活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

バトンを手に、一歩未来へ■はやぶさトークショー 第1回 「はやぶさを支えた人たち」 (第15回(完))

2010-11-28 19:15:07 | 宇宙の海

はやぶさを支えた人たち
開催日時:2010年9月18日(土) 14時~ 約2時間
会場:大阪市阿倍野区民センター B1ホール
主催:和歌山大学宇宙教育研究所、大阪市立科学館
協賛:NEC
出演者(五十音順):飯山青海(大阪市立科学館学芸員)
小笠原雅弘(NEC宇宙航空システム株式会社)
尾久土正己(和歌山大学)
矢野創(JAXA)


(※ はじめに
   講演会冒頭で、司会の尾久土先生、ならびに話者の小笠原氏より
   講演内容についてはブログにUpしないでとのお話もありましたが、
   講演終了時に個別に伺い、掲載OKのお言葉を頂戴しております。
   
   どのブログも好意的に取り上げてくれている。
   不特定多数の前で話しているのだから、どんな形であれ情報が
   ここから伝播発信していくことは止められない。
   そもそも、本当に危ない情報は、さすがにこうした場では話して
   いない。

   というのが、その際に伺ったコメントです。

   そのお言葉を裏切らないよう、これからも品位と節度、敬意を
   もってご紹介していきたいと思います。

   万一、お気づきの点があれば、ご指摘いただければ幸いです。)


■質疑応答

更に。
会場からの質問は、続く。

「はやぶさの帰還は、人工流星実験ということはどういう意味か?」

という問いには、矢野助教が。

  はやぶさは、その大きさ、重さ、材質の全てが分かっており、
 そうしたものが大気圏外から惑星間航行速度で突入した際のコースや
 挙動、燃焼遷移を調べることで、今後の飛来物体への備えとなることが
 出来る。

そうした意味での人工流星実験だ、と明快に答えていただいた。


自分に取って印象的だったのは、

「はやぶさの帰還は、日本の科学技術に取って大きな意味を持つと
 思うが、その一方で(事業仕分け等の影響で)予算が降りなければ、
 (私企業である)NECとしてはどうするのか?」

という、非常に取り様によっては含みのある質問である。

これについては、当然NECの小笠原氏が。

 予算を倍にしてくれとは言わない。
 ただ。
 (日本には)10年。20年と明確な宇宙開発の青写真を持ってほしい。

とだけ答えられた。

株主の最大利益を希求する私企業として、どこまで直接的な利益にならない
状況でも先行、あるいは自主投資という判断を踏み込めるのか。

質問主の意図はそこだろうが、勿論そうした問いにこの場で明快な回答を
出すことは、例え氏が社長であったとしても答えられるものでは無いだろう。

ただ。
自力(=一切の補助金等無し)で無重力実験棟を建ててしまった、
植松電機の植松努氏の事例もある。

厳しい現実の壁に直面した時に。

それでも諦めず、夢を追い続けることとも。
夢を夢として、終わらせることも。

偏(ひとえ)に、その人の心の持ち様で決まってくると思う。

この質問は。
質問者の意図を超えて、会場にいる全ての人に対して。
個々人の持つ夢へのアプローチのあり方を問うているような、
そんな印象を僕は受けたのである。


ちなみに、我身を翻ってみれば。

偉そうに語るお前は、ではどんな現実を乗り越えて夢を実現してきたのか?
と問われれば、返す言葉もない。


道元禅師も、正法眼藏隨聞記の中でこのように述べている。

「先ヅ只欣求ノ志シノ切ナルベキナリ
     (中略)
 コノ心アナガチニ切ナルモノトゲズト云フコトナキナリ」
  ※ 宝暦8(1758)年に開板された「面山本」より
    原本は、有限会社 北辰メディアのHPにて公開されて
    います。 
    UPされた労苦に敬意を表し、リンクさせて頂きます

超意訳すれば、

 『切に希求すれば、思いは必ず遂げることが出来る』

というところであろうか。


ここで終われば、まだしも。
禅師は、更に追い打ちをかける。

「此ノ心ヲ存ゼント思ハヾマヅ無常ヲ思フベシ」
  ※ 引用元は、上述と同じ

こちらも意訳すれば、

 『何かを成そうと思ったら、明日死んでもいいような
  悔いの残らない生き方を心がけなさい』

となる。

日頃。
今日の次には明日。
今年の次には来年と。

時間は連続して流れていくものだと、漫然ながらも確信的に僕達は
思っている。

本当は、揺るぎない明日などどこにも無いのに。

明日どころか。
今、この瞬間に心臓発作を起こして寿命を全うしたって不思議では
ないのだ。

でなければ。
映画「渚にて」の最後のシーンにあった台詞の如き人生の末路を
迎えることとなってしまう。

核戦争で、人々が死に絶え無人となった街並みに。
風に吹かれて翻るスローガンは…

 『THERE IS STILL TIME...BROTHER』


このような、皮肉な結末を迎えないために。

これまでの人生でも、何度となく誓った言葉を。
誰にでもなく自分自身に対して、僕は呟くのだ。

 これから、頑張ろう。


■バトンを手に、一歩未来へ

時刻は16時近くとなり。
会も、そろそろお開きの時間となってきた。

最後に、尾久土教授が。
皆にこれからの抱負を、とマイクを向ける。

小笠原氏は、太陽系大航海時代の幕開けに際して、学生を始めと
する新しいチカラに、これからの宇宙を目指して欲しいと語り
かけた。


矢野氏は、まだ行っていない世界に行って、知らないことに挑戦
してみたいと語る。

そこには、まだ学生のうちから海外を放浪していた氏ならではの
重みが加わっている。

そして。
今回のはやぶさの旅路では、サンプルリターン技術を手に入れる
ことが出来た。
今度は、また新しい挑戦を若い世代と一緒にやりたい。

そうした連環が出来れば、はやぶさは十分にペイしたと思うとも。


HBTTEをプロデュースし世に生み出す原動力となった飯山氏の
コメントもまた、分析化学といったこれまでとはまた違う領域へ
手を出していきたいというものだった。


三氏に、共通しているものは。
今回の成功は既に彼らの中では過去のものであり、既にその眼差しは
新たな地平に向いているというものだ。

更に言えば。
そうした姿勢こそが、それぞれの世界での成功を各氏にもたらしたと
言えるだろう。

勿論。
各氏とも、自分が成功したという認識すら否定するかもしれないが。




太陽系大航海時代。

未来は。
見知らぬ水平線は。

僕達の眼前に、無限に広がっているのだ。

その肥沃野に進むためのバトン(=はやぶさ)を、僕達は確かに先人達
から渡されたのだ。


(この稿、了)


(付記)
9月の講演から、2ヶ月を経て。
ようやく、レポートを締め括ることが出来ました。

万一にも、続きを待っていてくださった方がいらっしゃるとすれば、
遅筆を心からお詫び申し上げます。


後日。
主催者の和歌山大学宇宙科学研究所から、詳細なレポートや講演模様の
DVDが発売、あるいは発表された際に。
それらとこのブログとの間に差異があった場合。

あるいは。
皆さんの記憶の講演と内容が異なると感じられた場合。

その文責は、全て私に有ります。

ただ。
このブログが、あの楽しく実りの多かったあの講演を思い出す縁(よすが)
となってくれれば。
ブログ主として、これに優る喜びはありません。







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6 コメント

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おつかれさま (シャドー81)
2010-11-30 16:22:08
9月24日から始まったシリーズもやっと完結

道元禅師の言葉まで引用してくるとは。もともと知っていたのか、今回のために探したのか・・・それにしても博学。

「太陽系大航海時代」、さすがにこれは、オーバーじゃないかなぁ?まだ、「人類のゆりかご」をちょっと出ただけだと思うが・・・

毎回、単なる講演録ではなく、裏を取ったり、関連内容を調べたりした上でのUP。おつかれさま。

PS
で、つぎのシリーズは?できるなら今年中に終わるのをお願い(笑)
返信する
続き希望 (yayoi)
2010-12-10 15:35:12
第2回目のトークショーについての記事も希望します・・・
山川先生や秋山先生のお話がどうだったのか知りたいです。
返信する
お久しぶりです・・・ (南八尾電車区)
2010-12-11 23:52:10
 こんばんは、お久しぶりです。
 『はやぶさトークショー 第1回』記事シリーズ完結、お疲れ様でした!

 ちょっと記事本文の内容から逸れてしまいますが・・・
 小惑星探査機「はやぶさ」、結果的にちゃんと小惑星イトカワからの”おみやげ”を持ち帰ってきてくれていましたね〔何を今更…〕───私もこの結果に一安心しています。

 今日(12月11日)、NHK総合テレビのニュース番組の中でその「はやぶさ」の開発に携わってきたプロジェクトチーム・メンバーによる講演会の模様が報じられ、その中では開発段階の映像が初公開されたり開発途上に於ける苦労話が披露されたり等していたみたいですが、『NHKオンライン』内でオンデマンド配信されているニュース映像を改めて視聴しているうち、様々な工夫を凝らしているんだな、と改めて感心させられました。

 尤も種々のトラブルも現実に発生してしまっているわけで、今後の宇宙探査に生かしていく意味で、徹底した原因究明などをしてほしいと思うところです《何しろ莫大な税金が投入されていることですし…》。


P.S.
 話は変わりますが───1週間遅れとなってしまいましたが、28回目を迎えた「1万人の第九」への合唱出演、お疲れ様でした《もし間違っていたら申し訳ありません・・・以下記載内容についても同じ》。
 今年も佐渡裕は、一つ一つのパートを漏れなく歌い上げさせるなど、野性味あふれた「第九」を創り出してくれていました───おかげで私も安心して合唱参加出来ました。
 来年も、お互い、大阪城ホールにて高らかに歌い上げましょう!
返信する
ありがとうございます (MOLTA)
2010-12-19 20:26:51
>yayoiさま

ようやくと、第二回の記事に着手し始めました。
とはいえ、まだ第一部のパネルディスカッションも始まったばかり。
ご希望の、山川先生と秋山先生の対談まで行き着くには、しばしのお付き合いをしていただくこととなりますが、必ず書き上げますのでもう少しだけお待ちください。

年内に、なんとかしたいなぁと(笑)
返信する
いつも、ありがとうございます (MOLTA)
2010-12-19 20:27:55
>シャドー81さま

いつも、コメントありがとうございます。

はい。
次のシリーズ。
ようやくと着手しましたw

年内に終わらせられますよう、頑張ります。
でも、こちらも長丁場になりそうな気配が…。
返信する
ご無沙汰です (MOLTA)
2010-12-19 20:33:13
>南八尾電車区さま

コメント、ありがとうございます。
本当に。
今回、はやぶさが持ち帰った微粒子がイトカワ由来のものと特定できて、何よりだと思います。

その一方で、ご指摘のとおり工学実験衛星の名にかけて、今回発生した様々な不具合はしっかりと検証され、次の実運用機へと活かされなければなりません。

実際に、はやぶさ2ではリアクション・ホイールの冗長性を強化するといった改良は加えられていますが、バッテリーその他についても、まだまだ研究が必要なのでしょう。

そして、それが展開されて、初めてはやぶさは地球に還ったと言えるのかもしれませんね。

追伸
一万人の第九、お疲れさまでした。
また、読み応えのあるブログも拝読しました。
こちらもご指摘のとおり、観客による斉唱が無かったことが、僕も少し残念です。

ではまた、次のステージで声を合わせましょう♪
返信する

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