鉄道ファンタジー
* * * * * * * * * *
改札から出ようとして気が付いた。
ないない、キップがない!
「キップをなくしたら駅から出られないんだよ」。
どうしよう、もう帰れないのかな。
キップのない子供たちと、東京駅で暮らすことになったイタル。
気がかりはミンちゃん。
「なんでご飯を食べないの?」。
ミンちゃんは言った。
「私、死んでいるの」。
死んだ子をどうしたらいいんだろう。
駅長さんに相談に行ったイタルたちは―。
少年のひと夏を描いた鉄道冒険小説。
* * * * * * * * * *
鉄道冒険小説・・・というよりも
鉄道ファンタジーというべきかもしれません。
キップをなくした子供は駅の改札を通ることができないので、
ずっとその改札内で過ごさなければならない。
そこでイタルは、同様にキップをなくした子どもたちとともに
東京駅の改札内で生活することになります。
そう、東京駅なら改札内でも生きていけると思えるほどに、様々なお店があります。
しかし子どもたちはただそこでブラブラしているわけではなく、
電車で通学している子どもたちの安全を守るという「仕事」を担っているのです。
それはもともと、この駅で殉死した名誉駅長さんの意志なのでした。
さてこの子どもたちの中で、一人ご飯を食べないミンちゃんという女の子がいます。
いつも何か寂しげな彼女は、実はすでに死んでいる子だったのです・・・。
最後の方にこのミンちゃんを北海道の静内近くの町に送り届けるために、
みんなで旅をするシーンがあります。
まるで修学旅行のようだけれど、
それはミンちゃんとのお別れの旅なので、少し悲しい。
静内、というところがやはり池澤夏樹さんなので、嬉しくもありましたが。
ところでそこのくだりを読むうちに「あれ?」と思ったのは、
北海道へ渡るところで、青函トンネルではなく青函連絡船を使ったところです。
これってそんなに古い作品?と思って見てみれば、
単行本が出たのが2005年。
つまり初めから少し時代を戻したところに設定して書かれているのですね。
巻末の解説で旦敬介さんが同じところに気がついて、次のように言っています。
詳しく見ていくと、この物語の舞台は国鉄が廃止されJRとなった1987年4月1日から
青函トンネルが開通する以前1988年3月の間に限定されるのだと。
なぜ、あえてその時を選んだのかというと、
このときにはじめて沖縄を除いた日本列島が鉄道や道路で統合されたということ、
つまり日本の「異界」がなくなった時なのではないか、と。
なるほど、そういう記念碑的意味も含めて考えると、
また違う深みも出てきますね。
私の高校生の時の修学旅行は、それこそ青函連絡船を使って京都まででしたので、
とても懐かしく読みました。
「キップをなくして」池澤夏樹 角川文庫
満足度★★★.5
![]() | キップをなくして (角川文庫) |
池澤 夏樹 | |
角川書店(角川グループパブリッシング) |
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改札から出ようとして気が付いた。
ないない、キップがない!
「キップをなくしたら駅から出られないんだよ」。
どうしよう、もう帰れないのかな。
キップのない子供たちと、東京駅で暮らすことになったイタル。
気がかりはミンちゃん。
「なんでご飯を食べないの?」。
ミンちゃんは言った。
「私、死んでいるの」。
死んだ子をどうしたらいいんだろう。
駅長さんに相談に行ったイタルたちは―。
少年のひと夏を描いた鉄道冒険小説。
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鉄道冒険小説・・・というよりも
鉄道ファンタジーというべきかもしれません。
キップをなくした子供は駅の改札を通ることができないので、
ずっとその改札内で過ごさなければならない。
そこでイタルは、同様にキップをなくした子どもたちとともに
東京駅の改札内で生活することになります。
そう、東京駅なら改札内でも生きていけると思えるほどに、様々なお店があります。
しかし子どもたちはただそこでブラブラしているわけではなく、
電車で通学している子どもたちの安全を守るという「仕事」を担っているのです。
それはもともと、この駅で殉死した名誉駅長さんの意志なのでした。
さてこの子どもたちの中で、一人ご飯を食べないミンちゃんという女の子がいます。
いつも何か寂しげな彼女は、実はすでに死んでいる子だったのです・・・。
最後の方にこのミンちゃんを北海道の静内近くの町に送り届けるために、
みんなで旅をするシーンがあります。
まるで修学旅行のようだけれど、
それはミンちゃんとのお別れの旅なので、少し悲しい。
静内、というところがやはり池澤夏樹さんなので、嬉しくもありましたが。
ところでそこのくだりを読むうちに「あれ?」と思ったのは、
北海道へ渡るところで、青函トンネルではなく青函連絡船を使ったところです。
これってそんなに古い作品?と思って見てみれば、
単行本が出たのが2005年。
つまり初めから少し時代を戻したところに設定して書かれているのですね。
巻末の解説で旦敬介さんが同じところに気がついて、次のように言っています。
詳しく見ていくと、この物語の舞台は国鉄が廃止されJRとなった1987年4月1日から
青函トンネルが開通する以前1988年3月の間に限定されるのだと。
なぜ、あえてその時を選んだのかというと、
このときにはじめて沖縄を除いた日本列島が鉄道や道路で統合されたということ、
つまり日本の「異界」がなくなった時なのではないか、と。
なるほど、そういう記念碑的意味も含めて考えると、
また違う深みも出てきますね。
私の高校生の時の修学旅行は、それこそ青函連絡船を使って京都まででしたので、
とても懐かしく読みました。
「キップをなくして」池澤夏樹 角川文庫
満足度★★★.5