映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

アルバート氏の人生

2013年02月16日 | 映画(あ行)
ふんわり包み込むような優しさ・・・ひなびた味



            * * * * * * * * *

19世紀、アイルランドのダブリン。
自由を得るために、男性として生きなければならなかった一人の女性の物語。
この頃のアイルランドは飢饉と疫病で、大勢の人が亡くなったという大変な時代だそうです。
時代的にも女性が一人で生きるというのは大変難しかった。
そんな中でアルバート・ノッブス(グレン・クローズ)は、
40年間女性であることを隠し、ホテルの執事として働いていたのです。

あるときアルバートは、ペンキ屋のヒューバート(ジャネット・マクティア)と出会います。
そして彼に感化され性別を偽り続けて生きていくことに疑問を覚えるのです。
これまでコツコツと貯めてきたお金で自分の店を持ちたい。
できれば、自分を理解してくれる良きパートナーと共に・・・。
夢が膨らむアルバートは、同じホテルのメイドであるヘレン(ミア・ワシコウスカ)に声をかけますが・・・。



ヒューバートの正体には驚いてしまいました。
役者さんをちゃんと知っている方なら、配役を見ただけでからくりはわかったはずですが、
私はわかっていなかったので・・・。
だって、この驚きはアルバート以上です。
どこからどう見ても普通にナイスガイなんだもの。
けれど、このようにエネルギッシュに生きていくこともできるのかと、
アルバートには非常な驚きだったわけですね。

もう殆ど枯れた老人のアルバートが、
若く活き活きとしたヘレンを必死でかまおうとするのが、
ちょっぴりユーモラスでもありました。
ところが人の思惑なんて、たいていは的外れ。
ヘレンにはヘレンの事情というものがある・・・。
人の思いのベクトルが行き違いすれ違って、皮肉な様相を呈してきます。
単に性の倒錯の物語だけではなく、
人生の悲哀とユーモアをしっとりと現した名作。
実は悲しい終わり方なのですが、あまり悲壮感がない。
何かふんわり包み込むような優しさが漂う作品です。



人々がたぶん訛りのある言葉で話しているのが分かりました。
アイルランド訛りですね。
それでたぶん英米の方なら、とてもひなびた感じのする作品なのだろうと思います。
グレン・クローズは1980年代にこの役を舞台で演じてから、ずっと映画化を夢見ていたそうです。
そんな訳で、本作では制作・脚本も務めています。
そういうこだわりがあればこその力作でした。



あの役作りというのがすごいですね。
もちろん演技力が一番物を言いますが、
メイクなどの力もかなりあるのでは?
ドレス姿の海岸の散歩シーンは、どう見ても“女装の男性”で、
そこがまた皮肉で可笑しみがありました。
そう思わせるというのが、すごい技術だと感じ入ってしまったわけです。
アーロン・ジョンソンは、しょうもない役でしたが、いい男!!

2011年/アイルランド/113分
監督:ロドリゴ・ガルシア
出演:グレン・クローズ、ミア・ワシコウスカ、アーロン・ジョンソン、ジャネット・マクティア、ブレンダン・グリーソン

「アルバート氏の人生」
人生の悲哀とおかしみ★★★★☆
歴史学習★★★☆☆
満足度★★★★☆