旅にしあれば

人生の長い旅、お気に入りの歌でも口ずさみながら、
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アニメ大国 建国紀 1963‐1973 テレビアニメを築いた先駆者たち

2020-12-13 19:29:00 | 図書館はどこですか



朝日新聞の書評欄で紹介された「アニメ大国 建国紀 1963-1973 テレビアニメを築いた
先駆者たち/中川右介著」を和歌山市民図書館でお借りして読んでみました。ひと言で言うと
メチャクチャおもしろく、ページをめくる手がとまらなくなりました。


正確には我々は、テレビアニメ第二世代となり、私より5歳~10歳くらい上が、リアルタイムで
『鉄腕アトム』を見ていた第一世代となるのでしょう。この本に習うと、「第一部・神話時代」
(劇場版のみ)、「第二部・建国期」(アトム放映開始~追随してテレビアニメ多数始まる)
のあとの「第三部・開拓時代」から、我々が新作アニメを同時体験することになります。それでも、
当時は繰り返し旧作品が再放映されていたので、それまでの作品群も並行してかなりの本数
見てはいるんですよね。

本書は、極力著者の感想は省き、また、資料をすり合わせるなどして、できる限り正確に
誰(どこの組織)が、どこで、どうしたのかを淡々と記述するに努め、また、アニメ、マンガ、
テレビ関係者は、話を面白おかしくする傾向にあるので、インタビュー記事などの引用も、
できるだけ裏付けをとって記載するとはしがきにあります。確かに業界関係者はサービス
精神旺盛な人が多く、たとえば楳図かずおさんや赤塚不二夫さんなどはタレント以上に
タレントらしく振舞ったし、手塚治虫さんや石ノ森章太郎さんなどのテレビ出演時の様子を見ても、
堂々とした受け答え、物怖じしていないですしね。富野由悠季監督の必要以上に自分の作品を
卑下する語り口もサービス精神の裏返しでしょうし、一見とっつきにくい雰囲気の宮崎駿監督だって、
実は茶目っ気たっぷりで、孤高なイメージはポーズなだけの気がします。話半分くらいに
聞いといたほうがいいということですかね。


私は、テレビアニメ放映前後の黎明期のことを主に手塚さんの自伝的なエッセイなどから
学んではいたけれど、今回はより客観的に、多方面からの視点で、情報を整理して
学び直せた気がします。たとえば、虫プロの社員たち(アニメーター)は、薄給なうえに
寝る間も惜しむ重労働だったように思い込んでいたのが、実は大手の東映動画と比べると
給与面でははるかに条件がよく、逆にそれがのちにあだと為すなど、目からうろこの話が
てんこ盛りに綴られます。ロイヤリティにうまく絡むと思わぬ高給を得られ、一部の方はそれを
元手にして自分のアニメ制作会社を立ち上げるなどするんですね。著者は極力私見は避けているけど、
この人に対してはあまりよくない印象を持っているんだなと推察される人物も幾人か登場します。
まあ、いわゆる生来の「悪人」気質というか、濡れ手に粟というか、黎明期ならではの混乱に乗じ、
うまく暗躍し、甘い汁を吸った人たちもいたらしいということです。


アニメ建国期では原作者がマンガである場合が多く、必然漫画家も本書には多数登場し、マンガ史を
学ぶにも適しています。手塚さんはアニメにかかわった後もマンガを描き続けますが、吉田竜夫さんは
タツノコプロを立ち上げアニメに専従、うしおそうじさんはピープロ設立後は主に特撮作品制作へ移行、
石ノ森さんはテレビ作品(実写ヒーローもの)にはほとんどを原作者サイドとしてのみかかわりながら、
そのアイデアをもとにマンガを並行して書き、一方永井豪さんは、アニメの分野で同様の作業をこなしつつ
マンガも書き続け、名声を高めてゆくなど、漫画家もそれぞれの道を歩みます。

いまやビックネームの宮崎駿監督や富野由悠季監督をはじめとする有名なクリエイターたちも
初期のアニメ業界に様々な形でかかわるので多数登場、京都アニメーションの始祖である
八田陽子さんが虫プロにいたこともこの本で初めて知りました。


本書ではアニソンや声優にはほとんど触れられていないにもかかわらずこの膨大な分量ですし、
さらにアニメに加え特撮や怪獣映画なども並行してつくられたわけで、それらの資料を合わせると
気が遠くなるくらい多くの優れた人材が、これらの業界にかかわっていたことがわかるというものです。
特撮やアニメが大量につくられてきた時代に育った我々は、ある意味とても幸せでしたし、
その礎があり、現在のアニメ大国を築き上げたのでしょうしね。


この本には主だったアニメ作品の年表が記載され、1973年放映の作品を拾うと、『ワンサくん』
『山ねずみロッキーチャック』『おんぶおばけ』『冒険コロボックル』『サザエさん』『デビルマン』
『ミクロイドS』『ドロロンえん魔くん』『バビル2世』『ミラクル少女リミットちゃん』
『キューティーハニー』『マジンガーZ』『荒野の少年イサム』『侍ジャイアンツ』『ど根性ガエル』
『ジャングル黒べえ』『エースをねらえ!』『空手バカ一代』『科学忍者隊ガッチャマン』
『けろっこデメタン』『新造人間キャシャーン』などとなっています。このほぼすべてを見てましたから、
いかにお勉強がおろそかだったか推し量れますよねえ。

そしてその翌年1974年には、『アルプスの少女ハイジ』『宇宙戦艦ヤマト』というエポックメイクな
二大作品が登場、現在まで脈々と続く二つの大きな潮流が生まれ、子供だけでなく、青少年や大人も
巻き込んでのアニメブームがますます加速することになるのです。

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