映画と本の『たんぽぽ館』

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「あと少し、もう少し」瀬尾まいこ 

2015年05月05日 | 本(その他)
走るのは一人でも、繋がる心

あと少し、もう少し (新潮文庫)
瀬尾 まいこ
新潮社


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陸上部の名物顧問が異動となり、
代わりにやってきたのは頼りない美術教師。
部長の桝井は、中学最後の駅伝大会に向けてメンバーを募り練習をはじめるが…。
元いじめられっ子の設楽、不良の大田、頼みを断れないジロー、
プライドの高い渡部、後輩の俊介。
寄せ集めの6人は県大会出場を目指して、襷をつなぐ。
あと少し、もう少し、みんなと走りたい。
涙が止まらない、傑作青春小説。


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中学生の駅伝大会に出場するメンバーたちの物語。
駅伝といえば、やはり三浦しをんさんの「風が強く吹いている」を思い出してしまいますが、
こちらは中学生で、だから箱根駅伝みたいなビッグなイベントではなくて、県大会。
駅伝というのは走者一人ひとりの走りに合わせて、
各々の胸の内を描写していくという形がよく似合います。
「風が強く・・・」の方もそうでしたが、
こちらの中学生の思いも一人ひとり個性的でリアルです。
そもそも少年少女が主役のストーリーが大好きなもので・・・。


元いじめられっ子で内気の設楽。
不良を気取る一匹狼的大田。
人からの頼み事を断ることができないジロー。
プライドが高くいつも自分流の渡部。
元気いっぱいの一人だけ後輩・俊介。
そして彼らを取りまとめる、リーダーシップと気働きの人、桝井。
それぞれの自分で思っている自分像と、
他者から見た自分像のギャップ、これが面白い。
気になってしまうのは、ここの所、走りが不調の桝井くん。
彼は誰にでも気さくに話しかけ、人を引きつける優等生タイプ。
でも自分がちゃんとして、このチームを何とかしなければ・・・と
そういう責任感にとらわれすぎているようにも見受けられるのですね。
それでいよいよ大会直前というような時期に
思わず彼らしからぬ暴言をはいてしまったりする。
この彼の内心は一体どうなのだろうと、一番気になるところなのですが、
彼が走るのは最終6区。
その答えは最後までお預けというのも、よく出来ています。


また、陸上部の新顧問は、全く競技のことを知らない美術教師の上原。
彼女も、駅伝のことはよくわからないまでも、
なかなか洞察力鋭く、子どもたち一人ひとりをよく見ています。
こんなふうな、ぼんやりした雰囲気の先生というのも
ちょっと貴重だと思ったりもします。
ガンガン怒鳴りまくる体育会系ではなくて。


駅伝は走るときは一人だけれども、
人とつながらなくてはできない競技なのですね。
それぞれが自分とは何者なのか、そういうことを見つめるこの年頃。
それは自分自身だけではなくて、
他者との関わりの中で見えてくる部分も大きいのだと思います。
仲間と自分。
そういうあり方を見つめる物語です。
文庫版の解説は三浦しをんさん。
なるほど、納得。

「あと少し、もう少し」瀬尾まいこ 新潮文庫
満足度★★★★☆


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