小惑星探査機「はやぶさ」のイオンエンジン異常について

平成21年11月9日
宇宙航空研究開発機構（ＪＡＸＡ）　プレスリリースより

（※　画像は、ＪＡＸＡより）



「はやぶさ」よ…。

今、このときも一人。
はるか火星軌道の近くを。

故郷であるこの地球に向けて、今日も虚空を飛び続けている君よ。


９月下旬の、あのドラマティックなイオンエンジン再起動の成功の後。


僕は、根拠の無い確信を持っていた。

もう、大丈夫。
これだけの試練を経て、なお。
蘇えってきた君なのだから。

来年６月の帰還は、もう予定調和のようなものだ、と。

そう、思い込んでしまっていた。


だから。
もうじき行われる、臼田の６４ｍパラボラアンテナの工事の時を
迎えるにあたっても、さほどの心配はしてなかった。

君を宇宙に送り出した、内之浦の３４ｍパラボラ君が。
立派に代役を果たしてくれる。
そう、思っていたから。


けれど。
問題は、もっと別なところからやってきていた。


今日付けの、ＪＡＸＡのプレスリリースに拠れば。


君を地球へと運んでくれる４つのイオンエンジンの一つ”Ｄ”が、
どうやら寿命の時を迎えてしまい、自動停止した、とのこと。

既に、君のイオンエンジンは、

　”Ａ”は、地球から出発直後に不安定となり、凍結中
　”Ｂ”は、２年前に寿命を迎え、センサーが異常を検知して停止
　”Ｃ”は、やはり寿命の兆候が出ていたため、現在停止中

という状況であり、実質上”Ｄ”ユニットのみで飛んでいたことと
なる。


その、頼りの綱の”Ｄ”ユニットが、劣化による装置異常から
自動停止してしまっていた、というのだから。


現在、筑波にあるＪＡＸＡの君のプロジェクトでは。
夜を徹して、君を復活させるための算段があれこれと議論されて
いることは間違いない。



その、人々の力と、君自身の持つ生命力とによって。

これまでにも、トラブルの都度。

もう、ダメかもしれない。
そんな人々の心に忍び寄る陰を、ものともせずに。


奇跡と呼ぶに相応しい復活劇を魅せてくれた君だから。


今回も、又。

再び立ち上がってくれる。

そのことを、信じている。



雲海の、遥か彼方。
空を、見上げる。

その視線の先に、君の無事な姿を一目見ようとして。

そんな、切ない想いを以って、夜空を振り仰ぐ人々が、
今夜、世界中でどれほどいることだろう。


そのすべての人々の想いよ。
見えない力となって結実し、彼の元へ跳べ。


そして。
彼の耳元で、「皆、待っているから」という囁きを呟いてほしい。


その後に、泥濘に喘ぐ彼の背中を。
そっと、優しく押して上げて欲しい。




おーい。「はやぶさ」。

故郷は、こちらだぞ。

皆、待っているぞ。

少し帰りが遅れてもいいから、絶対に還ってこいよ。


そう、呟いた跡に。
はるか、筑波に向かって頭を下げる。

どうぞ。
彼をよろしくお願いします、と。


（君の復活を信じて。この稿、了）



（付記）
今回の出来事の詳細は、

・天燈茶房 TENDANCAFE「はやぶさよ、目を覚ませ！」

・松浦晋也のＬ／Ｄ
　「はやぶさリンク：イオンエンジンに異常、ついにエンジン1基に」

に、それぞれ詳述されています。

特に、天燈茶房さんには最初にこのニュースを教えていただきました。
また、松浦晋也さんには、詳細な状況を教えていただきました。

ありがとうございました。






衛星を、擬人化する。
一見、単なる萌本に見えて。
その実態は、実に天晴れな質と量を誇る。

別に、日本人が殊更に特別と言う気は無いけれど。

それでもやっぱり、こうした感性は日本人ならではなのかな？と思う。

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