「6ステイン」 福井晴敏 講談社文庫
6つの染み。6篇の短編集を総合した題名となっています。
どれも、福井晴敏カラー満載。
生死の狭間で傷つき悩みながら生きていく主人公たち。心がジンと熱くなります。
お勧めの一冊。
★夫と子供がいながら、仕事を持つ由美子。
たまに早く帰ることが出来たと思えば、床には子供がぶちまけた油の海。
在宅の仕事を持つ夫はと見れば、子供はそっちのけで仕事中。
人がこんなに忙しい思いをしてがんばっているのに、この状況は何!!
思わず、夫や子供に当たってしまう彼女。
・・・え? すごく身に覚えのあるこのシチュエーション。
でも、これって、ホントに福井晴敏?、
と、思わずそう思ってしまったのですが、そこにかかってきたケータイの呼び出しは、防衛庁情報局からのもの。
そう、彼女の職場がそれ。
そこからは紛れもなく、福井ワールド。
しかし、この、妻であり母であるという彼女の立場が、この物語に深くかかわってくるのです。
身柄を拘束された中国マフィア、ユイ・ヨンルウの尋問をすることになるのですが、彼の「母親は家に帰れ」という言葉に、仕事に徹しきれず、動揺してしまう。
母と子の絆をテーマに、ストーリーは進んでいきますが、しんみりした余韻が残るステキな話でした。
---「媽媽(マーマー)」
★また、これと次の短編「断ち切る」は続編となっていますが、こちらは、もと天才的スリの老人が主人公。
息子の嫁に邪魔者に思われながら所在無い毎日を過ごしている、という設定。
先の、短編との接点が終盤にあかされ、ほう!と、思わされます。
★始めは、どうにも食えない、したたかなバアサン。
しかし、その過去が明かされるうちに、元は評判の美人芸者で、昔愛した人をひたすら思い続けていることが解ってくる。
なるほど、そうしてみると、立ち居振る舞い、ちょっとしたしぐさに、まだ、かすかに残る色香。
女の強さと情の深さに魅せられていきます。
・・・これも印象に残る作品。
---「畳算」
★そして、ラストには、これがまた、福井さんの真骨頂。
経験豊富、百選練磨のくだけた初老のオジサンと、無口で硬質、ストイックな若者のコンビ。
この2人のやり取りがなんともちぐはぐでいて、楽しい。
こういう若い人、福井さんは好きだよなあ・・・と思ったら、
何と、あの如月行くんに、こんなところで会えるとは!!
---「920を待ちながら」