憎しみの連鎖を断ち切るために

* * * * * * * * * *
どことは特に言わないけれど、どこかにありそうな国の物語です。
国民から搾取した金で贅沢な暮らしをし、
政権維持のため多くの罪なき人々を拷問したり処刑したりしてきた老齢の独裁者。
ある日、クーデターが起こり地位を追われた独裁者は
幼い孫を連れて逃亡せざるを得なくなってしまいました。
彼は、これまでは孫にも自身を「陛下」と呼ばせていたのに、
もうそう呼んではいけないと言い聞かせます。
なにが起こったのかまだ理解できない孫は、戸惑いながらも従いますが・・・。
軍は大統領のみならず、その政権側についたものを捉えようと躍起になり、
街は戦場のようになっています。
そこでまた、巻き添えを食って一般庶民が傷ついたりする。
いずれにしても、いつも被害を被るのは一般庶民なんですね。

さて、元・大統領は、羊飼いや旅芸人に変装し、
厳重な捜査の中をくぐり抜けてゆきますが・・・。
国中に大きな大統領の写真が貼りだされています。
しかも子連れと知られていてはなかなか、逃亡も困難。
そんな中ではありますが、
元・大統領は、はじめて貧しい人々の暮らしや、
政治犯として捕らえられ拷問にあった人々をじかに見るのです。

自分がこれまでに行ったこと、行わなかったこと、
今になって知るのは手遅れに過ぎますが、
彼のそうした気付きは特に『言葉』では表現されません。
けれども、彼が拷問で傷ついた人の足の手当をするシーンなどで、
彼の後悔は十分に表されているのでした。
本作で、独裁者一人ではなく5才の孫と共に行動しているというところにも意義があります。
孫の純粋さは、独裁者の良心でもあるのですね。
人々が苦しむのを見るとき、孫のダチは「どうして?なぜ?」と祖父に問いかけます。
祖父は、自分がこれまで行ったことを思い出さなければそれに答えることができない。
実はこのダチは、はじめに登場した時は、いかにもわがままそうで感じ悪い子なんですよ。

でもそれは彼のせいではない。
そこまで彼を甘やかしてしまった、周りのせいでした。
あらゆるひどい出来事を目の当たりにし、少年自身も随分と成長していくのが見て取れます。
誰もがこれまでの苦しい生活は、大統領のせいだと思っています。
見つけたら、同じ苦しみを味あわせ、殺してやる!と、ほとんどの人が言う。
けれどそんな中で、そんなことをすれば、憎しみが繰り返されるだけだ、という人がたった一人。
これこそが本作の重要なテーマなのでしょう。
多くの人が感情に任せ、怒り狂って復讐を果たそうとするときに、
こんなことを言うのは逆に自分も危ない立場になりかねない。
はっきりとそう言える人こそが勇気ある人なのかもしれません。
大変貴重な作品です。
「独裁者と小さな孫」
2014年/ジョージア・フランス・イギリス・ドイツ/119分
監督:モフセン・マフマルバフ
出演:ミシャ・ゴミアシュビリ、ダチ・オルウェラシュビリ、ラ・スキタシュビリ、グジャ・ブルデュリ
メッセージ性★★★★☆
満足度★★★★☆

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どことは特に言わないけれど、どこかにありそうな国の物語です。
国民から搾取した金で贅沢な暮らしをし、
政権維持のため多くの罪なき人々を拷問したり処刑したりしてきた老齢の独裁者。
ある日、クーデターが起こり地位を追われた独裁者は
幼い孫を連れて逃亡せざるを得なくなってしまいました。
彼は、これまでは孫にも自身を「陛下」と呼ばせていたのに、
もうそう呼んではいけないと言い聞かせます。
なにが起こったのかまだ理解できない孫は、戸惑いながらも従いますが・・・。
軍は大統領のみならず、その政権側についたものを捉えようと躍起になり、
街は戦場のようになっています。
そこでまた、巻き添えを食って一般庶民が傷ついたりする。
いずれにしても、いつも被害を被るのは一般庶民なんですね。

さて、元・大統領は、羊飼いや旅芸人に変装し、
厳重な捜査の中をくぐり抜けてゆきますが・・・。
国中に大きな大統領の写真が貼りだされています。
しかも子連れと知られていてはなかなか、逃亡も困難。
そんな中ではありますが、
元・大統領は、はじめて貧しい人々の暮らしや、
政治犯として捕らえられ拷問にあった人々をじかに見るのです。

自分がこれまでに行ったこと、行わなかったこと、
今になって知るのは手遅れに過ぎますが、
彼のそうした気付きは特に『言葉』では表現されません。
けれども、彼が拷問で傷ついた人の足の手当をするシーンなどで、
彼の後悔は十分に表されているのでした。
本作で、独裁者一人ではなく5才の孫と共に行動しているというところにも意義があります。
孫の純粋さは、独裁者の良心でもあるのですね。
人々が苦しむのを見るとき、孫のダチは「どうして?なぜ?」と祖父に問いかけます。
祖父は、自分がこれまで行ったことを思い出さなければそれに答えることができない。
実はこのダチは、はじめに登場した時は、いかにもわがままそうで感じ悪い子なんですよ。

でもそれは彼のせいではない。
そこまで彼を甘やかしてしまった、周りのせいでした。
あらゆるひどい出来事を目の当たりにし、少年自身も随分と成長していくのが見て取れます。
誰もがこれまでの苦しい生活は、大統領のせいだと思っています。
見つけたら、同じ苦しみを味あわせ、殺してやる!と、ほとんどの人が言う。
けれどそんな中で、そんなことをすれば、憎しみが繰り返されるだけだ、という人がたった一人。
これこそが本作の重要なテーマなのでしょう。
多くの人が感情に任せ、怒り狂って復讐を果たそうとするときに、
こんなことを言うのは逆に自分も危ない立場になりかねない。
はっきりとそう言える人こそが勇気ある人なのかもしれません。
大変貴重な作品です。
![]() | 独裁者と小さな孫 [DVD] |
ミシャ・ゴミアシュヴィリ,ダチ・オルウェラシュヴィリ,ラ・スキタシュヴィリ,グジャ・ブルデュリ,ズラ・ベガリシュヴィリ | |
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「独裁者と小さな孫」
2014年/ジョージア・フランス・イギリス・ドイツ/119分
監督:モフセン・マフマルバフ
出演:ミシャ・ゴミアシュビリ、ダチ・オルウェラシュビリ、ラ・スキタシュビリ、グジャ・ブルデュリ
メッセージ性★★★★☆
満足度★★★★☆