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その他、音楽編、自然編も有り。

検証 現在中国の経済政策決定 -近づく改革開放路線の臨界点

2007-10-28 09:44:20 | 活字の海(書評の書評編)
著者 田中修(日本経済新聞社・6090円)  評者 五百旗頭 真
毎日新聞 10月28日(日) 10面 本と出合う-批評と紹介 より


まず、標題に惹かれた。

隣国の大国の政治的、経済的動向を気にならぬものはいないだろうし、
ましてやそれが、中国である。

中国三千年の歴史は伊達ではなく、老獪にして尊大、強大にしてどこか
危うさを感じるかの国の存在は、そのまま日本の存在に多大な影響をもたらす。

今の中国の実情は、例えて言えば100歳くらいの老人が、若返り薬で
10代の体に戻り、再度の人生の春を突き進みながら、周りには自分は
老人なので、それなりの待遇をするように、と主張しているような印象が
僕には有る。

ただ、何せ物理的にも精神的にも懐の広い国である。
単純な二元論なんぞで割り切れる訳でないのは自明の理。

そんな中国で、今最もアンバランスに(それはもはや奇形的といってもよい)
発展している経済問題を、どのように論じているのか。

※ アンバランスに、というのは、中国と言う国全体を俯瞰的に見たときに、
  よく言われる沿岸部と内陸部の経済格差等の問題を内包している状況を
  指しています。
  沿岸部の経済発展そのものは、実にうまくバランスを取りながら、
  拡大路線を突き進んでいると思っています。
  よく言われるように(早ければ本年末という声も有る)バブル崩壊が
  本当に有り得るのか、それとも舵取りの妙を見せて乗り切るのかについては、
  予断を許さないところですが。
  いずれにせよ、中国が沿岸部だけで存在している訳ではなく、
  お国柄、物理的に内陸部を切り離すことも絶対にしないことを考えると、
  そこに見られる危うさを称して、ここではアンバランスと表現しました。

  この解決には、僕なりの一案は持っていますが、非常に恐ろしい案でも有り、
  かつきちんと検証したものではないので、ここでは伏せておきます。

…とまあ以上のような期待で読み始めた書評でした。

冒頭で評者は、中国と言う「厄介な巨人」を理解するためには、
「いい者か悪者か決め付けたがるような姿勢」では駄目だとしている。

ただ、その後の論旨の展開が、納得し辛い。

評者の講演会で、ある聴衆が評者を称して性善的に中国・韓国を捉えすぎる、
と指摘をされたそうだ。
評者はその聴衆を、逆に性悪的に中国と韓国を前提し、その視点に拘泥されて
視野を奪われている、としている。

ただ、評者には分かっているのかも知れないが、その聴衆がどういう論旨に
より性悪的に両国を既定したのかが不明なので、ともすれば自分の主張を
批評された評者が単純な対位法的に相手を決め付けているようにも見える。

それこそが、評者がやってはいけないということではなかったのか?という
疑問が、まずここで生まれてしまう。

更に評者は、「日本にとってよいか悪いかを断ずる前に、まず相手に即して
内在的に理解するたしなみが、複雑な国際関係をこなすうえで不可欠である」
としている。

フラットな視点で、先入観を持たず相手の立場になって理解する。

分かりやすい話ではあるが、地理上の隣国でもある中国・韓国を理解する
に当たって、先入観無しに見ても本当に良いのかは僕には疑問である。

個人としての感情というレベルではなく、国家として相対するときに、
政治上、経済上の評価を下す際には、地政学上の判断も(それが全部では
ないにせよ)必要と考えるからである。

ただ、政治には感情が入りやすいのに対し、経済は利益を合理的に追求する
ものであるから、まず経済についてそうしたフラットな視線から中国を
論じるような本が欲しかった。本書こそが、そうした渇望に応えてくれる
ものである、と評者はこの本を持ち上げる。

その論旨の展開はともかく、そこまで言われれば、やはり気になるではないか。
しかも著者は、大蔵省(当時。現在の財務省)から北京の大使館に1996年
から4年に渡って中国経済の今を分析し、報告する任についていたものであり、
本書はその体験を下に、帰国後東京大学に提出した博士論文に加筆訂正した
ものなのだそうだ。

…と、ここまでは結構期待したのだが、その後、升目の半分ほどを費やされる
本書の概要は、特に日常的に僕が理解している域を超えるものではなかった。

発展し続ける経済を、如何に持続可能な安定的成長路線へ軟着陸させ、
かつ内陸部との経済格差や深刻な環境破壊の進行という実情とマッチングさせて
いくのか、というところでまとめられては、だからそれに対してどういう考えで
中国の指導部は思っているの?どういう経済政策を取ろうとしているの?という
疑問で結局終わってしまった。

最後に、「中国において、経済政策は純経済的に展開されるのではない。」
として、様々な政治的要因が政権の意思決定に影響をもたらすひとつの関数と
して、経済政策もあるに過ぎないという著者の見解を紹介して書評は終わって
いるが、ではどこの国に純経済的に経済政策が展開されている国など有り得る
のか?
そんな国が在ったら、是非教えていただきたいと思う。

ということで、大枚6,090円を払って購読しようという気には、
残念ながらならなかった次第である。

「膨張する『巨獣』との格闘の記録」という書評のキャッチフレーズが
刺激的だっただけに、残念である。

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