さて、今回は少し難易度が高いクリッピングのお話です。
動脈瘤の術中破裂や周辺の血管や神経の損傷を避けるためには、クリップ前に、動脈瘤とその周囲をしっかり確認して、動脈瘤全体を周囲から完全にはがす(医学用語で剥離(はくり)といいます)ことが重要です。動脈瘤が周辺の組織から完全にはがれていれば、動脈瘤の裏側に存在する血管や神経を確認し、保護することができます。
では、どのように動脈瘤を剥離するのでしょうか?
以前は小さなヘラなどを差し込んだり、引っ張ったりする操作で剥離が行われていました。こういう方法を鈍的(どんてき)剥離といいます。このような操作をすると、動脈瘤や癒着している血管をひっぱったり、こすったりして傷つけてしまうことがあるのです。
このため、私はハサミで動脈瘤と癒着している組織の間を少しずつ切って行くようにしています(図)。この操作は、鋭的(えいてき)剥離、英語ではsharp dissectionと呼ばれています。自分が国立循環器病センターのレジデント(研修生)だった時に、当時、部長だった橋本信夫先生から学んだ方法です。初めてこの操作を見た時には「動脈瘤の壁の近くをハサミで切るなんて危ない!」と驚いたのですが、この方が術中破裂が少なく、周囲組織の損傷も少なかったのです。橋本先生だからできる天才的な技術だとも思ったのですが、自身がスイスに留学していた時にも、動物を使ったトレーニングでsharp dissection操作を行うよう指導されました。やはり世界のトップレベルの技術というのは同じ方向に向かうのでしょうか。実際にこの操作が安定してできるようになると、クリッピングに自身が持てるようになります。
このような背景から、私はほぼ全例で動脈瘤を完全にフリーの状態にしてからクリップをかけています。このため、術中破裂や脳梗塞などは最近経験がありません。
熟練した術者はまず例外なくこのような剥離を行なっています。それは、周辺組織と動脈瘤が癒着したままクリップして裏側で血管をつまんでしまったり、不十分なクリッピングや動脈瘤破裂などのリスクを避けるためです。術中の動脈瘤破裂などのトラブルはクリップをかける時に最も多いことが報告されています。ですので、その操作に移る前に、十分に剥離を行なってからクリップ操作に移ります。この剥離操作を怖がる若手術者は少なくありませんが、動脈瘤の良い術者になるためには、トレーニングに励んで、癒着した組織の剥離がうまくできるようになる必要があります。
もちろん、動脈瘤を周囲構造から剥がすのがどうしても難しいこともあります。癒着が高度な場合、癒着した血管などを損傷してしまったり、動脈瘤が破裂してしまう可能性があるからです。このため、どこまではがすかという見極めも重要になります。
さて、クリップをかける時、そしてクリッピング直後にも重要なステップがあります。それについては次回紹介します。
動脈瘤の術中破裂や周辺の血管や神経の損傷を避けるためには、クリップ前に、動脈瘤とその周囲をしっかり確認して、動脈瘤全体を周囲から完全にはがす(医学用語で剥離(はくり)といいます)ことが重要です。動脈瘤が周辺の組織から完全にはがれていれば、動脈瘤の裏側に存在する血管や神経を確認し、保護することができます。
では、どのように動脈瘤を剥離するのでしょうか?
以前は小さなヘラなどを差し込んだり、引っ張ったりする操作で剥離が行われていました。こういう方法を鈍的(どんてき)剥離といいます。このような操作をすると、動脈瘤や癒着している血管をひっぱったり、こすったりして傷つけてしまうことがあるのです。
このため、私はハサミで動脈瘤と癒着している組織の間を少しずつ切って行くようにしています(図)。この操作は、鋭的(えいてき)剥離、英語ではsharp dissectionと呼ばれています。自分が国立循環器病センターのレジデント(研修生)だった時に、当時、部長だった橋本信夫先生から学んだ方法です。初めてこの操作を見た時には「動脈瘤の壁の近くをハサミで切るなんて危ない!」と驚いたのですが、この方が術中破裂が少なく、周囲組織の損傷も少なかったのです。橋本先生だからできる天才的な技術だとも思ったのですが、自身がスイスに留学していた時にも、動物を使ったトレーニングでsharp dissection操作を行うよう指導されました。やはり世界のトップレベルの技術というのは同じ方向に向かうのでしょうか。実際にこの操作が安定してできるようになると、クリッピングに自身が持てるようになります。
このような背景から、私はほぼ全例で動脈瘤を完全にフリーの状態にしてからクリップをかけています。このため、術中破裂や脳梗塞などは最近経験がありません。
熟練した術者はまず例外なくこのような剥離を行なっています。それは、周辺組織と動脈瘤が癒着したままクリップして裏側で血管をつまんでしまったり、不十分なクリッピングや動脈瘤破裂などのリスクを避けるためです。術中の動脈瘤破裂などのトラブルはクリップをかける時に最も多いことが報告されています。ですので、その操作に移る前に、十分に剥離を行なってからクリップ操作に移ります。この剥離操作を怖がる若手術者は少なくありませんが、動脈瘤の良い術者になるためには、トレーニングに励んで、癒着した組織の剥離がうまくできるようになる必要があります。
もちろん、動脈瘤を周囲構造から剥がすのがどうしても難しいこともあります。癒着が高度な場合、癒着した血管などを損傷してしまったり、動脈瘤が破裂してしまう可能性があるからです。このため、どこまではがすかという見極めも重要になります。
さて、クリップをかける時、そしてクリッピング直後にも重要なステップがあります。それについては次回紹介します。