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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「アフターダーク」村上春樹

2017年03月13日 | 本(その他)
マリの無意識の世界

アフターダーク (講談社文庫)
村上 春樹
講談社


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時計の針が深夜零時を指すほんの少し前、
都会にあるファミレスで熱心に本を読んでいる女性がいた。
フード付きパーカにブルージーンズという姿の彼女のもとに、
ひとりの男性が近づいて声をかける。
そして、同じ時刻、ある視線が、もう一人の若い女性をとらえる―。
新しい小説世界に向かう、村上春樹の長編。

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先に河合隼雄先生の「心の読書教室」という本を読みまして、
そこには様々な著者の作品について、
先生の立場から「こころの内面を描いている」作品を紹介したものです。
このブログでぜひご紹介したかったのですが、
紹介されているもので私が読んでいるものは少なかったので、
今後挙げられている本を読んだときに
折りに触れ、ご紹介していきたいと思います。


でも、そんな中で目についたのがこの「アフターダーク」です。
村上春樹さん作品で未読のものだったので、この度読んでみました。


19歳のマリが、家の外(主にファミレスなど)で一夜を明かす物語。
時系列順に起きているできごとが語られていきます。
マリにはエリという姉がいて、モデルをしている誰もが認める美人です。
そんなことなので、親を含めて誰もが姉に注目し、
マリはどうでもよく思われている(と、彼女は思っている)。
ところが、その姉は少し前から何故か自室のベッドで
こんこんと眠り続けている。
まるで眠り姫のように・・・。


河合隼雄先生はズバリ、これはマリの無意識の世界の物語だと言います。
自分の内界は自分が一番よく知っていると思いがちだけれども、
それは大間違いで、自分で見て知っていることはほんの少し。
その他に知らないことはいっぱいある。
だから大筋では、エリが眠り続けてしかも危ない状況にあるというのは、
マリの姉に対する複雑な感情の現れととらえてよいのでしょう。
そしてマリと対話するためにしばしば現れる高橋という青年は、
マリ自身の肯定的部分。
河合先生は、あの極めて理性的なようで非情な暴力性を秘めている白川すらも、
マリの一部であるといいます。


本作はマリの意識的な部分、無意識的な部分を、
少し離れた高みから包括的に眺めているという「視点」で書かれているわけです。
しかしこの一晩の出来事で、マリのエリに対する愛情が、
内界から表層へ蘇ってくるというような結末が心地良いですね。


あの暴力男・白川の話が中途半端なままではあるのですが、
心のなかで起こっている色々なことはそう簡単に解決しないものだから、
それはそれでいいのだ、と先生はおっしゃる。
確かに、取ってつけたような結末は不要にも思えます。


実際わかりにくいストーリーではあったと思うのですが、
河合隼雄先生のおかけで、非常に興味深く読めました。


次回はいよいよ村上春樹さん新作「騎士団長殺し」です!!

「アフターダーク」村上春樹 講談社文庫
満足度★★★★☆