美術館付近から姫路城をのぞむ
このたびのルドン展は、すべてが岐阜県美術館の所蔵品からなるものだった。日本にこれほどの規模のルドンコレクションがあるのは意外なことで、また誇らしいことでもある。
母国フランスにも「ルドン美術館」なるものはなく、彼の作品がこんなにまとまって収蔵されているのは、世界的にもあまり例がないだろう。ゴッホやモネなど、印象派以降のフランス絵画を客寄せパンダのように常設している美術館が日本に多いなかで異彩を放っているし、また多少地味でもあることは否めない(関西では伊丹市立美術館がこういった系統の施設として特筆すべき存在だ。渋いが意欲的な展覧会をしばしば開いてくれる)。
***
岐阜県美術館は、このルドンの版画群を各地の美術館にも貸し出して、大規模なルドン展をしばしば開いているようだ。2年前には、東京のBunkamuraで「ルドンの黒 ― 眼をとじると見えてくる異形の友人たち」と題した展覧会が開かれた。5年前には、茨城県近代美術館で「世紀末が見た夢 ― ルドンとその周辺」という展覧会が開かれている。それぞれに工夫を凝らしたサブタイトルが、ルドンという異色の画家の輪郭をうっすらと浮かび上がらせる(姫路では単に「オディロン・ルドン展」となっていた)。
姫路の展覧会は会期末に出かけたせいもあって図録が完売だったので、図書館へ出かけてルドンの資料を漁ってみたら、その5年前の展覧会の図録を手にすることができた。ルドンを取り巻く周辺の画家や同時代の美術動向にまで展示が及んでいて、今回よりもかなり充実した内容だったらしい。その本を手がかりにしながら、この未知なる世界へと徐々に踏み込んでみようかと思う。
(なお、岐阜県美術館がルドンのコレクションを持つに至ったのは、開館準備中に大量のルドンの版画が市場に出回ったからだという。偶然ではあるが、運命的な出会いである。なおこのコレクションは、かつては安宅コレクションの一部であったということだ。そういえば、大阪市立東洋陶磁美術館の母体となった膨大な陶磁器コレクションも安宅コレクションといった。この“安宅氏”は同じ人なのだろうか?)
つづく
この随想を最初から読む