活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

復活の日

2009-05-01 00:50:47 | 映像の海
著者:小松左京 ハルキ文庫刊 ¥ 861 1998/01初版
(但し、オリジナルは1964年刊行)



やはり、本書を取り上げるならば、今しかないだろう。

そう。
WHO(世界保健機関)が、新型インフルエンザの警戒水準を
史上初の「5」に引き上げた、この時である。

その本の名は…。

「復活の日」。


初読は、はるか高校生の頃に遡る。
平井和正系の人類駄目小説のラインにどっぷりと使っていた
当時の僕にとって、どのような断罪方法によるものにせよ、
人類絶滅は半ば規定路線だった。

ただ、その人類駄目ぶりを、ことさらに感情移入して描くのでは
なく、更に散文的なデータの羅列になることもなく、見事に小説
として結実させた、本書の迫力の前に当時の僕は文字通り圧倒された。


今更解説するまでも無いだろうが、この作品の梗概は以下の通り
である。

  西側諸国のとある研究機関。
  最凶最悪の細菌兵器MM-88を開発してしまった科学者が、
 密かにある男に菌床を渡そうとしていた。
  彼は、男が純粋に免疫学の権威にこの菌を渡してもらえると
 信じていたが、実際には男は東側のスパイであり、この菌をもって
 東へ戻ろうとしていた。
  その矢先…。スパイと菌を乗せたセスナは乱気流に巻き込まれて
 雪山に墜落。
  やがて、春の訪れとともに、菌が活動を開始。
  そうして、人類絶滅の幕が静かに上がった。

  世界中の人々が死に絶えていく中で、わずかに残ったのは南極。
  この地に設営された各国の研究基地こそが、人類の文字通り
 最後の砦となった。

  しかし、この地をも、無人の荒れ野となった旧世界から人類の
 亡霊が狙う。
  
  カルフォルニア断層が引き起こす大地震。
  その振動は、アメリカのARS(自己防衛システム)を東からの
 核攻撃と誤作動させ、報復攻撃に出てしまう。東側からも、報酬の
 火の矢が。

  そして、その標的に、南極基地も含まれているのだ…。


 と、こんなところかな(スパイの辺りは、少し異なるかも)。
 もう原作を最後に読んでから久しいし、映画の印象がかなり色濃く
出ているかもしれないが、大筋はこんなところである。

 ちなみにこの作品。
 小説の映像化作品にしては珍しく映画もとても面白くて、DVDの
プレミアムBOXを購入してしまった。
 これは、僕にしては相当なポジションを本作に与えたことを意味する。
 
 ※ 他にDVDを持っているといえば、「パピヨン」「ショーシャンクの空に」
  「インディ・ジョーンズシリーズ」その他、数作品のみである。


 とまぁ、自分で自分の首を絞める、いわば自死の道を歩んでいく人類を
作者は淡々と、様々な切り口から描いていく。

 映画にも採用された、牧場の少年の最後のエピソードは、涙無くしては
読めない。

 人類史というものを俯瞰して示してくれた、大学教授の最後のラジオ講座。
 こちらは、映画には採用されなかった(ずっと、モノローグが続くだけだから、
当然なのだが)が、果たして人類は何を目指すべきだったのか?そして、
目指せる筈だったのか?そして、何が足らなかったのか?を考えさせる、
本当にいいテクストとなった。

 彼の最後の授業のシーンだけは、何度個別に読み返したのか判らない
程である。

 その他、原作を最後に読んでから久しいために、映画の印象が強く
なってしまっているが、 ご勘弁を。

 あの映画には賛否両論有ることはよく知っているが、僕にとっては
雄大な南極大陸の情景といい、テオ・マセロや羽田健太郎の美しい旋律
といい、とてもお気に入りの作品なのである。

 特にジャニス・イアンの歌う主題歌「ユー・アー・ラブ
(Toujours gai mon cher)」 と、そのインストゥルメンタルが大好きで、
サントラ盤(当時はLPだったよなぁ)も買い込んで、ひたすらに聞き
まくっていたことを昨日のように思い出す。

ネタバレになるので、背景等の説明は避けるが、映画でのラスト近く、
ペルー辺りを放浪中の主人公が、壊れかけた教会でキリスト像と語り合う
シーンも、結構お気に入りである。


つらつらと、想いのままに書いてしまったが…。

「復活の日」。
まず、ウイルス、続いて核兵器で、人類は二度、全滅を経験した。
そしてその後に起こった奇跡と、それをもたらしたものに小松左京が
籠めた強烈な皮肉(アイロニー)。

それは希望と言いえるのだろうか?
そこにしか希望が無かったという時点で、既に絶望と同義語では無い
のか?

解釈にも、人それぞれの思いがあるだろう。


ただ、一つだけ。はっきりと言えること。

まだ昭和30年代。戦後の影が、消えうせようとしていた時に、
僅か2作目の長編小説へのトライで本書をものした小松左京。

僕にとって、その才能に対して覚える感情は、嫉妬等という領域を
はるかに凌駕した、憧憬そのものである。

是非、ご一読を。損はさせません。必ず。

(この稿、了)



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2 コメント

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Unknown (宇宙ハンター55)
2009-05-01 12:47:26
>※ 他にDVDを持っているといえば、「パピヨン」「ショーシャンクの空に」
  「インディ・ジョーンズシリーズ」その他、数作品のみである。

その他、数作品のみがすごく気になるのですが(笑)
冗談はさておき、この前、BSで」「ショーシャンクの空に」を放映していましたが、あれは名作ですね。
スティーブン・キングが原作なので、時を食べる怪物でも出ると思ってましたが。
MOLTA氏が「ショーシャンクの空に」のDVDを所有されているのがわかるような気がします。
あまりにあの映画がよかったので書き込みしてしまいました。
返信する
でしょ? (MOLTA)
2009-05-01 22:27:48
あの映画は、ほんと、名作です。
キングの映画化作品は、トホホが多いので有名ですが、あれと「stand by me」だけは別格です。

お気に召したら、是非原作も読んでみて下さい。
映画とは又違った、爽やかな読了感を得られますよ~。
返信する

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