映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

波紋

2023年07月03日 | 映画(は行)

ついすがりついてしまう何かの正体

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緑命会という新興宗教を信仰し、祈りの勉強会に励みながら
心穏やかな日々を過ごす、須藤依子(筒井真理子)。

10数年前、夫(光石研)は自身の父の介護を依子に押しつけたまま失踪。
一人息子(磯村勇斗)は九州で就職して暮らしていて、今は一人暮らし。

そんなところへ、突然夫が帰ってきます。
自分はガンなのでここにいさせてほしい、薬代も援助してほしいと。
そしてまたある日、息子が障害のある恋人を結婚相手として連れてきます。
また、パート先では理不尽な客に罵倒され・・・。

依子にとっては耐えがたい苦難が降りかかり、
湧き上がる黒い感情を宗教にすがり、必死に押さえつけようとしますが・・・。

依子は夫が失踪した後に、夫が作っていた庭の花々を皆引き抜いてしまいます。
そしてそこに、白い砂利と大きな岩を配して、枯山水の庭にしてしまった。
そこに美しい波紋の模様を描き、整えるのが彼女の生きがいとなっています。

依子にとっては、心が波たたず平和、平穏、調和のとれた生活こそが
幸せと思えていたのでしょう。
そんな彼女にとってこの宗教はとても居心地がよかった。

けれども、通常「安らぎ」の源とされるはずの「家族」がやって来たことで、
彼女の心は乱れるのです。

そして、彼女がそんな心の鬱憤を打ち明けるのは、
緑命会のリーダーではなく、職場仲間の達観してサバサバした感じの女性(木野花)。
しかし実は彼女自身も問題を抱えていたことが分かるのですが・・・。

 

結局は誰の心の中にも鬱屈や生きにくさがあり、
必死に何かにすがり、執着しながら
それを乗り越えていくための手段としているのかも知れません。

そのすがりついた何かこそが、
世間一般から見ると「異様」なのかも。

 

依子は最後のある瞬間に、自分がすがりついている物の愚かさに気がついたのでしょう。

自身が健康で、仕事があって、生きていくだけのお金もまああって・・・、
それだけで十分幸せなのに、どうしてそう思えないのか。
自分自身にも、問うてみたい気がします。

 

<サツゲキにて>

「波紋」

2023年/日本/120分

監督・脚本:荻上直子

出演:筒井真理子、光石研、磯村勇斗、江口のりこ、
   平岩紙、ムロツヨシ、木野花、キムラ緑子

 

依存度★★★★★

崩壊度★★★★☆

満足度★★★★☆



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