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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「オランダ宿の娘」 葉室麟

2012年10月08日 | 本(その他)
凛として前を向いて生きていく

オランダ宿の娘 (ハヤカワ文庫JA)
葉室 麟
早川書房


                    * * * * * * * * * 

先に直木賞受賞した葉室麟さんの作品、
私には始めての作家ですが、読んでみました。


江戸時代後期。
オランダ宿というのは、長崎の出島にあるオランダ商館から江戸に参府する
カピタン一行のための宿です。
江戸にある長崎屋というその宿は、主人源右衛門が取り仕切っており、
彼にはるんと美鶴という美しい二人の娘がいます。
この物語の軸となるのはシーボルト事件。


シーボルト事件とは・・・
文政11年(1828年)9月、
オランダ商館付の医師であるシーボルトが帰国する直前、
所持品の中に国外に持ち出すことが禁じられていた日本地図などが見つかり、
それを贈った幕府天文方・書物奉行の高橋景保ほか十数名が処分され、
景保は獄死した(その後死罪判決を受けている)。
シーボルトは文政12年(1829年)に国外追放のうえ再渡航禁止の処分を受けた。
当時、この事件は間宮林蔵の密告によるものと信じられた。
Wikipediaより



ここにあげられる、シーボルト、高橋景保、間宮林蔵なども登場し、
るんと美鶴が事件に巻き込まれていきます。
るんの、困難な中でも凛として前を向いて生きていく様が、魅力的に描かれています。
そしてもうひとつ特筆すべきは、
江戸の火事についても触れられていること。
火事と喧嘩は江戸の花などといいますが、
そんな華々しいものではなく、
本当に江戸は何度も大きな火事が起きて、多くの人が犠牲になったのですね。
何度も何度も焼けては建て、建てては焼けて、
そうして江戸の町は大きくなっていったのでしょう。
そんな庶民のエネルギーも感じられました。
作中では、火事の裏に"女の念"がある・・・などということも語られています。
そしてまた、意外な真相もあったりして、
なかなか油断のならない物語なのです。


当時の日本では、外国人と直接話をする経験を持つ人は極まれ。
身近に外国人がいる彼女たちは、異国の文化に触れ、
いつか自由に外国と行き来できる日を夢見たかも知れませんね。
それが果たせるのは、まだまだ遠い先のこと・・・

「オランダ宿の娘」葉室麟 ハヤカワ文庫
満足度★★★☆☆