先のミステリー小説ランキング紹介記事で取り上げられていた作品中、
まず借りることができたのが「三人書房/柳川一(やながわ はじめ)著」
でした。野波記者が『偏愛の一冊』と紹介していた作品で、「乱歩ファン
必読の連作短編集だ」となると、読まないわけには参りません。
乱歩は、専業作家となるまで職を転々としたことは有名で、二人の弟と
団子坂で営んでいた古本屋『三人書房』時代を舞台にし、架空の事件に
乱歩が首を突っ込んで、解決させる短編を集めたものがこの本の骨子です。
乱歩の職歴にはなんと「夜泣きソバ屋」もあり、この小説では、その
突拍子のなさは、実はある事件の捜査のためとしていたり、のちの作家
デビュー後、創作に行き詰まり、休筆、逃避行するのも、別の事件解決に
没頭するためだったとの受けとめです。要は、後付の筆者の「好意的」な
解釈にすぎないのですが、そんな空想もなんだか楽しくなってはきます。
そうした一見回り道が、やがて「屋根裏の散歩者」や「押絵と旅する男」
などの代表作につながったのだというこじつけも、ファンとしては
さもありなんと信じたほうが夢があっていいですしね。
著作権などが切れているからでしょうか、近年のアニメ作品内でも、
文豪自身や小説内登場人物がよくお目見えし、海外ものではシャーロック
ホームズやモリアーティ教授なども主役、脇役問わず頻繁にお目に掛ります。
「憂国のモリアーティ」では教授が主役でホームズが敵役、「アンデッド
ガール・マーダーファルス」では、主役・不死の少女の首をはね、胴体を
奪った敵役がモリアーティでした。「啄木鳥探偵處」には各文豪に交じって
平井太郎(乱歩の本名)も登場します。石川啄木に探偵的な素養があった
のかどうかはともかく、実際乱歩と交遊関係があったのだろうかなどと
想像すると、面白いですよね。乱歩や横溝正史のエッセイには、探偵小説
作家たちとの交流は随所に描かれている一方、同時代に活躍していたはずの
純文学作家のことはほとんど触れられていません。両者には「壁」のような
ものが存在し、行き来することはなかったのでしょうかね。
アニメ世界やこの小説内でも共通するのは、登場する作家などがカッコよく
描かれすぎていて、それが少々気になります。美化されすぎるきらいがある
のです。フィクションと割り切り、楽しめばいいとは思うのですが。