虐待を逃れてきた少年の、生きる力
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山深い秘境を走る旧道沿いにぽつんと佇む「ドライブインまほろば」。
店主の比奈子が一人で切り盛りする寂れた食堂に、
突然男の子が幼い妹を連れて現われた。
憂と名乗る少年は「夏休みが終わるまでここに置いてください」と必死に懇願する。
困惑する比奈子だが、事故で亡くした愛娘の記憶が甦り、
逡巡しながらも二人を受け入れてしまう。
その夜更け、比奈子は月明かりの下で激しく震え嗚咽する憂に気付いた。
憂は、義父を殺し逃げてきたことを告白し――。
「生きる意味」を問い、過酷な人生に光を灯す感動長編。
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ドライブインまほろば・・・と聞くと何やらほのぼのしたイメージを思い浮かべますが、
いえいえ、遠田潤子さんですから、辛い現実を避けては通れません。
旧道沿いにぽつんとある、さびれたドライブイン、まほろば。
店主の比奈子が一人で切り盛りしています。
ある日そこへ一人の少年が、幼い妹を連れてやって来ます。
憂と名乗る少年は、「人を殺してきた」といい、
「夏休みが終わるまでここに置いて欲しい」と必死で懇願するのです。
一方物語はその憂がそれまで生活していた側も描き出します。
憂は、実父から虐待され、母からはかばってもらったこともない。
その後母が離婚して次に継父となった流星という男もまた、憂を虐待。
母は流星にしか関心がなく、流星との間にできた女児も、憂も、全くのネグレクト状態。
それでも耐えていた憂ですが、ついに流星の虐待が妹にも及ぼうとするときに、
逆襲し、流星を殺してしまったのです・・・。
流星には双子の兄・銀河がいて、
銀河は弟・流星を手にかけた憂に復讐を果たすべく、憂の行方を探し始めます。
問題の根っこは、この銀河・流星の兄弟にあるのかもしれません。
彼らもまた、親からは少しの愛情も与えられずに育った。
ネグレクトや虐待の連鎖というのでしょうか。
彼らには通常の「家族」という概念がないのかもしれません。
孤独でよりどころも知らないままに成長した彼らは、どこへ向かおうとするのか・・・。
10年に一度だけ森の中に出現するという、幻の池、十年池。
そこで、奇跡は起こるのか???
子どもが出てくる物語は、きっと少し明るい未来を運んでくれるので、好きです。
いきなり殺人を犯してしまった少年の物語、
というのには驚いたけれど、満足のいくストーリーでした。
「ドライブインまほろば」遠田潤子 双葉文庫
満足度★★★★☆
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