脳卒中をやっつけろ!

脳卒中に関する専門医の本音トーク
 最新情報をやさしく解説します 

救急部がんばれ!

2008年04月21日 | 閑話休題
当院には高次救命治療センターがあって、救急の患者さんをたくさん受け入れています。
有名な小倉教授率いるメンバーは救急専門医と各科の専門医から構成されていて、日本最大級かつハイレベルの救命センターです。
私の専門とする脳卒中は、それこそ急患がメインですので、本当にお世話になっています。
先日も治療の難しい患者さんを遠方からヘリコプターで搬送してもらって、無事手術を終えることができました。
患者さんも我々も本当に「感謝!」という感じです。

うちの救急部はテレビにも頻繁に出て非常に元気ですが、日本の救命センターの多くは実は危機的状態にあるそうです。
新聞などでも報道されていますが、最近は産婦人科、小児科、救急部、そして我々の脳神経外科もふくめ、救急対応の多い「キツい」科は敬遠されて、あまり入局してくれないのです。
それよりも、自分たちの人生をゆったりと過ごせる科(そんなところがあるのかどうかわかりませんが)が人気があるそうです。
ちょっと残念ですねー

数年前から医療事故に関して、医師側にきびしい報道がなされてきました。
実際、こういった報道が患者さんのためになったケースがあると認識しています。
しかし、過度に医師たたきが行われると、ますますリスクの高い診療科の人不足に拍車をかけてしまいます。
マスコミの人たちにもお願いしたいところです。

例えば5人でやっていた診療科から2人抜けると、3人でそれまでの業務を行わなくてはいけません。
これは相当にきつく、院内処置や医局の応援がないと残りの3人も燃え尽きてしまうのです。
結局その地区から緊急対応を行っていた科がなくなってしまうことになります。

研修医や医学生の人たちに伝えたい!
救急や脳外科のような命のかかった仕事は、大変ではありますが、やはり大きなやりがいがあります。
少しでも多くの人たちに目指してもらいたいです。
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ステントとは?

2008年04月17日 | 脳梗塞
<風船で広げるタイプのステント>

ステントってなに?という質問がありました。
ちょっと絵を作ってみましたよ。
(こんな絵を作ることばかり得意になってきました。だめですねー)

さてステントとは、ステンレスなどの金属でできた小さい網目模様の筒です。
はじめは風船にぎゅっと締め付けた状態で準備されています(風船拡張前)(上図左)。
風船をふくらませるとステントもふくらみます(上図中央)。
その後、風船を抜き取るとステントだけが血管の中に残るわけです(上図右)。
なぜこのようなものが必要かというと、動脈硬化で細くなったところを風船で広げても、支えがないのですぐにしぼんでしまうことがあるためです。
この支えになるのがステントです。
風船だけによる治療に比べ再度細くなる現象(再狭窄:さいきょうさく)が少なくなるのです。
血管が割れてしまったときにもすぐに修復できるのですごくいいのです。
以前これが使えない頃は、「風船で血管の壁が割れて浮いてきたらどうしよう...」と思いながら治療していました。
だから今は夢のようです!

でも欠点もあります。ステントは異物ですから、それに体が反応して血栓(血の塊)ができることがあるのです。
これが原因で急に広げた血管が閉塞する場合がありますので、これを防ぐために予防の薬が必要です。

現在のところ植え込まれたステントは取り出すことはできませんが、以前から体に吸収される材質で出来たステントが研究されており、すでに海外では使われはじめているようです。

どうですか?
ステント、分かりましたか?




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未破裂動脈瘤の治療法選択ー血管内手術(近未来編)

2008年04月11日 | 動脈瘤
今回は動脈瘤塞栓術の近未来編 その1です。
前回お話ししたようなバルーン併用でも対処できないケースがあります。
非常に広いネックを持つ動脈瘤の場合には、バルーンをしぼませるとコイルが出てきてしまうのです。
このため何らかの「支え」が必要です。
この「支え」になるのがステントです。
上の図に示したように、バルーンでコイルが出てきてしまうようなケースでも、ステントを併用するとうまく治療ができます。

     

私自身も、この方法しか治療ができない患者さんに対して心臓の動脈(冠動脈)用のステントを使って治療したケースがあります。
見事にうまくいった症例もあれば、心臓用では固くて、目的のところまで挿入できなかったケースもありました。
しかもこれは保険診療外(!)なので、病院が負担するのです。だから普通には使えません。
一本何十万円もするんですよ、ステントって。知ってましたか?
あんな小さな金属と風船が!いくら何でも高すぎると思うのは私だけでしょうか ...。

     

でもアメリカやヨーロッパでは動脈瘤塞栓用のステントがすでに使われているんですよ。
去年のアメリカ見学で実際に見てきました。
自分で広がるタイプ(自己拡張型)のステントですから血管を傷つける心配も少ないのです。
日本では治療不可能な形状の動脈瘤がステント併用で治療されていて、ドクターたちもいい結果に満足げでした。
自分は正直ショックを受けました。アメリカがうらやましいです。
日本でも早く使えるようになるといいですね。
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未破裂脳動脈瘤治療の光と陰

2008年04月06日 | 動脈瘤
未破裂脳動脈瘤に関しては、私は必ず患者さんとその家族の方々に、時間をかけて直接説明します。
しかも治療はよほどのことがない限り自分自身の手で行います。
これは動脈瘤の治療には、非常に繊細な部分があるためです。
瘤だけを処置して他の部分をそのまま残す...という治療です。
血管内手術でも外科的手術でも良い修練を積んでいれば、ほとんどのケースでいい結果が出ますが、やはり100%ではありません。

例えば合併症が出る可能性が2-3%程度であると説明すると、「97-98%大丈夫な訳ですか!」と、ちょっと安心される患者さんもいます。
しかしこの数字は、治療する側には重い数字なのです。
100人の動脈瘤を治療すると97-98人は幸せになる。しかし2-3人を不幸にする。
これが「未破裂脳動脈瘤治療の光と陰」です。
97-98人には本当に感謝されます。
しかし合併症を来した場合には、家族も医者も治療したことを後悔することになるのです。
主治医の説明が十分でなかったと、訴訟になるケースも聞きます。
いろいろな医療機関で未破裂脳動脈瘤の治療をやめてしまった理由はここにあります。
動脈瘤が破裂したら治療すればいい...。それは誰の責任でもないから...という考えです。
しかし現実には破裂すると半分の人は命を落としてしいまいます。
患者さんが予防したくなるのは当然です。
最近ではいろいろな情報をもとに治療経験の多いドクターに集中する傾向にあります。
私のところにもたくさんの患者さんが来ます。
でも最近は、100例も合併症なく経過すると逆に不安になるのです。
そろそろ何か起きるのではないか、と。

私は合併症に遭遇すると、まず全力で回復に尽くします。
外科手術も含めて、ありとあらゆる努力をします。
そんな時、いいチームがあると本当に救われます。
うちのチームのドクターたちにはいつも心から感謝しています。
本当にありがとう!君たちのおかげだよ。

でも、命が助かっても後遺症が残るケースがあります。
そんな時、たとえ避けきれない合併症だったとしても、自分を責めてしまいます。
患者さんを見るたびに胸が締め付けられるのです。
自分の手でこの人を悪くしてしまった、と...
心に深い傷を負うのです。

しかしまた患者さんはやってきます。
「命の危険から救ってほしい」と。
どれだけ技術を磨いても、100%成功するのは不可能だと分かっている。
続けていれば、また傷つく時がくる。
でも自分はまた挑んでいくのです。
求めくる患者さんたちのために。
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未破裂動脈瘤の治療法選択ー血管内手術(応用編)

2008年04月01日 | 動脈瘤
次は血管内手術の応用編です。
脳動脈瘤のネックが広い場合には、そのままコイルを入れると正常な血管にコイルがはみ出てしまいます。
このため血管の中にもう一本、バルーンカテーテルという風船付きの管を入れてはみ出しをおさえます。
単純なテクニックですが、これが意外に有効です。

     

例えば、上の図の動脈瘤は、クリッピングの難しい脳底動脈瘤です。
先端部にブレブ(小さな出っ張りで、破裂しやすいポイント)が見えます。
こういった形の動脈瘤に普通にコイルを入れるとコイルがはみ出てきますが(左図)、バルーンで押さえることによって塞栓が可能になります(右図)。
英語でネックプラスティ(neckplasty:ネックを作る)と呼ばれています。
最近はこのテクニックを使って塞栓することがずいぶんあります。
風船にも色々な種類があって、上の図のように非常に柔らかくて血管に沿って広がるタイプのものが出てきました。
以前は極めて治療が難しいと言われていた動脈瘤が、わずかな時間で治療できるようになってきました。
医学の進歩はすごいですね。(^^)

コメント (3)
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