滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

木造ハイブリッド24階建てビルの現場を訪問

2024-01-09 01:13:56 | 建築


あけましておめでとうございます。
能登地震の被災地の皆様にお見舞い申し上げます。

昨年は、温暖化の進行や終わりの見えない戦争が続く中、スイス社会では未来への悲観的な雰囲気が漂っているように感じましたが、太陽光発電ブームを始めとしたポジティブな発展もありました。

個人的には、昨年は日本のコロナ規制が緩和された事により、秋口から続々と常連の視察セミナーのお客様たちが戻ってきて下さり、身動きが取れないほどでした。ご参加下さった方々にも、ホスト側の方々共にも、多くの出会いと学びの機会を頂き、心より感謝しております。緑化設計の仕事についても、いくつかの公共空間や複合施設の緑化プロジェクトが竣工し、大型屋上庭園の設計に携わる機会も頂き、充実した一年となりました。

高さ75mの木造ハイブリッドビル
視察がひと段落した昨年の11月中旬に、チューリッヒ近郊の木造ハイブリッド高層建築の現場見学会に参加しました。レーゲンスドルフ駅裏で開発中の新街区Zwattの一部を成す建物で、設計は建築設計事務所ボルツハウザー・アルキテクテン社、木造エンジニアはB2Kolb社、施工は大型ハイブリッドを得意とする大手の木造会社エルネ社が手掛けています。


写真:Boltshauser Architekten展示パネルより

総高75m、24階建てのうち、下3階はコンクリート造で770㎡のオフィスや商業施設が入ります。その上に21階分の木造ハイブリッドの賃貸住宅156世帯が乗っかる形となっています。建物の背骨を成す階段室はコンクリート造。柱と梁は国産のブナ集成材。そして木の梁の上に薄いコンクリートのスラブが敷かれています。外壁パネルも木造です。木とコンクリートを組み合わせたスラブパネルも、木造の外壁パネルも、事前で工場で製造するプレファブパネル構法となっています。


写真:中央の建物が半分ほど建設が進んだ木造ハイブリッド高層ビル

広葉樹集成材のスケルトン構造
この建物で特徴的なのが、国産ブナの集成材を柱と梁に使っている点です。スイスの森林でトウヒに次いで二番目に多い樹種が広葉樹のブナ。伝統的には主に燃料材に使われる事が多かったのですが、8年前くらいから、その強度を活かして大型建築の構造材に利用する動きが広がってきました。



スイスでも森林所有者や木材産業のイニシアチブで国内にブナ集成材工場が作られた事により、国産のブナ材による高層建築が実現できるようになりました。針葉樹よりもずっと細い材で足り、空間を節約できるのが利点です。この建物ではスプリンクラーが設置されているため、美しいブナの柱と梁をあらわしにできています。

写真:フロアを仕切った後の空間。賃貸住宅となる。

1週間でワンフロアを組み立て
工事現場は、約5日でワンフロアが組み立てられており、スピーディーに進行していました。その際にコンクリ造の階段室と木造部分が同時進行で施工されている点が珍しかったです。フロアのパネル組み立てをしている間に、上階の階段室のコンクリを打っているという意味です。(普通は階段室が出来上がってから木造パネル組み立てます。)

写真:建設中の最上階、階段室の建設が同時進行

11月中旬の見学時には、10階くらいまでが組み立てられたところでした。残りもあと3か月程度で上棟する計算です。最終的にはワンフロアあたり8世帯の賃貸住宅が入りますが、見学時には間仕切りのない状態の、スパンの大きな、フレキシブルな空間を見る事ができました。出来る限り同じサイズのスラブパネルを利用できるように空間構成を工夫しているそうです。



構造体からの排出量を26%削減
H1プロジェクトでは、建築設計コンペでの条件が持続可能性・温暖化対策でした。木造ハイブリッド構法を採用する事により、コンクリート造で同じ建物を建設した時と比較すると、構造体の製造による温室効果ガス排出量を26%削減できたそうです。加えて木造の構造体に1500トンのCO2を固定したとの説明でした。



庇部分には日射遮蔽を兼ねた太陽光発電が設置される設計で、屋根と庇からの発電量で電力消費量の4割弱を生産します。地階部分のファサードは版築になるとか。竣工後の姿を見るのが楽しみです。


写真:Boltshauser Architekten展示パネルより

木造高層化を巡る競争は続く
スイスでは、もはや木造6~8階建てくらいまではあまり珍しくなくなった感があります。そもそも高層建築自体が少ないのですが、ディベロッパーや木造会社、建築家やエンジニアたちの木造高層建築への野心はまだまだ尽きず、複数のプロジェクトが国内でも進行中です。


写真: Arbo。大学やオフィスが入る賃借ビル。奥の高いビると手前の中層ビルが木造ハイブリッド。これらの建物もエルネ社が手掛けた。

ちなみに現在スイスで一番高い木造ハイブリッド建築は、ロートクロイツ村のArboです(15階建て、高さ60m、2019)。まだ開発中のものでは、ヴィンタトゥール市内の再開発地に建設予定のRoket(33階建て、100m)が最大規模となります。隣国のオーストリア・ウィーンには世界で二番目に高い木造ハイブリッドのHoho Wien(24階建て、高さ84m、2019)があります。その隣には高さ113mのDonaumarina Towerが計画されています。


写真:Hoho Wien。ホテルが入っている。世界で二番目に高い木造ハイブリッドのビル。


☆ウェビナーのお知らせ☆
2024年1月23日(火)ペーター・シュルヒ教授ウェビナー
「持続可能な建築の考え方と実践2~改修編」

第9回SJSウェビナーのテーマは、建築の脱炭素にとって最も重要なテーマのひとつである省エネ改修です。講師には第2回SJSウェビナーでもお馴染みの、スイスの建築家ペーター・シュルヒ教授(ベルン州立大学建築学部)をお迎えします。

日時       :2024年1月23日(火)、17:00-18:50頃、ZOOM生中継
講演       : ペーター・シュルヒ教授、「持続可能な建築の考え方と実践2~改修編」
参加費    :1000円(学生500円)
お申込み: http://ptix.at/FZ6Cup










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2024年1月23日(火)SJS第9回ウェビナー「持続可能な建築の考え方と実践2~改修編」のご案内

2023-12-16 04:33:48 | お知らせ


今日は2024年1月23日(火)に開催予定の第9回SJSウェビナーについてご案内します。

今回のテーマは、建築の脱炭素にとって最も重要なテーマのひとつである省エネ改修です。
講師には第2回SJSウェビナーでもお馴染みの、スイスの建築家ペーター・シュルヒ教授(ベルン州立大学建築学部)をお迎えします。

当日は省エネ改修に加えて、スイスのトップランナー建築(ミネルギー)には必須となっている建材のエンボディドカーボンの削減やトレンドテーマであるサーキュラー建築についても、事例を交えながらお話頂きます。

日時:2024年1月23日(火)、17:00-18:50頃、ZOOM生中継
講演: ペーター・シュルヒ教授、「持続可能な建築の考え方と実践2~改修編」
参加費:1000円(学生500円)
お申込み: http://ptix.at/FZ6Cup

皆様とZOOMでお会いできる事を楽しみにしておりますので、どうぞご参加のほどよろしくお願い致します。

 


チラシ・ヴィデオ製作:REPLYe 岡田真樹子

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10月24日(火)第8回SJSウェビナー「地域のエネルギー自立を支える支援組織、エネルギー研究所フォアアールベルク」

2023-09-12 17:17:51 | お知らせ


オーストリア西端のフォアアールベルク州は、欧州でもエネルギー自立の先進地域。拙著の中でも何度も紹介し、専門視察でも頻繁に訪れてきた地域です。

エネルギー研究所フォアアールベルクは、同州に1985年に中立機関として設立された半公共のNPO協会です。当初は地域の建築の省エネルギー化やエコロジー化を主要テーマとして、施主へのアドバイスや建設関係者の教育を行っていました。

現在では、州や基礎自治体、地域企業、建築関係者や施主の中立のパートナーとして、地域からのエネルギー大転換を実施していくための中間支援組織に発展。50人の専門家が働く研究・コンサルタント機関、地域のブレインとなっています。

SJS第8回ウェビナーでは、1989年から同機関に勤め、現所長であるヨゼフ・ブルチァーさんに、エネルギー研究所フォアアールベルクの成り立ち、組織、機能やサービスについてお話頂きます。

共同主催は、日本でも地域からエネルギー大転換を実施していくには、地域の中間支援組織の存在が重要であるという認識を持つNPO法人気候ネットワーク様です。

日時:10月24日(火)17時~19時00分
講師:ヨゼフ・ブルチァー、エネルギー研究所フォアアールベルク所長
タイトル:地域のエネルギー自立を支える支援組織『エネルギー研究所フォアアールベルク』~オーストリアでの取り組みの最前線からの報告~
場所:ZOOMオンライン
参加費:無料
主催:NPO法人気候ネットワーク × スイスー日本サステナビリティ交流会(SJS)



【講師】
ヨゼフ・ブルチァー 
1959年生まれ。機械工学エンジニア。グラーツ工科大学で機械工学(蒸気・熱分野)を卒業。後にインスブルック大学でマーケティング課程を修了。
80年代後半に大学研究所でのヒートポンプ技術の研究や、企業での熱源設備の開発・製造に携わる。1989年からエネルギー研究所フォアアールベルクのプロジェクト担当者と副経営者を務める。
以来2011年までに、住宅建築のエネルギーアドバイスに携わる40人のエネルギーアドバイザーのネットワークを運営。州内16箇所の地域エネルギーアドバイス所をコーディネートし、エネルギーアドバイザーの教育・継続教育プログラムの策定と実施、エネルギー研究所の広報活動等に携わる。
2011年からエネルギー研究所フォアアールベルクの経営者を務める。


【気候ネットワークの「脱炭素地域づくりを進める中間支援組織」三回連続セミナー】
第8回SJSウェビナーは、NPO法人気候ネットワークによる三回連続セミナー「脱炭素地域づくりを進める中間支援組織の仕組みと体制」の第二回目として開催されます。連続セミナー第一回目は9月25日(月)開催となっており、ブルチァーさん講演の背景となる状況を学ぶことができます。

写真提供:Energieinstitut Vorarlberg

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6月22日、第7回SJSウェビナー「変人から成功者へ」~SONNENTOR社のオーガニックハーブ・スパイスによる持続可能な発展

2023-05-09 03:26:20 | お知らせ
北スイスの山間集落ではブナ林の新緑が眩しい季節になりました。

今日は、6月22日に開催する第七回SJSウェビナーのご案内です。
オーストリアの革新的なビオ(オーガニック)企業であるSONNENTOR社について、創業者でオーナー、経営者のヨハネス・グートマンさんにお話頂きます。

 6月22日(木)17時00分~18時30分、ZOOM生中継
ゾネントア社創業者・経営者ヨハネス・グートマン氏ウェビナー
「変人から成功者へ」
~SONNENTOR社のオーガニックハーブ・スパイスによる持続可能な発展の実践〜
お申込み:https://peatix.com/event/3553952/ 
参加費:1000円
プレスリリース:

SONNENTOR(ゾンネントア)社は、欧州を代表するオーガニックハーブ・スパイスの会社のひとつです。
オーストリア北東部のシュプレーグニッツ村に拠点を置き、有機農家とのパートナー関係に基づいて、900種のビオ商品を販売し、50カ国以上に輸出しています。
1988年の創業以来、社員数は世界全体で500人に成長。当初よりビオ(オーガニック)、フェア、エコロジー、エシックの実践を重ねてきた同社は、農村地域の持続可能な発展に貢献しています。職場としても高い人気を誇る企業です。

講演のポイント
・SONNENTORとヨハネス・グートマンの物語
・持続可能性の実践:ビオ、ソーシャル、サーキュラーエコノミー
・公益経済による企業評価
・農村地帯の地域発展への貢献

講師
ヨハネス・グートマン。SONNENTOR(ゾンネントア)社創業者、オーナー、経営者。
1965年、オーストリア北東部、ニーダーエスターライヒ州ヴァルトフィアテル地域のツヴェットル市生まれ。ブランド村の農家の末息子として育つ中、自然やハーブへの情熱を育む。地元の商学アカデミー卒業後、ウィーンの大学で商学を志す。しかし二週間で考えを改め、ヴァルトフィアテル地域が自分の場所である事を認識し、故郷へ戻る。1988年にSONNENTORを起業し、まずは地域のオーガニックハーブ・スパイスを商品化。ツヴェットル市近郊のシュプレーグニッツ村に拠点を置く同社は、過去35年でワンマン企業から全世界で500人の従業員が働く国際的なビオ企業に発展した。
               
(写真)©SONNENTOR


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4月13日、第6回SJSウェビナー「ドイツ市民エネルギー企業のパイオニアが語る・・再生可能エネルギー事業の進化と最前線」

2023-02-24 17:57:48 | お知らせ

スイスは例年よりもひと月ほど早くマンサクやロウバイ、クロッカスが咲き、野鳥の声も随分と春めいてきました。今日は2023年4月13日(木)に開催予定の第6回SJSウェビナーについてのご案内です。

第6回ウェビナーのテーマは、地域に根付いた市民出資の企業による再生可能エネルギー事業の最前線です。ドイツを代表する市民エネルギー企業であるソーラーコンプレックス社の創始者・経営者ベネ・ミュラーさんを講師にお招きします。

4月13日(木)17時00分~18時30分、ZOOM生中継
「ドイツ市民エネルギー企業のパイオニアが語る・・再生可能エネルギー事業の進化と最前線」
お申込み:http://ptix.at/2S2sL1
参加費:1000円(学割有)
チラシのダウンロードはこちらから↓


ソーラーコンプレックス社は、20年前に南ドイツの市民が資源とお金が循環する地域社会を目指して設立した、再エネ設備専門の開発・運用会社です。
今日では50人の社員を抱え、地域で最も再エネノウハウの高い企業に成長しています。

ミュラーさんは、コロナ禍前までは講演のために何度か来日された事がありますので、ご存知の方も多いと思います。この数年のコロナ禍やエネルギー危機を経て、ソーラーコンプレックス社は大きく発展しています。本ウェビナーでは、同社の近年の再エネ事業の進化や課題についてお話をお聞きします。

その際に、現在年25~45MW規模の事業となっている太陽光発電に焦点を当てて頂きます。助成金を利用しない、地域社会と地域企業、自然に優しい屋根置き・野立て太陽光がキーワードです。

皆様のご参加を楽しみにしています!






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