旅にしあれば

人生の長い旅、お気に入りの歌でも口ずさみながら、
気ままに歩くとしましょうか…

横溝正史エッセイコレクション

2022-08-24 18:57:00 | 図書館はどこですか




柏書房から出ている「横溝正史エッセイコレクション」全3巻のうち、今回まず
①「探偵小説五十年/探偵小説昔話」と②「横溝正史の世界/横溝正史読本」の
二冊を図書館でお借りして読みました。横溝さんのエッセイ集はこれまで七冊
出ていたようで、それを今回再編集、3巻にまとめて出版されました。

私の手元にあるのは文庫版「横溝正史読本(小林信彦氏との対談集)」のみなので、
その他はすべて今回初めて読むものばかりです。ただ、横溝さんは何度か繰り返し
自身の生い立ちに関するお話や江戸川乱歩氏ら他の探偵作家とのつきあい、編集者時代、
信州での療養期のお話、岡山への疎開中の出来事などを述べられているし、また、
逆に乱歩の文章でもしばしば横溝さんのことに触れられていることもあり、私には
既読感のある内容も相当量含まれていました。

収められているエッセイは、戦前~戦後すぐにかけての古いものが含まれているのに加え、
昭和50年前後のいわゆる横溝ブームが沸き起こる直前直後あたりに書かれたものも多く、
ご本人の戸惑いと共に、その頃のムーブメントのすさまじさが伝わってきます。

昔語りの中では、『本陣殺人事件』『蝶々殺人事件』『獄門島』『悪魔が来りて笛を吹く』
等々の代表作品が、その発表当時どういった評価を受けていたのかがうかがい知れるのも
面白いですね。乱歩、坂口安吾氏の批評記事がそのまま復刻掲載されているのも興味深く、
ほぼ同時期に掲載された本陣~と蝶々~が、評者によって偏った評価となっているのも
大変おもしろく思いました。今になって見れば、極論と言えるような過度な評価を受けて
いたりもします。戦後すぐに、しかもいきなり同時に二編もの、当時日本では稀有だった
論理的なトリックを網羅した長編本格探偵小説が発表されたことに、周辺関係者には驚き、
感激をもって受け入れられ、ある種興奮状態だったことが推し量られます。


しかし納得できないのがこのコレクションのお値段で、いずれも6000円(税別)!!
もするんですよね。これまでのものがたしか税別2600円くらいだったと記憶している
ので、それと比べても(2600円でも十分いいお値段ですが、内容や装丁の充実さを
考えると納得価格ではあります)急に倍以上高くなったのが解せません。分量もさほど
変わらないですし、今回に限りカラー写真が多数掲載されているわけでもないんですがね。
著作料、使用許可料などの問題でこのような値付けになったのでしょうか? 図書館で
気軽にお借りできるから何気に見過ごしてしまいそうですが、もしこれ、個人での購入を
考えていたならば、躊躇するのではないですかね。


編者・日下三蔵氏の解説によると、横溝正史コレクションシリーズは、今回の三冊で
完結となるようです。私としては、「金田一集大成」の実現を期待していたのですが、
それはかなわぬ夢となりそうです。その分、最近角川文庫版が復刻販売されているので、
未読の金田一ものは、それを利用するなどして穴を埋めたいと思います。

角川版の復活劇があったとはいえ、それでもけっして色あせることのない柏書房の
横溝コレクションです。初版本にできるだけ忠実に再現、正確に校正され、各分野ごと
まとめ読みできたこのシリーズの魅力、意義は薄れることがないでしょう。私に
全盛期の財力があれば、全巻購入し、書棚をにぎわせたいところでした。改めて
編者、関係各位の労をねぎらいたいと思います。どうもありがとうございました。

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