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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

トールキン 旅のはじまり

2019年09月12日 | 映画(た行)

トールキン自身の「行きて帰りし」物語

* * * * * * * * * *


ファンタジーの名作「指輪物語」「ホビットの冒険」等の原作者、
J.R.R.トールキンの半生を描きます。


3歳で父を亡くし、イギリスの田園地帯で母・弟とともに暮らしていたトールキン。
しかし12歳で母をも亡くし孤児になってしまいます。
やがて、後見人モーガン牧師のサポートで名門キング・エドワード後に入学。
彼はそこで3人の仲間と出会い、「芸術で世界を変えよう」と誓いあいます。
4人はケンブリッジ大学、オックスフォード大学へとそれぞれ進みますが、
やがて第一次世界大戦が勃発。
トールキンと仲間たちの運命を大きく変えていきます。

 

その頃まだ「ファンタジー」という文学のジャンルはなく、
単に「伝説」や「神話」「昔話」であったのです。
そんな話を、トールキンは子供の頃いつも母親から聞いていたのでした。
彼が育った美しい田園風景はホビットの村の光景のようでもあります。
そしてまた、いかにも若い彼ら4人、互いを理解し、励ましあい慰め合う友情。
美しく、ワクワクとしてしまいます。
それこそはまた、トールキンの描く冒険の仲間たちの友情にもつながっています。
ところが彼らのいかにも若々しい夢や希望を奪ったのが、戦争。

以前私が学んだ「ファンタジー」の講義では、
「指輪物語」や「ナルニア国」などのファンタジーが生まれた背景に、
戦争があるといいます。
科学の発展と2つの大戦によって、人々の価値観が崩壊。
新たな価値観が必要となった。
好日性を持つ「意識」と「無意識」の闇、
隔絶された2つの世界をつなぎ、回復させるもの、それがファンタジーであると。
戦争へ行ってそれまでの価値観を崩壊させてしまった
トールキンの人生とぴったり重なるのです。



つまりこれはトールキンの「ゆきて帰りしき物語」。
そうしたことを確実に表現している本作、なかなかよくできていると思います。
また、並行してラブストーリーも語られているのもいいですね。
トールキンと同じく孤児で、自立して生きたいと強く願うエディスもステキでした。



指輪物語の中で、フロドに付き添って旅をするのが、サム。
本作中で戦地のトールキンの従者もサムという名前でした。
ちょっと興味深い。

 

<シアターキノにて>
「トールキン 旅のはじまり」
2019年/アメリカ/111分
監督:ドメ・カルコスキ
出演:ニコラス・ホルト、リリー・コリンズ、アンソニー・ボイル、パトリック・ギブソン
伝記度★★★★☆
満足度★★★★☆


「平凡」角田光代

2019年09月11日 | 本(その他)

もし別の道を選んでいれば・・・

平凡 (新潮文庫)
角田 光代
新潮社

* * * * * * * * * *


妻に離婚を切り出され取り乱す夫と、その心に甦る幼い日の記憶(「月が笑う」)。
人気料理研究家になったかつての親友・春花が、
訪れた火災現場跡で主婦の紀美子にした意外な頼みごと(「平凡」)。
飼い猫探しに親身に付き添うおばさんが、庭子に語った
息子とおにぎりの話(「どこかべつのところで」)。
人生のわかれ道をゆき過ぎてなお、
選ばなかった「もし」に心揺れる人々を見つめる六つの物語。

* * * * * * * * * *

先日角田光代さんの「さがしもの」を読んでから、
角田光代さんは短編もいいなあ・・・と思いまして。
長編は身につまされることが多すぎて、辛くなってしまうことが多いのです。
短編もそういうところはやはり突くのですが、短い分、サラッと読み流せます。

本作は、多くは平凡に日々を生きている人々の物語。
しかし、過去のどこかで人生の岐路があって、
もし別の道を選んでいればもっと違う人生があったのではないか・・・、
そんなふうに揺れる心を描きます。

表題作「平凡」では、主婦・紀美子はそれこそごく平凡な主婦。
ところがかつての親友・春花は料理研究家となり、毎日のようにテレビにも登場しています。
今は連絡も途絶え、単に憧れの有名人となった春花から、
ある日突然、会いたいと連絡があり・・・。
美紀子から見れば幸福の絶頂の暮らしと思える春花が見つめていたものとは・・・。
かつて恋人であった男を「呪った」ことにこだわりつづけている春花。
彼女の呪いの言葉とは・・・?
春花は「平凡」を底辺とみなし、そこから這い上がることで
優位を示そうとしていたのかもしれません。
しかし、実はその「平凡」にこそ安らぎはあるのかも。

「こともなし」にも、別れた恋人に「不幸になれ」と呪う話が出てきます。
それは以前聡子の友人が言ったことで、そんなのひどい、と自分は思ったものだけれど・・・。
しかし今に至って、聡子はかつての男に対して「不幸になれ」と思ってしまっている。
現在が苦しいわけではない。
夫もいて子どももいて、それなりに充実している・・・。
が、いかにも平凡。
あの時あの男と別れなければ、今の自分とは違っていたのではないか・・・。
しかし今あの男が不幸でありさえすれば、私の選択は間違っていなかったことになる
・・・と、そんな思いなのかもしれません。
聡子が毎日綴る料理ブログも、実は「自分は今幸せ」という
男に対してのアピールなのでは・・・。
しかし彼女は気づく。
自分が幸せであることをアピールしたいのは、かつての男ではなく、
「選ばなかった自分自身」。
つまり自分の選択は間違いではなかったと信じたい・・・。


本当は選ばなかった自分などない。
今の自分があるだけ。
けれどそう思ってはいても、心はさまよってしまうものですね・・・。


「平凡」角田光代 新潮文庫
満足度★★★★☆


星になった少年 Shining Boy & Little Randy

2019年09月09日 | 映画(は行)

ゾウに乗った少年

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本作は私、公開時に見ているのですが、当ブログ開始以前のことで、
そしてまた柳楽優弥さんの少年時代をまた見たくなって拝見。
・・・しかし考えてみると肝心の04年「誰も知らない」も、
ブログ記事にはなっていないわけで・・・。
そちらもそのうち再見しなければなりませんね。

日本人初の象使いを目指した実在の青年・坂本哲夢さんのストーリーです。

哲夢(柳楽優弥)は父親が経営する動物プロダクションで、
動物たちと共に暮らしていました。
そしてそこで子象・ランディと出会ったことから、タイの象使い養成学校に留学して学びます。
その後哲夢は象の楽園造りを目指すことになりますが・・・

この結末はあまりにも印象に残っているので、
さほどショックは受けませんでしたが、誠に痛ましい限り・・・。
哲夢は、学校では級友たちから「臭い」と言われ、いじめにあっていたのです。
そんな彼がタイへ向かい、多くの少年の仲間たちと寝食を共にする。
言葉もよくわからず、始め馴染めなかったのは無理もありませんが、
やがて彼は日本では得られなかった多くの友情を手にします。
夢を抱いてこんな遠くまで来たものの、現実は厳しくて・・・。
そんなことを仲間の友情に支えられながら成長してい行く。
美しい物語なのでした。

柳楽優弥さんが「誰も知らない」で、
第57回カンヌ映画祭最優秀男優賞を受賞した後の主演作品。
本作のために象使いとしての訓練を積んだことが伺われ、
まさに象と一体、ステキな作品になっています。
しかし、いかにも題材が特殊過ぎました・・・。
本作のあと、「シュガー&スパイス」で好演するも大きな話題にはならず、
柳楽優弥さんはその後しばらく大きな作品には登場しません。
少年から青年へ・・・、大きく移り変わる時期でもあり、俳優としては難しかったのかも。
しかし彼は見事に復活してくれました!! 
オバサンは嬉しい・・・。


本作で哲夢のガールフレンド役が蒼井優さんで、
まだ、「フラガール」でのブレイク前。
そういう意味で、今見てもまた意義のある作品なのでした。
・・・約15年前の作品でありながら、常盤貴子さんなどはほとんど変わらない感じなのもスゴイ。

<WOWOW視聴にて>
「星になった少年 Shining Boy & Little Randy」
2005年/日本/113分
監督:河毛俊作
出演:柳楽優弥、常盤貴子、高橋克実、蒼井優、倍賞美津子

象との密着度★★★★☆
満足度★★★☆☆


劇場版 おっさんずラブ LOVE or DEAD

2019年09月08日 | 映画(あ行)

 はるぽん!

 

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TVドラマ「おっさんずラブ」のファンだったもので、やはり見てしまいました。


話はTVドラマの続きとなっていまして、
上海・香港の転勤先から1年ぶりに帰国した春田(田中圭)。
また、天空不動産第二営業所のドタバタ劇が始まります。
牧(林遣都)との仲もうまく行っていて、平和な日々・・・のはずでしたが、
また危機的出来事が・・・。

本社の新たなプロジェクトとしてベイエリアの再開発事業が始まり、
その中心的実行メンバー「Genius7」に牧が選ばれたのです。
エリートコースに乗って、忙しく働き始める牧と春田は
次第に気持ちがすれ違い、牧は家を出て実家に戻ってしまいます。
そんな時、黒澤部長(吉田鋼太郎)は階段から落ちたショックで、
なぜか春田のことだけすっかり記憶から抜け落ちてしまう。
そんな落ち込む春田を慰めるのは、
いつも明るい新入社員のジャスティスこと山田正義(志尊淳)だが・・・。

いつもながら奇妙でおかしな人間関係。
しかしこんなにオープンで偏見もない職場、あるわけないと思いながらも、
いいなあ・・・と思います。
異性でも同性でも恋愛あるある。
ま、こんなことが当たり前の世の中に早くなるといいのですが。
(そうなのか?)



やはり傑作なのが、部長の春田に対する恋心ですよね。
ここでは「はるたん」を部長が忘れ果て、
しかしなんと今度は「はるぽん」と呼びはじめます。
どんなに忘れてもやがて復活する恋心・・・。


考えてみればこれらの恋愛劇、男と女の話ならぜーんぜん面白くないですよね。
ありきたりすぎて。



終盤のアクションやら火災やら爆発やらのシーンは、
やりすぎ、余計にも思えたのですがまあ、面白いからいいか・・・。


志尊淳さんのキャラからすると、やはりそのセンかと思えたのですが、
意外にもノーマルだったりします。
それにしてもやっぱりカッコいいわあ♡

ということで、TVドラマが好きだった方にはもちろんオススメ。
けれど、ドラマを見たことがない方にはあまりおすすめできません。
この世界観に入り込めない可能性もありますので・・・。
人物関係も特に説明はないので、やはり無理かも。

<シネマフロンティアにて>
「劇場版 おっさんずラブ LOVE or DEAD」
2019年/日本/114分
監督:瑠東東一郎
出演:田中圭、林遣都、吉田鋼太郎、沢村一樹、志尊淳、内田理央

コミカル度★★★★☆
満足度★★★★☆

 


「福袋」朝井まかて

2019年09月07日 | 本(その他)

読む落語

福袋 (講談社文庫)
朝井 まかて
講談社

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職人が寄席看板の名手となるまでを、愛用する"筆"が語る「ぞっこん」。
湯屋の仕事が好きでたまらない少女の明け暮れを描いた「晴れ湯」。
並外れた大食漢ゆえに離縁された女が、大喰い大会で大活躍する「福袋」。
ほか、傑作ぞろいの短編集。
どれを読んでも、泣ける、笑える、人が好きになる!
舟橋聖一文学賞受賞作。

* * * * * * * * * *

朝井まかてさんの江戸を舞台とした短編集。


これが、「読む落語」という触れ込みなのですが、まさにそんな感じ。
会話が主体となってポンポンと弾むようなやり取りが心地よいのです。


様々な職業の人々に焦点が当たりますが、冒頭の一作、
「筆」が語り手なのにはちょっと戸惑った・・・。
でもそれも一旦飲み込めば実に面白い。
しかも次第に現代の日本の風潮とどこか似た話になっていくのが
また興味深いところなのです。


古着屋の少女が、自分のちょっとした工夫で"流行"を生み出していく。
そんな彼女の苦境を救ったのが、普段煙たく思っていた兄嫁なのだけれど、
彼女は実は・・・、という「莫連あやめ」


大食らいの姉が婚家から戻ってきて、弟は持て余してしまうのだけれど、
「大食い大会」に出るようになって賞金が入り、人気も出て・・・という「福袋」。


その日暮らしだった男があることがきっかけで商売を始め、
金儲けではなくその面白さに目覚めて、
100円均一的な商売を思いつくという「ひってん」。


話の面白さだけでなく個性的な登場人物それぞれも魅力的です。
舟橋聖一文学賞受賞作というのも納得の一冊。

図書館蔵書にて
「福袋」朝井まかて 講談社(単行本)
満足度★★★★★

 


ピースメーカー

2019年09月06日 | 映画(は行)

盗まれた核弾頭を追え

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核軍縮のために解体される予定の核弾頭10発がロシアから盗み出されます。
そのうち1発がウクライナ山中で爆発。
核爆発を確認したアメリカはケリー博士(ニコール・キッドマン)ら専門家を招集。
国際テロの専門家デヴォー大佐(ジョージ・クルーニー)を加え、
残りの核弾頭の行方を追います。
やがて8発の回収は成功するも、残り1発の行方が・・・!

約20年前の作品ながら、今でも全くそのまま通用しそうな内容だと思いました。
相変わらず核兵器はあり続け、国家間の軋轢はますます大きくなって、
一方的に踏みにじられ家族を失い行き場をなくす人々も多い・・・。
世界観は殆ど変わっていない。
残念ながら・・・。


先にも書いたと思うのですが、この頃私は90年代の作品が良いと思う。
今は大御所、カッコいいというよりむしろ渋くなっている俳優さんたちの、
若々しい姿を拝めるので。
しかも旧式ながらもコンピュータはあり、
本作では衛星画像やコンピュータによる顔認証の技術も出てきます。
そんなあたりでストーリー展開に馴染みやすい。
これ以上古いと、古色蒼然感が濃くなってきます。
いっそ、うんとレトロならそれもいいのですけれどね。

ということで、本作では若きニコール・キッドマンとジョージ・クルーニーが拝めます。
アクションあり、カーチェイスあり。
最後にはお定まり、爆発のカウントダウン、ゼロが迫る中の解体作業。
スリルありますねー。
しかも核爆弾ですよ・・・。
逃げても間に合わないし。

とりあえず楽しめます。


 

ピースメーカー [DVD]
マーセル・ユーレス,アーミン・ミューラー=スタール,ニコール・キッドマン,ジョージ・クルーニー,アレクサンダー・バルエフ
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン

危機一髪度★★★★☆<WOWOW視聴にて>
「ピースメーカー」
1997年/アメリカ/124分
監督:ミミ・レダー
出演:ジョージ・クルーニー、ニコール・キッドマン、マーセル・ユーレス、アレクサンダー・バリュー

満足度★★★.5


ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

2019年09月05日 | 映画(わ行)

シャロン・テートについての予習を怠るべからず!

* * * * * * * * * *

私はたいてい映画を見る前には、その映画の内容について、
簡単なあらすじ程度しか確認しません。
でも本作については、もう少し予習をすべきだったと深く思います。

というのも本作、1969年に起こったある事件が下敷きとなっているのです。
当時の時代の寵児ロマン・ポランスキー監督の妻であり新進女優であった
シャロン・テートがカルト集団により惨殺されたという事件。
しかも当時妊娠中でした・・・。
それはしっかり私も生きていた時代でしたが、
まだ映画ファンになるような年齢でもなく、その事件のことは知りませんでした。
けれど、これからこの作品を見る方は、ぜひこのことを心に留めて見ていただきたい。
そうすると、本作の満足度がアップすること間違いありません。

さて本作のストーリーといえば、
主人公は、テレビ俳優としての人気のピークを過ぎて、やや落ち目・・・、
今度は映画スターへ転身を目指しているリック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と、
その専属スタントマンのクリフ・ブース(ブラッド・ピット)、二人のコンビです。

リックは自信を失っていて、将来への不安を拭い去る事ができません。
一方、リックの仕事がうまく行かなければ当然自分の暮らしも成り立たなくなるはずのクリフは、
そんなことに頓着せず、常に自分らしく楽天的。
リックはプール付きの豪邸に住んでいます。
リックの送り迎えの運転もするクリフは、トレーラーハウス住まい。
そんな二人だけれど、妙にウマが合うのです。
60年代のハリウッド事情、風俗、流行の曲や、車、もちろんファッション、
全てが再現されていて素晴らしい! 
車のことなどよくわからない私ではありますが、
道路を走る車が、主人公の乗っている車はもちろんのこと、
多く行き交う車も全て当時のモデル、というのがなんともすごい・・・
と、感動してしまいました。



リックは結局、イタリアのマカロニウエスタン作品に出演することになるのです。
そんなこんなで、二人の日々が綴られるのと交互に、
リックの隣人、ポランスキー夫妻のエピソードがまじります。



シャロン・テート(マーゴット・ロビー)が自らヒロインとして出演した映画を、
劇場で実に楽しそうに見るシーンがすごく可愛らしい♡ 
しかしそもそもシャロン・テートをよく知らない私は、このシーンがなんのためにあるのか、
特にリックとクリフとも関連がなさそうなこの隣人たちのエピソードが
何を意味するのか?・・・と訝ってしまったのです。
シャロン・テートのことを知っていれば、とても興味深いシーンの数々だったはずなのですが。



結局本作は、タランティーノ監督の60年代への懐古と、
そして監督のある願いとか、祈りとか、夢、そういうものなのではないかと思う次第。



実のところ私、映画を見た直後は、
面白くなくはないけどなんだか腑に落ちない感じでいっぱいだったのですが、
後にシャロン・テートの事件のことを知って、すごく納得してしまいました。
2大俳優の起用も納得。
素敵な作品なのでした!・・・と、噛みしめるように思う。

 

<シネマフロンティアにて>
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」
2019年/アメリカ/161分
監督:クエンティン・タランティーノ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、エミール・ハーシュ、ダコタ・ファニング、アル・パチーノ
時代再現度★★★★★
満足度★★★★.5


「みやこさわぎ」西條奈加

2019年09月03日 | 本(その他)

地域密着、粋と人情

みやこさわぎ (お蔦さんの神楽坂日記) (創元推理文庫)
西條 奈加
東京創元社

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高校生になった滝本望は、いまも祖母と神楽坂でふたり暮らしをしている。
芸者時代の名前からお蔦さんと呼ばれる祖母は、
料理は孫に任せきりだしとても気が強いけれど、
ご近所衆から頼られる人気者だ。
そのお蔦さんが踊りの稽古をみている、若手芸妓・都姐さんが寿退職することになった。
幸せな時期のはずなのに、「これ以上迷惑はかけられない」と
都姐さんの表情は冴えなくて…(「みやこさわぎ」)。
神楽坂で起こる事件をお蔦さんが痛快に解決する!
粋と人情と、望が作る美味しい料理がたっぷり味わえるシリーズ第三弾。

* * * * * * * * * *

お蔦さんの神楽坂日記、シリーズ3巻目。
今回は、連作短編集となっていまして、私、このシリーズは
長編よりもやはりこの短編方式のほうが持ち味が活かせるなあ・・・と感じました。

 

「アリのままで」では、望を妙に注目している女子が登場。
その子がいきなり「フランス料理のソースの中で、うんと味の濃いものは何か?」と望に尋ねてくる。
味の濃いソース?
誰かを毒殺しようとでもしているのか・・・? 
でも実はそうではなくて・・・。
自分らしさのままでいいのだ、というテーマに沿ったストーリー。
「アリのままで」はもちろん、あのアニメ作品のテーマソングですね! 
そして本作中では、なぜか部活にも入らず元気をなくしているような楓のヒミツもわかります。

「鬼怒川便り」では夏休みに入ってすぐの神楽坂祭りのことが描かれます。
札幌にいる望の両親も帰省してきて、地域のにぎやかな神楽坂祭りが始まる。
商店街の人々との交流など地元密着の生活感あふれる一作。
そんな中のちょっとした事件は、
昔、鮎を巡って望の祖父母が珍しくケンカをしていたという記憶。
何が原因だったのか・・・。

今どきの高校生、通常はあまり地域とは関わらない事が多いと思うのですが、
お蔦さんと同居する事によって、否応なく生活=地域となっている、
そういうところが心地よい物語なのです。
そう言うと辛気臭い話ばかりなのかといえばそうではなく、
ちゃんとアニメオタクとコスプレの話が出てきたりもします。

図書館蔵書にて<単行本>

「みやこさわぎ」西條奈加 東京創元社
満足度★★★.5


バトル・オブ・ザ・セクシーズ

2019年09月02日 | 映画(は行)

女子の賞金は男子の8分の1

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実話に基づいています。



1973年。
女子テニス世界チャンピオン、ビリー・ジーン・キング(エマ・ストーン)は、
女子の優勝賞金が男子の8分の1であるというテニス界の激しい男女格差に異議を唱えます。
そして、仲間とともにテニス協会を脱退し、女子テニス協会を立ち上げます。
そんな頃、元男子世界チャンピオンのボビー・リッグス(スティーブ・カレル)が、
男性優位主義の代表として女性陣に挑戦状を叩きつけます。
キングVSリッグス、世紀のテニスデスマッチ「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」が始まります。

そもそもテニス界のことには全く疎い私です。
しかし、ビリー・ジーン・キング女史が当時日本でキング夫人と呼ばれていたということで、
かすかに思い出しました。
「エースをねらえ!」のコミックの中で、
岡ひろみが憧れ、目指していた一人がそのキング夫人ではなかったか・・・。
そういう時代のお話、ということですね。


全く、驚いてしまいますが、男女のチケットの売上は同じだというのに、
女子の賞金額は男子の8分の1だという。
その理由を問えば
「男には養う家族がいる」とか「男子の試合のほうが早くて強くて面白い」とか。
理由にもならない理由ですが、それが実際まかり通っていたわけで・・・。
女子の試合などただの余興、
女子供に大金なんか必要ないだろう、
という男性の身勝手ないやらしい匂いがプンプンしますね。



ビリーはいいます。
「どちらが上とか下とかではなくて、女性に敬意を払ってほしい」と。
様々な映画を見て気づきます。
いろいろな場所でいろいろな立場の女性が奮闘してきたおかげで、
私たちの今があるのだなあ・・・と。
それはまだまだ道半ばではありますが、この流れを途絶えさせてはいけませんね。

さて、本作でボビーは55歳。
シニア選手としてはまだ現役です。
で、彼は賭け事が大好きで、彼自身が女性の社会進出を阻もうと思っているわけではないのです。
ただ、自分と現役女性選手の試合を組めば盛り上がるだろう、と。
そのため彼は自ら「男性至上主義のブタ」を名乗り、
ひょうきんな振る舞いをして世間の注目を浴びます。
そういうことがわかっているので二人の関係性はそう悪くはありません。
ジーンはわかっているのです。
本当の敵は、一見紳士でキレイ事ばかりを並べる男たちであることを。



そしてもう一つ、驚くべきことに、キング夫人というくらいですから、彼女は結婚しているのです。
ところが美容師のマリリンに惹かれていく、
つまり実のところ同性愛者であることに目覚めて行くわけです。
彼女がレズビアンであることをカミングアウトしたというのも実話なんですね。


自分が自分らしくあること、そのことは何者にも非難されるいわれはないのだということ、
そういうことを貫き通す、実生活の上でも強い女性。
私も、憧れます。



それと本作、つい最近の作品なのですが、70年代の再現性が半端じゃないです。
当時作られた映画をそのまま見ているような感じ。
人々の服装や髪型、眼鏡の形。
主要人物だけでなく、ほんの通行人たちも。
作品の色合いも何か少しレトロっぽいような・・・。
これはなかなかすごい。

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エマ・ストーン,スティーヴ・カレル,アンドレア・ライズブロー,サラ・シルヴァーマン,ビル・プルマン
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

<WOWOW視聴にて>
「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」
2017年/アメリカ/122分
監督:バレリー・ファリス、ジョナサン・デイトン
出演:エマ・ストーン、スティーブ・カレル、アンドレア・ライズボロー、グラディス・ヘルドマン

時代再現性★★★★★
男女格差度★★★★☆
満足度★★★★☆

 


引っ越し大名!

2019年09月01日 | 映画(は行)

引っ越しは戦でござる!

* * * * * * * * * *

「引っ越し大名」といわれた、ある藩主の実話をもとにしています。



姫路藩の書庫番・片桐春之介(星野源)は、人と接するのが苦手で、
いつも書庫に引きこもっては読書三昧の毎日。
そんな時、姫路藩が幕府から豊後日田への国替を言い渡されます。
藩は、度重なる国替のための借金、そして現在の15万石から7万石への減俸となることなど難題だらけ。
前任の引っ越し奉行は過労のためか亡くなっており、引っ越しのためのノウハウもありません。
ところがそんなところにいきなり、書庫番の片桐が新引っ越し奉行に抜擢されてしまうのです。
片桐は固辞するも、受けなければ切腹といわれ、無理やり職につくことに・・・。



しかし、片桐の持ち前の人の良さ。
幼馴染で武芸の達人・鷹村(高橋一生)や、
前任引っ越し奉行の娘・於欄(高畑充希)、
勘定方の中西(濱田岳)らの協力を経て、
引っ越しの準備が進んでいきます。

 

国替は、すべての藩士とその家族の大移動。
参勤交代どころの話ではなく多大な費用・労力がかかるのは想像がつきます。
まずは次の藩主を迎え入れるための引き継ぎ文書を整備するというあたりに、
職場の異動経験のある私などはリアリティを強く感じました。



費用を抑えるために家財は誰もが差別なく半分に減らすとか、
人足を雇うのをやめて、全て自分たちで行うとか・・・。
片桐は思い切った手段を切り出します。
しかし言うのは簡単ですが、相当の反発も予想されますよね。
これを成し遂げるのは本当に大変そうです。
そして最も大変なのが、減俸となるための人員削減。
つまりはリストラであります。



ここで片桐は、藩士たちをクビにするのではなく「百姓になれ」というのです。
いつかまた加俸となったときに、きっと藩に呼び戻すから・・・と。
そんな口約束など、信じられないと普通なら思うはず。
しかしそこが片桐の人柄ゆえなんでしょうかねえ・・・。
一人ひとりに直に話をして納得させるのです。
実際、ここのエピソードが本作の要。
このことにつながるラストは、涙・・・涙・・・。
理不尽な中央からの命令に翻弄されながらも、
精一杯にベストを尽くし生きようとする人々の姿・・・。
いじましいです。

片桐に星野源さんの配役、ナイスでした!!
そしてその幼馴染で、調子の良い、
しかし実は武芸の達人でもある鷹村の高橋一生さんも良かったなあ・・・。
見せ所たっぷり、本人も楽しかったのでは? 
あの槍はとても重くて大変だったそうですが・・・。
ときにミュージカル風でもあり、とにかく楽しんで見ることのできた作品でした。

<シネマフロンティアにて>
「引っ越し大名!」
2019年/日本/120分
監督:犬童一心
原作・脚本:土橋章宏
出演:星野源、高橋一生、高畑充希、濱田岳、及川光博

引っ越しの困難度★★★★★
歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★★.5