投稿 ('13-01-03追加・更新  '11-04ー01~)
 「海水資源」の持つ可能性に係る記載を調べました。('10-12-19) 」で記載しましたように、海水中にはウランや金などを含めて全ての元素が溶けて存在しています。しかし、その濃度が薄いので、溶存資源を回収することは容易なことではありません。
 海水中のウラン、バナジウム、コバルト、リチウムの回収については実用化段階でありますが、コスト面を除いて回収の目処が立っているようです。
 また、水溶液中に存在するパラジウムなどの貴金属イオン(レアメタル)を迅速かつ選択的に抽出できる溶媒抽出法と天然繊維を使用する溶媒含浸繊維法を併用することで高効率で分離回収も実施されているようです。

<海水からの金属回収例>

 
(google画像検索から引用)

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