映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「オブジェクタム」高山羽根子

2019年09月18日 | 本(その他)

いつの間にか異次元へ踏み込んでいく 

オブジェクタム
高山羽根子
朝日新聞出版

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小学生の頃、祖父はいつも秘密基地で壁新聞を作っていた。

手品、図書館、ホレスリコード、移動遊園地
――大人になった今、記憶の断片をたどると、ある事件といくつもの謎が浮かんでは消える。

読み終えた後、もう一度読み返したくなる不思議な感覚の小説集。

第2回林芙美子文学賞受賞作「太陽の側の島」も同時収録。

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高山羽根子さんは、私には初めての作家です。
SF作家、ということで本作もSFと捉えるべきなのかもしれませんが、
SFの枠を超えて、「ちょっと不思議な手触りの小説」という方が似合うかもしれません。
本巻には表題作「オブジェクタム」と他2篇の短編が収められています。

「オブジェクタム」

語り手が、小学生の頃の祖父との関わりを思い出しています。
祖父は秘密基地で町内の何カ所かに張り出す壁新聞を作っていて、
偶然そのことを知った語り手が、祖父を手伝うようになる。
町内の情報収集などをして・・・。
町の人々は結構楽しみにその新聞を読んでいるのですが、
誰もどこの誰がそれを作っているのかは知りません。
・・・ところが、どうも祖父の秘密はそれだけではなかったようなのです。
記憶の断片をつなぐと、なにかもっと壮大な秘密が浮かんで来るようでもある。
しかし、果たしてそれは本当のことなのだろうか・・・?

例えば昔行ったことがある(と、思っている)移動遊園地は、本当にあったことなのだろうか。
自分がそう思い込んでいるだけなのでは・・・?
と、ほとんど幻想めいた記憶が信じられなくなってくるのです。

何かつかみ所のない、夢のような物語。
でもこういう記憶の一つや二つ、誰にでもありそうです。
私は小さい頃住んでいた近所の山道をずっと登っていくと開けたところがあって、
そこに大きな池があった、などという記憶があるのですが、
どう考えて昔住んでいたあたりにそんな場所があったはずがない・・・という不思議な記憶。
一体記憶とは何なのか・・・?
そんな不安をも呼び起こすのでした。

「太陽の側の島」も面白いですよ。

戦地へ行った夫と、残された妻との手紙のやりとりです。
それはごく普通の戦時中のやりとりなのですが・・・。
しかし読み進むうちに膨らんでいく違和感。
どうにも実際にあった戦争の話ではないと思えてくる。
いつのまにか異次元へ踏み込んでいくような・・・。
これもまた不思議なストーリー。

「オブジェクタム」高山羽根子 朝日新聞出版

満足度★★★★☆