活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

悠久の果ての邂逅■KAGAYA監督トークショーinわかやま館(その21)

2012-06-30 12:08:35 | 宇宙の海
日時:平成23年8月20日(土) 午後2時~
場所:わかやま館1Fイベントホール
主催:みさと天文台友の会
テーマ:「星への憧れ-宇宙と神話の世界-」
写真画像提供:@j_pegasus(わかやま館元シアターディレクター村田氏)
CG画像提供:KAGAYA氏(※ 掲載は、氏の許可を得て行なっています)



<Atention>
 このレポートは、KAGAYA氏のトークショー、ならびにその前後に
 氏に対してブログ主が行った質問等を再構築しております。
 内容に関して事実と齟齬等有った場合には、その責は当然ながら
 全てブログ主に帰します。

<Atention2>
 文中の呼称については、敬称略で統一とします。
 

■悠久の果ての邂逅

KAGAYAが、どのような思いやきっかけからマチュピチュへの憧憬を
持つように至ったのかについては、トークショーはもとよりブログ
でも語られてはいない。

それでも、今回のトークショーのタイトルが、

 「星への憧れ -宇宙と神話の世界-」

であることから分かるように、星に憧れることは、そのまま星座への
関心を引き起こし、その星座に描かれた神話の物語を識ることで、
はるか古(いにしえ)の神々の世界への関心を高めていったとすれば、
古代インカはもとより、様々な異国の神代に通じる歴史に興味を持つ
ことは、ごく自然な流れであろう。

無論、人によっては星への関心が、より物理的なベクトルへと伸長する
場合もあるかもしれない。

KAGAYAにしても、高校卒業時には天文学者とイラストレーター、
そのどちらの道を選択するかの岐路に立ち、悩んだ
経験を持つ。

ただ、二者は相反するものとは限らない。
人によっては、無理なく個人の中に双方のベクトルを併せ持つことも
あるだろうし、どちらかを選ぶ方もあるだろう。


KAGAYAの場合は、イラストレーターとしての道を極めていくことを
選択した訳であるが、元よりその選択に優劣など無いことは自明である。

両者の目的は、宇宙という存在に近づき、理解するという点において
同一であり、ただそのためのアプローチが、天文学者は客観的な観測
データとそこから導かれる推論の積み重ねから行い、芸術家は自らの
中の主観的な感覚を元にして創造を行なうプロセスの中から行なって
いくという点で異なるのみだからである。
(創造の過程の中で、客観的なデータは大いに活用されているだろうが)

こうして、イラストという手段を通じて宇宙という未知なるものへの
始原的な憧れの感情を昇華していく道を選んだKAGAYAであれば、
神々と人が共存していた古代インカの時代の建物がそのままの形で
残されているマチュピチュには、なんとしても足を運びたかったので
あろう。


まして。
古代インカ帝国が、スペインによって滅ぼされていく件(くだり)は、
そのまま「スターリーテイルズ」に語られた”鉄の時代”の再現とも
言えるのである。

古代インカ帝国時代を、殊更に理想郷とする積りはない。

スペインも、王族間の争いに付け込み、仲違いさせ、侵略していった
経緯から分かるように、人の持つ感情の柵(しがらみ)や、貧富の差
からは、決して古代インカが逃れられていた訳ではない。

それでも。
スペインがこの地に足を踏み入れ、その牙を剥き出しにした挙句に
古代インカ帝国を滅亡させるまでは、人々は現人神である王を通じて
確かに太陽神インティを始めとするインカの神々と共存していた。


今は、カトリック、プロテスタントを合わせれば、国民の殆どは
キリスト教徒であるとされるペルー。

古代インカの神々を思う様々な土着の風習は、今なお生活の中に
息づいているものの、殆どの人々の間では、ケチュアの純血の血が、
征服者スペインによってメスティーソと呼ばれる混血化が進むにつれ
薄まっていかざるをえなかったように、かつての神々の姿は変質し、
あるいは解体されキリスト教と融合してしまっているのかもしれない。

無論、今なお古の神々を崇めている民もいるとは言え、鉄の時代の
始まりとともに、殆どの神々が人間界を離れて天上へと帰っていった
ように、古代インカの神々もまた、人々にマチュピチュという遺跡を
残したまま何処かへ去っていったとも考えられるであろう。


そうしたことを思う時。


人と神との絆の有り様を問う「スターリーテイルズ」を完成させた
KAGAYAとしてみれば、この神が去った土地マチュピチュにて。


 ここを去る際の、神の思い。
 神無き世に残された人々の、生きる姿。
 そこに、希望はあるのか。
 そして、これから新たな希望は生まれるのか。
 
これらを自問し自答したかったのだと、僕は勝手に解釈している。


KAGAYAは、「スターリーテイルズ」に寄せた一文を起こすに
当たって、そのタイトルを

 「千年後に星座は残っているだろうか?

としている。

この文章の中でKAGAYAは、千年後の天空に星座の形は残っていた
としても、それを見上げる人類は果たしてまだ存命しているのか?

また、存命していたとしても、その心と環境に、星座を見ることが
できる程の情緒や文化が残っているだろうか?ということを問い
かけている。

人類が滅亡しなくとも、夜空の星々に星座を見出す感覚が喪なわ
れてしまえば、それはすなわち人々にとって神は死んだという
ことを意味する。

それが人類にとって幸福なのか、不幸なのかについては、様々な
見地があるだろう。

その是非を論じることに、意味はない。

ただ。
かつて、神とともに人々があったとするならば、今のこの”鉄の
時代”をいつか乗り越えて、何時の世か、再び人と神とが共に
同じ地平を見ることが出来る日が来るとすれば。

それは、素晴らしいことではないか。

「スターリーテイルズ」を通じて、KAGAYAはそうした問いを、
観る者に投げかけていると、僕には思われるのだ。

そして、そうしたKAGAYAだからこそ、かつて神が座しました地
マチュピチュへの憧憬は深いものだったのだろう。


(二日目も、朝早くからマチュピチュ入りするKAGAYA)

(画像提供:デイリーKAGAYA通信 2010/07/09 より)


…と。
KAGAYAがマチュピチュ訪問に籠めた思いを推測してきたが、
トークショーの中では、もう一つマチュピチュについて、
KAGAYAが語っていたことがあった。

それは、「マチュピチュは、緑が美しかった。また季節を変えて
是非訪れたいと思った」というもの。


これは、これまで語ってきた神=宇宙への憧れによるものとは、
また異なるパッションによる感情の動きだと思う。


マチュピチュにを築き上げた古代インカの民は、インディオと
呼ばれる人々である。

このインディオは、そのルーツを辿ればモンゴロイドに行き着く
という

その伝播ルートについては、ベーリング海峡を経た北進説と、
太平洋を超えてきた南進説があるようであるが、いずれにせよ
蒙古斑等の人種的特徴から見ても、同根であることは間違いない
ようである。

彼らが、どのような思いや事情で故郷であるアジアの地を出立し、
遠く南米その他の地に根付いていったのかは分からない。

ただ。
ここ、南米ペルーの地域は、日本と一つ地域的な共通項がある。

それは、どちらも落葉広葉樹林エリアに属するということである。

世界の植生分布を見ても、落葉広葉樹林は決して広範囲に分布
している訳ではない


もちろん、人間の生存に適したエリアとこうした落葉広葉樹林の
それが重複しているというのも主な要因ではあろうが、僕としては
世代を超えた長い放浪の果てに、例え故郷の森を直接見た経験は
無くとも、その血の中に沈んでいる遥かな記憶が、どこか遠い
故郷の山並みと似た植生を持つこの地を見て、古代インカの民は
定住を決め、独自の文化を生み、マチュピチュに代表される遺跡を
築き上げていったのだと思いたい。


KAGAYAが、マチュピチュの緑を見て「美しい」と感じた背景には、
そうしたインディオと、KAGAYAの体に流れるモンゴロイドの血が
引き合うような、そうした親和性もあったのではと思っているの
である。

感傷的で根拠に乏しい話ではある。
当のKAGAYAに聞けば、「いや、全然印象が違っていましたよ」と
いう答えが帰ってくるのかもしれない。

それでも。
僕としては、どこかそうした時を超えた繋がりが、KAGAYAをこの
地に導いたような気もしているのである。



さて、マチュピチュ編はこれで終了。
次回からは、イースター島編に突入である。


(この稿、続く)



(補記)
インディオという呼称は蔑称として、最近では使われなくなって
きているとのことであるが、ここでは敢えてその歴史的な背景も
含めて感じ取っていただくて使わせていただいた。




マチュピチュの夜明け~インカ帝国展イメージアルバム~
クリエーター情報なし
徳間ジャパンコミュニケーションズ

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