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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「元気でいてよ、R2-D2。」 北村薫

2012年10月18日 | 本(その他)
心がひんやりの短篇集

元気でいてよ、R2-D2。 (集英社文庫)
北村 薫
集英社


             * * * * * * * * * 

北村薫さんの短篇集。
この本のテイストは"陰"です。
ホラーというほどではありませんが、
ほんのちょっぴりの毒、心の底がひんやりとするストーリーの数々。
それも、ストーリーのラストほんの数行で、真相が読めて怖くなってくる
・・・という構図の転換がなんとも心にくいのです。


前書きで、「妊娠中の方は、読まないでください」と注釈のある
「腹中の恐怖」
腹中の恐怖と言われて思い出すのは映画「エイリアン」だったりしますが、
今作はそんな血みどろの話ではありません。
ある種の人の「念」の怖さ。
知らなければなんともないのに、知ってしまったらもう耐えられない。
そういう事ってありますよね。


表題作「元気でいてよ、R2-D2。」
R2-D2は、おなじみスターウォーズに登場するロボットですが、
今作に、彼が登場するわけではないのです。
語り手の女性が、居酒屋で飲みながら、友人に話をしている。
その彼女の語りを文章化してあるのがこのストーリー。
どうやら彼女は一人暮らしで、
自然と身の回りのモノや、ベランダの向こうの庭木などに語りかけてしまうらしいのですね。
その居酒屋においてあるコーヒーメーカーが、なんだかR2-D2に似ているので、
彼女はそのコーヒーメーカーにも語りかけてしまうのです。
彼女の語りを聞くうちに、彼女の生活感や恋愛観がわかってきて、
なんかイイなと思えてくる。
でも、最後に慄然とさせられてしまうのは、
別に殺人事件があったり、彼女が誰かに傷つけられたりするわけではないのです。
彼女が語りかけていた木のことが書かれているだけなのですが・・・。
なんて鮮烈でショッキング。
R2-D2に語りかける言葉がなぜ「元気でいてよ」なのか。
実に味わい深い作品です。


ラストの「ざくろ」は、怖いですよ。
60歳の女性のモノローグとなっていますが、
なぜか小学生の書いた文章のように平仮名交じりなのが気になってしまうのですよね。
でも、それには秘密が・・・
人の思考の不思議を思います。

「元気でいてよ、R2-D2。」北村薫 集英社文庫
満足度★★★★☆