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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「教団X」中村文則

2017年08月11日 | 本(その他)
魂はどこから来て、どこへ行くのか・・・?

教団X (集英社文庫)
中村 文則
集英社


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突然自分の前から姿を消した女性を探し、
楢崎が辿り着いたのは、奇妙な老人を中心とした宗教団体、
そして彼らと敵対する、性の解放を謳う謎のカルト教団だった。
二人のカリスマの間で蠢く、悦楽と革命への誘惑。
四人の男女の運命が絡まり合い、やがて教団は暴走し、
この国を根幹から揺さぶり始める。
神とは何か。
運命とは何か。
絶対的な闇とは、光とは何か。
著者の最長にして最高傑作。


* * * * * * * * * *

私にははじめての作家さんです。
最近読んだ「ジブリの文学」の中に鈴木敏夫さんとこの著者との対談が収められていて、
「教団X」のことに触れていたので興味を持ちました。
さっそく図書館予約しようかなと思った矢先、
文庫が発売されたので、グッド・タイミング!


本作、宗教団体のことがテーマではありますが、
例えばオーム真理教のように社会問題へと発展した「宗教」をまとった闇のこと
・・・というよりも、物語を通して著者の「生きること」に対しての
様々な思いをぶちまけた作品のような気がします。


最初の方にある話でまず圧倒されます。
人の体(もちろん他の動物もそうですが)は、無数の原子でできている。
ミクロの物質による科学的な働き、発生する無数の電気的信号で活動している。
これらの原子は絶えず入れ替わっていて、
およそ一ヶ月もすると、すっかり別のものと入れ替わるそうです・・・。
では"意識"や"魂"、"私"などと呼ばれるようなものは
一体何なんでしょう??? 
しかもこの中では、脳がすべてを決め、
「意識」はただそれをなぞっているだけなのだと言っています。


肉体は朽ちて分解して、また新たな生命の一部となると考えると
輪廻転生の考えに沿うような気がします。
けれども、この「意識」というものはどこから来てどこへ行くのか・・・。
やはり不思議です。


また、別の話になりますが、裕福な国と貧困の国の差が解消できないカラクリが語られる部分にも、
強烈な印象を受けました。
確かに、それこそが真実と思える。
そういうことを知った上で、私たちは世界を考えていくべきなのだろうなあ・・・。


そんなわけで、私は、全体のストーリーよりも、所々で語られる薀蓄がお気に入りです。
圧倒的な筆力で、「読まされ」てしまう本でした。

「教団X」中村文則 集英社文庫
満足度★★★★☆