活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

変わらないものを訪ねて■KAGAYA監督トークショーinわかやま館(その8)

2011-12-16 23:56:45 | 宇宙の海

日時:平成23年8月20日(土) 午後2時~
場所:わかやま館1Fイベントホール
主催:みさと天文台友の会
テーマ:「星への憧れ-宇宙と神話の世界-」
画像提供:@j_pegasus(わかやま館元シアターディレクター村田氏)

<Atention>
 このレポートは、KAGAYA氏のトークショー、ならびにその前後に
 氏に対してブログ主が行った質問等を再構築しております。
 内容に関して事実と齟齬等有った場合には、その責は当然ながら
 全てブログ主に帰します。



■変わらないものを訪ねて

KAGAYA氏が、どのような技法であの美しいグラフィクスを描いている
のかについては、前回のトークでその一端を識ることが出来た。

続いて、氏が語っていただけたのは。
どのようにして、描くイメージをご自身の中に生み出していくのか
という点についてである。

既に、触れたように。
氏は幼少の頃に母親に枕元で読んでもらったことをきっかけに、
「銀河鉄道の夜」という作品に傾倒していった。

当初は、言葉から惹起されるイメージを膨らませて、様々なシーンを
脳内で再構築していくことから始まって。

次第に、氏の中では。
作者である宮沢賢治が、実際に見、実際に触れ、実際に感じた景色や
空気、気配を識ることで、より作品世界に近づきたいという思いが
嵩じてくることとなった。

そして、その思いは。
氏を、賢治のふるさとである岩手県花巻へと向かわせることとなる。

読書好きを自認する人であれば、誰しも。
自分が好きな作品の舞台となった場所や建物について、一度は訪れて
みたいと思ったことがあるだろう。

しかし、KAGAYA氏のように「もう何度通ったか分からない」とまで
対象に入れ込む方も、珍しいのではないか。


そのようにして、訪れる花巻が。
賢治の見た原風景と同じであるとは限らない。

人が、生きているように。
町もまた、生きている。

その変化を、どう感じるかどうかは別にしても。
町もまた、時代と共に変わっていくことに変わりはないのだ。

そのことは、KAGAYA氏自身もトークショーの中で

 「風景は、変わっていく」

と述懐されている。

ただ。
KAGAYA氏は、その言葉と並べて。

 「人の心は、変わらない」

という言葉も紡いでいる。

ここでいう人の心とは、日々の感情に揺らめき、動いていく
ような、そうしたものではなく。

あるものに対して、変わらぬ思いを抱き続けることができる
ような、そんな心の動きを思い描いて語られたと、理解して
いる。

それは、例えば賢治の詩を読み、そこに歌われている日本の
原風景とも言える情景に触れたときに、美しいと思えるような。
そうした人の心は時代に依らず、不偏であるという思いである。

また、それは。
かつて賢治が愛したイギリス海岸が、今はダム建設によって
水没していても。

年に一度。賢治の命日である9月21日には、水量調節によって
再び人々の前に、当時と変わらぬ姿で登場することに通じる
とも言えるであろう。
#年毎の降雨量等によって、現出しないこともあるそうです。
 よし!行ってみようと思われた方は、ご注意下さい。

イギリス海岸


KAGAYA氏にとって、「銀河鉄道の夜」とは。
賢治がこの美しい掌篇の中に籠めた”本当の幸いとは何か”と
いうものを求めて星空を旅する、いわば人の心を求める旅を、
自らトレースするものでもあるのだと思う。


そして、その一環として。
KAGAYA氏は、何度となく賢治の故郷、花巻を訪れることとなる
のである。

例えば、それは。
賢治の親戚の方が経営しておられる「林風舎」。
そこは、単なる賢治にまつわるグッズの販売店や喫茶店ではなく。

賢治の心の軌跡をなぞらえるための縁(よすが)となる場所
でもある。

このりんぷうしゃ、と読む一風変わった名前は。
賢治のファンであれば、すぐさまピン!とくるであろう。
そう。賢治の作品「北守将軍と三人兄弟の医者」の登場人物
からの命名である。
(もっとも、作中では”リンプー”とカタカナであるが)

KAGAYA氏のHPにも、この「林風舎」を訪れたときのこと
綴られている。


また、先に述べたイギリス海岸も然りである。
賢治ファンの方ならよくご存知のとおり、このイギリス海岸は
河床の泥岩層が、イギリスはドーバー海峡の白亜の断崖が続く
海岸風景と似ているとして、賢治が名付けたものである。

(イギリス ドーバー海峡の風景)

(画像提供:地球の歩き方HPより)


それらと比較すると、花巻のイギリス海岸は少し趣きが異なる
ような気もするのであるが、現地に足を運んでもいないものが
とやかく言う筋の話でもなかろう。


ともあれ。
賢治は、北上川の河岸にドーバー海峡にある景勝地セブンシスターズの
白壁を見た。
そして、その河川敷で農学校の生徒たちと楽しく過ごした夏の思い出を
反芻し、懐かしんだ。
その思いは。
やがて、「銀河鉄道の夜」の中に登場するプリオシン海岸として結実する。


そして、その約百年後に。
KAGAYA氏は、そうした賢治の思いをトレースして、イギリス海岸に立つ。

そうすることで、賢治が作品に籠めた思いを取り込もうとせんばかりに。

風も、水も。
何も応えない。

賢治の頃とは、風景も変わっている。

でも、そこには確かに変わらぬ何かも存在しているのである。


(この稿、続く)







(付記)

白亜の海岸という点では、日本にも匹敵するものがある。
それがこちら。和歌山県にある白崎海岸公園の情景である。

(画像提供:Wikipediaより)

どちらも、石灰岩質の地盤で出来ており、その輝きはまさに
天然の白亜の宮殿と呼ぶにふさわしいものがある。

もっとも、賢治が白崎の存在を知っていたとしても、よもや
北上川の河川敷を”白崎海岸”とは呼ばなかっただろう。

別にこれは白崎を卑下している訳ではなく、日本中のどの地
であったとしても同じだったろう。

時は、今からおよそ百年前。
まだイギリスへの渡航など、余程の運と縁と財力がなければ
成しうるものではなかった時代に。
花巻の地から、憧れをもって遙か異国の海岸を思い、賢治は
その名を呼んだのであろうから。



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