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旅にしあれば

人生の長い旅、お気に入りの歌でも口ずさみながら、
気ままに歩くとしましょうか…

カムイは生涯あなたを刺激する~白土三平さん追悼

2023-08-30 18:30:00 | 図書館はどこですか



2021年10月にお亡くなりになった白土三平さん、心からお悔やみ申し上げます。
また、近年白土作品で作画を手掛けられた実弟の岡本鉄二さんも相次いでお亡くなりに
なられ、これでほぼ完全に、今後「カムイ伝」「カムイ外伝」などの続編を読むことが
できなくなりました。未完のまま終わるのが惜しいですね。

我々世代にとって白土さんは、「サスケ」「忍風カムイ外伝」などのアニメ化された
作品や、実写映画版「ワタリ」などでまず親しんだ方々が多いのではないでしょうか。
私もそうで、原作の漫画を自分で買ったのは、ずっと後年、多数の白土作品が一気に
文庫本化されてからでした。似非独身貴族でしたので、資金力に任せ、ほぼすべての
出版物を買い漁りました。なので、全巻かどうかはともかく、多くの白土作品が
手元に残されています。

ところが、今回追悼にと、ものすごく遅ればせながら読むことになった「カムイ伝
第二部」は、待てど暮らせど文庫本では発売されず、しばらくしてから企画された
「決定版 カムイ伝 全集」(豪華版で一冊1200円もしました)で、仕方なく
買い求めました。他作品がことごとく文庫本化されたのに、なぜ第二部だけが
されなかったのか、いまだに不思議でなりません。今回数多の作品からこれを
選んだのは、特別大きな意味合いはなく、一番取り出しやすかったからで、
他の文庫本シリーズは、押し入れの奥にしまっているのです。


    

メディアにはあまり登場しなかった白土さんは、私にとっては最後までミステリアスな
存在でした。漫画界では、最も偉大な著名人のひとりなのに、お姿、顔が浮かんできません。
「白土三平はふたり(あるいは三人)いる!」と言われるくらいに、時代や作品によって
作風、画風がまるで違っているのも、フォーカスが定まらない理由かもしれません。

当初は、手塚治虫さんにも通ずる、マンガチックなやわらかく可愛らしい絵柄だったのが、
途中から超リアルな劇画タッチへ移行、まるで別人の作品のように変貌します。この第二部
など後期の作品には岡本鉄二さんが作画担当者としてクレジットされていて、いつから
岡本さんが白土作品にかかわり出したのか定かではありませんが、岡本さんの参加が、
大きな影響を与えた可能性もあります。


    

この第二部もそうですが、「ビックコミック」誌で発表された後期の作品群は、読者が
「大人」であることを意識しているのか、艶っぽい場面が多々登場するようになります。
また、白土作品と言えば残酷な描写が日常茶飯事、かつてはそれゆえ大手出版社では
連載が打ち切りになることがあって、より自由な表現の場を得るために、自ら発行した
漫画雑誌が「ガロ」、そこに連載されたのがカムイ伝ということで、そういう意味でも
先駆者的な存在だったといえます。

さらに、白土作品には悲劇性がつきもので、老若男女問わず、メインやサブの区別なく、
時には主人公までもが非業の死を遂げます。カムイ伝でも第一部でほとんどのキャラが
消え去って、幾度もの試練を耐え抜き、生き延びた、正助、カムイ、草加竜之進ら
ごくわずかな主要登場人物だけが、第二部でも中心となり引き続き活躍します。

以前も述べたように、サスケはテレビのアニメ版ではハッピーエンドで幕を閉じますが、
原作ではさらに物語は続き、とんでもなく悲惨な最後を迎えることに… アニメ版の
幸せな結末でよしとされた方は、あえて原作の漫画(の続きの部分)を読まなくていいと
思いますよ。


         

第1巻のカラー挿絵は、文庫本版「カムイ外伝」の第1巻の表紙絵用に岡本さんが
作画されたものですね。第一話の「雀落し」(アニメ版の第一話も同じタイトルでした)
がモチーフみたいです。

外伝は、第一部と二部が分けられず、続けて収録されていて、ここでも続編開始まで
15年くらいの隔たりがあるので、途中で作風がころっと変わってしまい、まるで別の
物語のようです。アニメ版は主に、第一部に準拠した内容で制作されました。


         

今となれば、この決定版を全シリーズそろえておいても良かった気もします。
この第二部だけでも全12巻もあって、金銭的な負担(計14400円・税別)
もさることながら、大判でかさばるので、置き場所確保が一番の難点でした。
なので、できるだけ省スペースで済んだ文庫本版を好んで購入したのですが、
老眼の進んだ今となっては、小さな文字が読みづらいので、大判サイズの
ほうが年寄り向きなのかもしれません。電子版だと画面を拡大表示できるので、
より見やすいのかも。ただし、長時間は目が疲れそうですけどね。

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時計泥棒と悪人たち

2023-08-26 18:14:00 | 図書館はどこですか

 


今回お借りしたのは、「時計泥棒と悪人たち/夕木春央著」です。別の本を
借りるために図書館に立ち寄った際、新刊本コーナーでたまたま目についた
のです。「夕木さんは、『方舟』の作者だったよなあ…」くらいの軽いノリで
手に取りました。こういう本が出ていることすら知りませんでした。

その方舟は、地元の図書館では依然順番待ちが数珠つなぎ、人気が衰えて
いない様子です。ところがこの前、北海道は上士幌町の図書館で、新入荷本
コーナーにポツンと置かれているのに気がつきました。人口比に応じて
競争率は変わりうるでしょうが、タイミングもありますよねえ。この本読む
ためだけに、上士幌町まで行ってみれば…と、勧めることはできません。

時計~は500ページを超える分厚さで、7編の中短編がオムニバス形式で
並んでいて、過去出版された作品を新たに寄せ集めた新編集版かと思いきや、
書き下ろされた完全新作のようです。舞台は大正時代、銀行家から転じた
元泥棒がホームズ役となり、友人の画家をワトソン博士に従え、各エピソード
をゆるく一連関連付けながらも、独立したそれぞれの事件に挑む構成です。

一部グロテスクな内容を含んでいる割には、主演二人の飄々とした語り口が
そうさせるのか、物語は全般淡々と進行し、事態が風雲急を告げているのに
緊迫感や悲壮感はあまりなく、これが夕木さんの持ち味なのでしょうか、
方舟でも同じような印象を受けた覚えがあります。その一方で、探偵役の
推理は切れ味鋭く、難事件を事も無げに解決する手腕が鮮やかです。多少
描写が複雑で、説明過多すぎて、すぐには場面設定が浮かんで来ずに、
こちらの理解が追いつかないきらいはあれど、なかなか凝った手口の犯行
にもかかわらず、あっさりと事件を解きほぐしてしまうのは痛快です。

明治~大正~昭和初期のレトロなムード漂う時代は、令和を生きる我々には
逆に新鮮味があるのでしょう、アニメの世界でもたびたび取り上げられ舞台
となり、「アンデッドガール・マーダーファルス」「わたしの幸せな結婚」
「るろうに剣心」などが現在も放映中です(似かよった架空の時代設定を含む)。
この小説も、同じような空気、雰囲気をまとっているし、携帯電話、防犯カメラ、
その他科学捜査の類がほとんどない世界、探偵の実力が遺憾なく発揮される
展開に魅力を感じます。「古き良き時代」とまでは言い切れないにせよ、
今よりは多くの人々が、明日を信じて前向きでいられたのかもしれません。

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火蛾

2023-08-17 18:17:00 | 図書館はどこですか



続けて図書館でお借りしたのが、「火蛾(ひが)/小泉迦十(こいずみ かじゅう)
著」です。たしか、北海道滞在中に掲載された朝日新聞記事を目にしたのが、読もうと
思ったきっかけです。

その記事では、この本が今度新装・文庫版で再発売されることと、このデビュー作
以来筆を折るような形で沈黙を守っていた著者が、ついに次作を発表すること
などが紹介されていたと記憶します。地元の図書館にはその新装版は蔵書がなく、
2000年に発売された講談社ノベルス版で読むことにしました。


直近に読んだ「不実在探偵の推理」と比べると、正反対な、恐ろしくとっつきにくい
作品でした。帯にある内容紹介を記してあらすじを紹介しておくと、「十二世紀の
中東。聖者たちの伝記編纂を志す作家・ファリードは、取材のため、アリーと名乗る
男を訪ねる。男が語ったのは、姿を顕わさぬ導師と四人の修行者たちだけが住まう山の、
閉ざされた穹蘆(きゅうろ)の中で起きた殺人だった…」。穹蘆とは、修行者たちが
用いる、テントのような簡易宿泊施設のことです。

たしか新聞紙上でも、上記のようなあらすじが紹介されていて、神秘的な内容に
惹かれ読んでみたいと思ったのはいいのですが、こちらの想像をはるかに超えた
難解な内容、展開に、最後まで馴染むことができませんでした。そもそも、
イスラム世界、イスラム教のことをまったく理解できていない、知識が皆無な私には、
初っ端でつまづいたまま、立ち直ることができなかったのです。

しかし一方では、いざ読み終えると、途中感じていた拒絶意識は、私の過剰反応で、
宗教的意味合いを正確に把握できないのは致し方ないとすると、物語そのものは、
そこまで不可解で複雑なものでもなかった気がします。もしかしたら、表現が
やや回りくどいだけで、もう一度読み直してみると、意外にすんなり内容が
腑に落ちるようにも思えるのです。筋書きの独特さに反して、推理はいたって
論理的、理路整然と謎は解き明かされます。しかしそれだけにとどまらないのが
この小説の特徴で、別に宗教的な解釈も用意され、答えは複数、真理は読み手に
委ねられます。このあたり、以前読んだ「弔い月の下にて」と相通ずるものがあり、
弔い~の作者は、この火蛾から影響を受けた可能性がありますかね。


単にサスペンスとか推理小説というジャンルにとどまらない、これだけ独特かつ
手の込んだ世界観を描ききるには、相当の熱量、時間が必要で、真の理由はともかく、
次作がなかなか書けなかったのも納得できるというものです。どういう内容で
新作が発表されるのか、マニアックなものを所望する方々にとっては、期待して
いいと思います。

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不実在探偵の推理

2023-08-06 19:06:00 | 図書館はどこですか



今回図書館でお借りしたのは、「不実在探偵(アリス・シュレディンガー)の推理
/井上悠宇(いのうえ ゆう)著」です。朝日新聞紙上(夕刊だったか?)で
紹介されていたのが読もうとしたきっかけでした。幸い二番手で読むことが
できましたが、私のあとにはすでに10人ほど順番待ちであるようです。

面白かったです、あっという間に読み終えました。親しみやすいのです。
絵が浮かんでくるっていうのかなあ、それが誉め言葉になっているかどうかは
ともかく、アニメ映画の原作としてすぐに使えるような気がするっていいますかね。
表紙にあるような美少女がズバリ探偵役で、鋭い謎解きしてくれるだけで見る価値
ありますよね。ただ残念ながら、彼女は言語による意思疎通ができず、ダイスの
示す数字で「ハイ」「イイエ」「ワカンナイ」しか表現できないため、ヒロインに
新進気鋭の実力派声優を当てられないのが玉に瑕ではあります。彼女は「不実在」
なのですから、致し方ないとあきらめるか、それとも、彼女の心の声をモノローグ
で語らせることならできるのかも。

ラノベ(=ライトノベル)ってのをいまだに読んだことはありませんが、たぶん
それに近いような軽いタッチで物語は進行する割に、主人公らが巻き込まれる
事件は手が込んでいて、今日的問題がその背後に見え隠れします。たまたまこの前、
横溝正史さんの「白と黒」を再読したばかりですが、同じようなテーマが事件の
発端となっていることも興味深いです。その扱いはまるで違っているようで、
実は内在する問題は何も変わっていないようでもあります。ただし、昭和石頭の
私では事件の真相に迫ることは難しく、アリスちゃんの手助けが必要なのです。
彼女らによって明かされる謎も意味深で、読みごたえがあり、軽さと重さのやや
アンバランスな感じも心地よく、悪い気はしません。アリスちゃんの推理の続きを
読みたいと思ったのは、私だけではないと思いますよ。

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今回の旅で読んだ三冊

2023-07-26 18:30:00 | 図書館はどこですか



先の北海道旅行・夏編で読んだ本は、「夜歩く/横溝正史著」「白と黒/横溝正史著」
「殺意の盲点/森村誠一著」の三冊でした。


夜~は横溝さんの代表作のひとつで映像化もされていて、金田一ものの有名作品ですね。
それでも、ストーリー自体は全く記憶になく、ただ、犯人役がちょっと特殊な設定と
なっているのでそれははっきりと覚えていて、なので、この作品を読み返すことは、
半永久にあり得ないだろうと以前は考えていました。

ところが近年、もっと有名作品で、犯人やトリックを鮮明に覚えているようなものでも、
まったく気にすることなく読み直せることに気がつきました。著者が、犯人役をいかに
容疑者圏内から遠ざけるかなど、苦心している様子を別の視点からじっくり読み解く
面白さなどがわかったのです。なので、夜~も新鮮味を失うことなく楽しめました。


白~は夜~の倍くらい分量のある大長編作です。こちらは、金田一耕助登場作としては
それほど有名作品ではないかもしれませんが、代表作のひとつに挙げていいでしょう。
犯人やトリック、ストーリーなど、ほぼ内容は忘れ去ってはいましたが、杉本一文氏が
描くエロチックな表紙絵と共に、タイトルでもある『白と黒』が印象強く頭に残って
いました。同性愛的嗜好が「異常」だとされ、それが事件の発端となりえた当時の
時代背景が、現代とはまるで違っているのが興味深いです。

「都会を舞台にした作品でいいものを残したい」との作者の熱意が、この膨大な
ページ数に表れていて、新興団地の人間関係を絡めながら起こる殺人事件といい、
意表を突く犯人設定といい、のちに森村誠一さんが何度も取り上げ挑んだ世界観と
相通ずるものが散見されるのが意外な発見でした。森村さんは、横溝さんの全盛期から
入れ違うように登場、作風が大きく違っていて、共通項はないと思っていたのです。


そして、狙ったわけでなく、次に用意していたのがその森村作品の殺意~でした。
短編にも満たない、掌編と言っていいショート作品が11も収められています。
ごく初期の作品集ということで、文章や筋書きなどがややぎこちないように
感じるのが、かえって初々しく思えます。都会、サラリーマン世界などの社会派
から山岳ものに至るまで、のちのち森村さんが好んで取り上げたテーマが早や出て
いるし、『団地戦争』なんてそのものずばりなタイトルもあれば、『増悪集中橋』も
新興団地が舞台で、偶然とはいえ、あまり接点がないと思っていた、横溝作品と
森村作品が交わった瞬間でした。

この文章を執筆中、森村さんがご逝去されたとのニュースを聞きました。ご冥福を
お祈り申し上げます。私は膨大な作品群のほんの一端しか読めてなくて、これから
折に触れて新旧作品に接することができればと思います。長い間お疲れさまでした。

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先の旅で読んだ本~新ハムレット

2023-06-18 19:09:00 | 図書館はどこですか




「新ハムレット/太宰治著」は、前回の旅、北海道春編の帰路、フェリー内で三分の二
ほど読み進め、帰宅後残りを読み終えました。

表題作の中編のほか短編四作を収めた本書は、太宰中期にあたる安定して作品を
生み出していた時期のもので、西洋の古典や歴史をベースにし、新解釈した作品が
収められています。同じような形式では、教科書にも載っている『走れメロス』が
有名で、その発展型、変則バージョン、もっと手が込んでいて読解がやや高難度な
作品群といいましょうか。


         

戯曲形式の『新ハムレット』は、これまで何度も舞台化されているようで、帰宅後
読んだ夕刊記事で、たまたま現在も、再度舞台上演されていることを知りました。
悲しいかな私は不勉強で、このハムレットを含め、元ネタのいずれの古典的名作を読んだ
ことがないので、どのように太宰が再構築し、飛躍させているのか、違いがわからない
のですね。

全5編中、私が特に気に入ったのは『乞食学生』と『待つ』でしょうか。乞食~は
いわゆる「夢オチ」で、やや拍子抜けする結末なのですが、非常にユーモラスな展開、
ありえないような、いや、太宰だったらシャレでやりそうなハチャメチャな場面が
多々あり、引き込まれて読み進められました。待つは極々短い掌編で、それだけに
無駄がいっさい省かれた研ぎ澄まされた文章に、人生の真理を突きつけられます。
    

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先の旅で読んだ本~迷路荘の惨劇

2023-06-08 19:07:00 | 図書館はどこですか




この前の北海道旅行・春編で読んだ本は、「迷路荘の惨劇/横溝正史著」でした。
中学生以来の再読で、内容はほぼ100%忘れ去っていて覚えていませんでした。
たしか当時、テレビ「横溝正史シリーズ」で映像化され、それも見たはずなのです
がねえ。

ちょうど現地でこれを読み終えたタイミングで、NHKラジオ「ふんわり」内で
パーソナリティ・六角精児さんがおかけになられたのが、茶木みやこさんの
『まぼろしの人』。「金田一きた~」と叫んじゃいましたよ、テレビシリーズの
主題歌でしたので。今更ながらなかなか趣きある渋い楽曲なのです。サビの
「あの人は まぼろし だったのでしょうか~」の『あの人』って、金田一耕助の
ようにも思えるし、犯人を指しているようでもあり、また、宙吊りになるなどして
殺められる被害者ととらえることもできそうです。今改めて聞いても、なんだか
意味深なんですよね。茶木さんの個性的な独特の歌声に引き込まれてしまいます。


この作品は、長い休筆期間を経て、再び創作活動を再開された横溝さんが晩年に
発表されたものです。元々短編だったものを全集収録時に中編に書き換えられ、
さらに時を経て長編へと改められた作品です。最晩年に発表された作品に共通する
特徴として、全般お話が長く、やや回りくどくなる傾向で、これは、ひとつには、
物語の進行や推理の組み立てをより論理的で隙のないものにしたかったあらわれだと
思われます。それがかえって真理への道のりが遠回りになって、筋書きが中だるみ
するような印象を受けてしまいがちです。しかしこの頃横溝作品のブームが過熱し、
すでに既存の金田一ものの多くが発表されつくしていたようで、そのタイミングで
待ち望まれた新作登場(改作ではあったが)は、多数のファンに熱烈な歓迎をもって
迎えられたことでしょう。


最近になって、またも金田一ものの未発表作が発見されたとのニュースを見ました。
映画のシナリオ用として書かれたものだそうで、いずれどんな形ででも、それを
読めることを楽しみにしています。

ここ数年、手持ちの横溝作品を読み返すなど、マイブーム(再ブーム)が続いている
私です。まだもう少し蔵書はありますし、いましばらく横溝沼にハマってみます。

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方舟

2023-05-07 19:17:00 | 図書館はどこですか




今回図書館でお借りしたのは「方舟(はこぶね)/夕木春央(ゆうき はるお)著」です。
朝日新聞夕刊記事で紹介されていたのが、たしか昨年12月頃のことで、それからすぐに
予約を入れたものの、話題の新作、順番が回ってくるまでに半年近くかかりました。

実は同時期にもう一冊別に予約した本がありまして、こちらの順番がようやく「次」まで
回ってきたのが春の旅に出る寸前でした。直前に借りた方の返却のタイミングにも
よりますが、それを待って借りるとなると、自分が読む時間を含め、少なくとも旅立ちが
一週間から十日は遅くなったでしょう。泣く泣く権利を放棄し、改めて予約を入れ直し、
順番が最後尾に逆戻り、どうやらまた、さらに半年待たなければならないようです。

それに引き換えこの方舟は、GWに入る前、絶妙のタイミングで借りることができました。
少し前なら旅先だったかもしれないし、もう少し後で、帰宅していたとしても、旅の片づけ
などと同時並行して読書する時間を設けるのはかなりきつかったでしょうから、それらが
ほぼすべて終了した今が、絶好の機会だったのです。


さて、そうして長い時を経てやっとこさ借りることができたこの長編推理小説を、
たった二日間で読み終えたのは、待たされた時間を考えるとちょっと拍子抜けかも
しれません。早々の完読が「もったいなかった」とも言えるでしょうか。面白くて
ページをめくる手が止まらなかったとの、記載内容、物語展開が比較的平易で、難解な文章、
語彙はあまり使われず、専門用語が飛び交うような場面がほとんどないことで、スムーズに
読み進められたのがその要因かもしれません。事件に巻き込まれる人々の職業もまずは
平凡で、特殊な専門分野に特化したエキスパートが知識をひけらかすこともないですしね。

これは近年の推理小説全般に概ね共通することですけど、方舟も、クローズドサークルを
生み出す初っ端の手段は少々強引ではあります。携帯電話が通じず、監視カメラがなく、
DNA鑑定などの科学捜査の手が入らない環境を無理やりにでも創り出さないことには、
多くのトリックは最新の捜査手法を用いるとすぐに見破られますからねえ。そうして
タイムスリップしたかのように誂えられた舞台上で、大正~戦前、戦後直後あたりに
活躍した多くの名探偵たちと、初めて対等な勝負が出来るんですよね。


閉じこめられた地下建築物から脱出するための手段を行使するには、一名を置き去りにして
犠牲にしなければならず、しかも地下水が上昇し水没が始まり、リミットは約一週間、
そうした緊迫した状況下で行われる殺人は、犯人には自分で自分の首を絞めるような行為に
等しく、その動機すらわからないまま時間だけが空しく経過します。閉鎖環境の中で
行われる殺人は比較的シンプルで、凝った手口でない分、物的証拠や解決へ糸口などはあまり
残っていないのです。続けて起こる第二の殺人は首なし死体。なるほど、今時はそうした
理由で首を切断する理由があるのかと、探偵役の推理、分析に納得し、舌を巻きましたよ。

限られた時間、その中で連続殺人が行われる切迫した状況の割には物語は淡々と進むので、
そこに何かしら違和感を抱きつつも先が気になり読み進めるペースは上がり、残りページ
枚数はどんどん減っていきました。犯人の特定や犯行の動機を解明するための手掛かりは
少なく、残り枚数が四分の一ほどのところで、一度冒頭のプロローグを再読してみました。
プロローグには犯人などを示唆するような記述があったのをあとになって思い当たること
があり、もしかしたらこの作品でもそうなのかもと、藁にも縋る思いで読み返してみたの
ですが、残念ながらそれだけで犯人を断定することはできませんでした。

しかし、なるほど、途中違和感を感じたのはこのためだったのか、最終盤物語は急展開し、
怒涛のラストに流れ込みます。鈍器で強く頭を叩きつけられたような(実際その経験は
ありませんが)激しい衝動に、読み終えてなおしばらく、本を持つ手を離せませんでした。
SFサスペンスホラー映画「遊星からの物体X」を見終わったあとや手塚治虫さんの
黒系作品の秀作「奇子(あやこ)」を読んだあとの突き放されるような痺れる感覚、
銅鑼の重い響きが鳴りやまない余韻といいますかね。


この先、この作品の結末を知らずに読み始めるあなたがうらやましく思いますよ。
半年ほど先になるかもしれません、さっそく図書館に予約を入れ、ぜひお読みください。


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今回の旅で読んだ本~花園の悪魔

2023-04-25 19:05:30 | 図書館はどこですか



今回、東北への旅の途中で読んだ本は、「花園の悪魔/横溝正史著」でした。
この本は、私が中学生当時に買ったもので、解説によると、それまでに刊行された
横溝本、中でも金田一作品がすでにブームとなり、もっと金田一ものを読みたいとの
読者の声にこたえ、未収録作品を寄せ集め編まれた、当時のシリーズでは新しめの
文庫本であることが伺えます。ただその割には、収録された中短編四作品は、
いずれもなかなかレベルの高い本格推理作ではあります。

この本は、近年も金田一耕助ファイルシリーズとして刊行が続けらたようですが、
表題はなぜか同時収録作の『首』に変更されました。その経緯はよくわかりません。
本のタイトルのインパクトさでは、『花園の悪魔』のほうに軍配が上がるにも
かかわらずです。

収録四作品中、首のみが岡山県を舞台に磯川警部とコンビを組み、東京近郊で
事件の起こる他の三作とはかなり異質で、八つ墓村などの流れをくむ、おどろ
おどろしいムードを醸し出しており、代表作、表題作とするに相応しいとの判断
だったのでしょうか? 事件そのものは陰惨であるものの、金田一は真犯人の
ひとりをある理由からわざと見逃し、磯川もそれに目をつぶることで、一握りの
光明、ある種さわやかな読後感を残す秀作であることは確かでしょう。

首とは出来としては大差ない花園~が、杉本一文氏が描く艶めかしい表紙絵共々
忘れ去られるのは惜しい気もします。イラストでは百花繚乱に囲まれているアケミ
ですが、作品中ではチューリップ畑に裸で横たわる展開となっています。今回の
旅行中、訪れたチューリップ畑にアケミがいたならば、私はもっと一心不乱に
写しまくったのではないですかね。この先、チューリップ畑でお戯れ予定の
見目麗しいご婦人がおられたらご一報ください、撮影に馳せ参じます。

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あぶり出される 世界の真実~虐殺器官

2023-03-21 18:50:00 | 図書館はどこですか




今回図書館でお借りしたのは、「虐殺器官/伊藤計劃(いとう けいかく)著」です。
朝日新聞の夕刊記事で紹介されていたのが読もうと思ったきっかけでした。新刊ではなく
2007年に発表されたこの作品のことは、漫画やアニメでは積極的に好み見るSF系を、
これまで読書の対象にあまりしてこなかった私は、まったく存じ上げていませんでした。

9・11 アメリカでの同時多発テロ後の近未来が舞台となっている作品で、ということは、
ちょうど昨今の社会情勢が、記された疑似的未来世界に追いついたとも言えそうです。
作品内ではサラエボが核爆弾で消滅、インドとパキスタンの間で核戦争が勃発しており、
一方現実世界では、核ミサイルの使用をちらつかせ、威嚇しながら軍事行動をするなど
一触即発のきな臭さが漂い、自国でも戦争によるものではないにせよ原発が危機的な
重大事故を引き起こすなどし、作品内で描かれる想像世界がけっして誇大妄想な絵空事
ではないように思えます。

物語に登場する様々なハイテク機器(ほとんどが情報管理や戦場で使用される)も、
どこまでが現実で、どこからが作者が創造したつくりものなのかがわからなくなります。
情報機器やミリタリー関連に疎い私などには、どれも現代の実際の現場、戦闘で使われて
いるものだと混同、思い込まされてしまい、ノンフィクションに近い感覚で読まされる
場面も多々あったのです。


    

後進諸国で頻発する内戦、民族虐殺、その陰で暗躍するジョン・ポール(←どこかで
聞いたことある名前)という謎の人物、大量死を引き起こす「虐殺の文法」とは…

スリリングで血生臭い描写が随所に見られる一方で、心理学、言語学などの難解な
解説&問答が長々語られる箇所も多くあり、すんなりとは読み解くことができない、
私にとってはハードルの高い、博識てんこ盛りの知略的作品でもありました。

そして、それらふんだんに盛り込まれた知識が、作者の創造物なのか、それとも
実在するものなのか、その境目が曖昧で、これもいよいよもってわからなくなります。
発表から15年、今ではほとんどの技術が現実のものとなって実際の戦場で使われて
いる気もするし、どこまでがフィクションなのかが、ごっちゃになるばかりです。


    

虐殺器官を紹介した朝日新聞紙面です。作者の伊藤計劃氏は、34歳の若さですでに
お亡くなりになったと記事にあります。


この作品は2017年に劇場版としてアニメ化されているようです(もちろんそれも
今回初めて知りました)。原作では主人公・米軍大尉クラヴィス・シェパードの内省、
心理描写が延々と語られる場面にたくさん紙面を割いており、それをアニメではどう
表現しているのか、演出や脚本が気になるところです。

R指定が掛かっているとのことなのでテレビで放映される可能性は低そうだし、次回の
無料レンタルで、「借りる候補DVD」のひとつにしておきます。
    

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