映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「いまさら翼といわれても」米澤穂信

2019年08月01日 | 本(ミステリ)

ホータローの過去の出来事

いまさら翼といわれても (角川文庫)
米澤 穂信
KADOKAWA

* * * * * * * * * *


「ちーちゃんの行きそうなところ、知らない?」
夏休み初日、折木奉太郎にかかってきた"古典部"部員・伊原摩耶花からの電話。
合唱祭の本番を前に、ソロパートを任されている千反田えるが姿を消したと言う。
千反田はいま、どんな思いでどこにいるのか―
会場に駆けつけた奉太郎は推理を開始する。
千反田の知られざる苦悩が垣間見える表題作ほか、
謎解きを通し"古典部"メンバーの新たな一面に出会う全6編。
シリーズ第6弾!

* * * * * * * * * *

米澤穂信さんの「古典部」シリーズ。
短編集ですが、それぞれが古典部のメンバーそれぞれの視点で描かれていて、
とても興味深い。

「鏡には映らない」では、
伊原摩耶花がホータローの中学時代のある事件を語ります。
それは、事件というほどのことではないかもしれないのですが、
学校の中でホータローが孤立していくことになってしまったある出来事。
「省エネ男」ではあるけれど、無責任なことはしないはずのホータロー、
摩耶花はその出来事にはなにか違う裏がある、と思うのです。
本人に聞くのが一番ですが、まともに答えるとは思えない。
そこで彼女は独自にその時の出来事を調べ始めます。
真相はいかにもホータローらしい。
それで周りの皆の不評を買ったとしても、自分がすべきと思うことにはためらわないホータロー。
ナイスな真相なのでした。

「長い休日」は、千反田えるがズバリ、ホータローに、
いつもの口癖「やらなくていいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」を
どうして言うようになったのかを聞きます。
今度は話がホータローの小学校のときにまで遡る。
それまでの彼は、人に何か頼まれたら決してイヤとはいわず、聞き入れる子だったのですよ。
それも人によく思われたくて、ということではなくて、単に素直だったんですね。
しかしその生き方にさすがに自分でも疑問を抱かざるを得ない出来事があった・・・。
いわばトラウマのようなことがあって、それで彼は主義を変えたわけなのですね。
でも実のところ省エネ男を自称しながらも、
そもそもこのストーリーが次々とホータローが身の回りに起こる面倒事に首を突っ込んで
解決していくというものなので、
結局人のために動いてばかりいる、そんなホータローが大好きです!

そして巻末が表題作「いまさら翼といわれても」
合唱祭の本番前、ソロパートを受け持っている千反田が、突如姿を消してしまうのです。
一体彼女に何があったのか・・・。
ホータローは推理します。
しかし本作、肝心の結論なしに終わってしまう。
ひや~、それはない。
でも、それがまたすごい効果ですよね。
続きを首を長くして待つことにします。


「いまさら翼といわれても」米澤穂信 角川文庫
満足度★★★★★



最新の画像もっと見る

コメントを投稿