活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

一日一センチの改革―ゴミゼロへの挑戦

2009-05-06 10:45:07 | 活字の海(書評の書評編)
著者:鈴木 武 致知出版社 (2008/01)刊 ¥ 1,575


実は、直接本書の書評に触れた訳ではない。

本書を紹介する、ある実業家(教育家、といった方がいいのかな)を
取り上げたコラムにて識ったものである。

そのコラムとは、Agoraの2009年5月号に掲載されていた、
「旅への一冊 『気づき』を喚起する」文:飯田守。

取り上げられたのは、帝京大学の理事長兼学長でもある沖永佳史氏。

先日のコラム「プロのチカラ ~タクトの極意」でも触れたのだが、
とかく柔軟な思考、発想というものは、世に重用される。
勿論、それには理由があり、柔軟な思考、発想が実は難しい、もっと
はっきりいうと困難ということに起因する。

だからこそ、その壁を乗り越えた発想力を持つ人が尊敬されるので
あるが、沖永氏もそうした力を持つ一人として紹介される。

氏が、大学内の自動販売機の設置を見直そうと学内の会議で職員に
発した言葉。

恥ずかしながら、僕にはそれによって何が変わるのかを予見できな
かった。

飲み物の自動販売機。
これほど、世に溢れかえり、日常に溶け込んでいるもの。
それを見直すということは、何を意味するのか?

デザイン上の問題?
確かに、様々なメーカーの色んな自販機が凸凹と並ぶ様は、美観上も
良くないだろう。

仕入れ先を絞ることで、価格の低減を図る?
それで、どれほどの利益差分が得られるのだろう?
そりゃあ、ディスカウントストア等では安価にジュース等が売られて
いるが、流通や補充の手間を考えたら、自分で仕入れるという訳にも
いくまいに。

設置場所の問題?
売れ筋の自販機のところに設置を集中させ、不人気な自販機を撤去
することで、確かに販売向上には貢献できるかも。
うん。この辺りかな…。


だが、先を読み進むにつれて、僕は驚愕した。

氏が提言するまで、帝京大学に出入りしていた自販機に関連する業者は
十数社に及んでいた、という。

それを一元化したことで、出入り業者の車両数は年間8600台から
720台へと激減させることに成功したのだ。
このことは、交通整理の警備員数の減少にも直結し、人件費の低減や
学内の安全にも寄与できた。

更に。
古い機種を新型の省エネ型に切り替える。
夜間は照明をOFFにする機構を採用する。
販売実績から設置場所を見極め、台数を140台を119台に絞り込む。

これらの施策によって、自販機に関する(特に明記は無いが、そうだと
思う)電気代は、前年同月比で-53%も低減できたのだとか。

そして、売れ筋の分析や絞込みにより、売り上げも上昇。
原価の低減と相まって、相当な経済効果を出すことに成功したそうだ。


勿論、氏がこうした判断を下せたのには、様々な情報がベースにあった
ことは間違いないだろう。

ただ、同じ情報が仮に有ったとしても。
今、ルーティンで行っていることを、別の角度から見直す。
そのことの困難さは、誰もが感じていることだろうし、その視点を得る
ことをもまた、誰もが渇望することでもある。

では、どうすればそうした視点を得ることが出来るのか?

その答えこそ、ある意味究極の問いかもしれない。
が、しかし。
冒頭で紹介した本書の中に、そのヒントが開陳されている。

「人類がぶつかる最大の問題は、いつ学ぶかではなく、すでに知って
 いることをいつ実行に移すか、ということである」

という言葉である。

確かに、視点を変える、ということは、何も新たに何かをクリエイト
するのではなく、ほんの少し、いつもと異なる角度から物事を見る
ことさえ出来ればいい訳だから。

かつて、ヘレン・ケラーは三重苦の闇の中から、手に触れる冷たい
液体が『水』というものであることを、知った。
いや、正確には、記憶の底にあった『水』と、執拗に繰り返される
指遊びが示すものが、その名前であり、かつてウォーターと言って
いたものであることに、気が付いた。

その瞬間から、ヘレンの周囲は視えない、聞こえない、喋れない
という三重苦の闇から、今までとは異なる角度で照らされた明かりが
灯ることとなった。
それはまるで、これまで真の闇と思っていたものが、赤外線スコープで
視て見れば、実はそこにあった映像が浮き上がってくるような経験
だっただろう。

僕たちの中には、これまでの人生で蓄えてきた様々なライトがある。
行き詰まりを感じた時こそ。
いつも見ているのとは違うライトで、物事を照らしてみたい。
そこに浮き上がる映像を見て、出来ればぐるりと周りを回ってみて、
更には触って持ち上げてみる。
そうすることで、全く違った角度から物事を見る目も持つことが
出来る。
そのためのライトは、繰り返すが既に僕らは自分の中に持っている
のだ。


そんな、勇気と希望を与えてくれる一冊。

未だ人生に絶望したくない諸兄にとっては、是非手にとって見たい
一冊ではないか。

(この稿、了)



一日一センチの改革―ゴミゼロへの挑戦
鈴木 武
致知出版社

このアイテムの詳細を見る


ちょっと毛色は異なるが、こつこつと頑張るという意味では定番。
木を植えた男
ジャン ジオノ
あすなろ書房

このアイテムの詳細を見る


メンタル・ブロックバスター―自由な発想を妨げる6つの壁をぶち破れ
ジェイムズ・L. アダムス
プレジデント社

このアイテムの詳細を見る


奇跡の人 ヘレン・ケラー自伝 (新潮文庫)
ヘレン ケラー
新潮社

このアイテムの詳細を見る


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 彷徨える艦隊  旗艦ドーン... | トップ | キャラクタービジネスの挑戦 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

活字の海(書評の書評編)」カテゴリの最新記事