脳卒中をやっつけろ!

脳卒中に関する専門医の本音トーク
 最新情報をやさしく解説します 

遠位フィルターによる脳保護

2010年01月30日 | 脳梗塞
遠位フィルターによる脳保護は、現在保険適応になっている唯一の方法です。
上の図のアンジオガードXPがスタンダードなデバイスです。
私たちの経験ではこのデバイスを用いていても非常に良好な治療成績がでています。
(右上のフィルターワイヤーEZはまだ日本では使うことができませんが、近日中に承認される見通しです)

さて、これらのフィルターデバイスには共通した特徴があります。
まず「血流を遮断しなくても治療ができる」。これが最大の利点です。
以前日本ではこのフィルターが手に入らず、バルーンで脳保護をしていたことを紹介しました。
そのころは「血流を止めずに治療ができたらどんなにいいだろう」、「理論的にフィルターが最も優れている」と、皆が思っていました。
しかし認可後、実際に使いはじめてから分かった欠点もあります。
1)フィルターが目詰まりすることがある
2)フィルターの穴や周囲をすり抜けるデブリス(動脈硬化の破片)がある
などです。
まず1)についてですが、フィルターの穴が目詰まりすると血流が停止してしまうことがあり、ノーフロー現象 (no flow phenomenon)と呼ばれます。
こうなると、フィルターの手前に浮かんでいるデブリスを急いで吸引してからフィルターを回収しなくてはならず、血流停止により患者さんが虚血症状を来している場合には、かなり慌てます。またこの現象を来たすと、治療後に脳梗塞がおこりやすいことが知られています。
2)についても理論的に起こりうるとは思っていましたが、重度の脳梗塞を起こす症例があることが報告されています。

以上から最近では、「デブリスが大量に発生する症例はフィルターデバイスには向いていない」と考えられています。
これについて次回もう少し説明します。

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岐阜大学病院跡地

2010年01月28日 | 閑話休題
先日、前の大学病院の近くを通りかかったら、完全な更地になっていました!
移転して5年経っても建物が残っていたので、もうそろそろ壊さないと周辺の方に申し訳ないと話していたのですが、知らぬ間に一気になくなっていました。なくなると寂しいですね。
当時は「狭い狭い」と言っていましたが、更地になると結構広いもので、場所が町の中ですからその光景にちょっと驚きます。
私は医学部3年生から卒業後2年間までの6年間と、大学院4年間、帰国後の3年間、トータル13年間もこの場所でお世話になりましたので愛着があります。
右上の写真は太陽電池付き街灯(?)のようで、敷地内にできた通路沿いに並んでいました。
あとはどうなるのかな?誰かご存知ですか?
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風川 清先生

2010年01月24日 | 人物紹介
昨日、私の恩師に講演に来て頂きました。福岡大学筑紫病院の風川 清先生です。
風川先生は私が血管内手術の手ほどきを受けた先生で、血管内治療の最初の師匠です。
国循の一番下っ端だった私にいつも声をかけてくださって、それこそマイクロカテーテルの持ち方から指導して頂きました。非常に優しくて、穏やかで、ダンディーな先生です(写真参照)。
「先生、一緒にやろうよ」というのを口癖のようにおっしゃられて、周りにいっぱい人が集まる先生です。現在のご施設でも多くの若手の先生が集まっているとのことで、先生のお人柄だなと思います。
また、当時は新しいことにチャレンジすることに情熱を傾けておられました。まだ誰もしたことのないことをする怖さをいつも語っておられましたし、その準備として動物実験を一緒にさせて頂いたこともあります。
現在も非常に多くの治療をされているとのことですが、数だけでなく、治療における疑問を一つ一つきっちりと論文(しかも英語)にされておられることにとても感銘を受けました。懇親会でも会場の先生方から「あれこそ臨床医のあるべき姿だ」という賛辞が多く寄せられていました。
風川先生の臨床医としてのご姿勢、指導者としてのご姿勢を尊敬しています。まだまだ追いつけない私ですが、先生を目標に頑張りたいと思います。
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遠位バルーンによる脳保護

2010年01月20日 | 脳梗塞
前回の続きです。

そこでまずクローズアップされたのが、もう一つバルーンを入れて血流を止めてしまい、治療後に血液ごと吸い取る方法です。
単純な発想の方法ですが、これはかなりうまく行きました。
実際に血液を吸い取って、それをフィルターの上に出してみると、上の図のようにツブツブとした動脈硬化の破片(デブリス)がたくさん確認されることがありました(この患者さんはこの方法を行って本当に良かったと思います)。
こういう患者さんは全体の1割程度だったと思います。ですから「9割にはなんにもいらないな」と思って治療していました。フィルターを使い始めるまでは...。つまり、目に見えるつぶつぶが悪いと思っていたのです。
もちろん、デブリスが飛ぶのは明らかに悪い。しかしそれだけではなかったのです。(次回のフィルターのところでもう少し説明します。)

さて、この方法は最初はもう一本別のバルーンカテーテルを入れる等が必要でしたが、心臓に用いられていたPercusurge(パークサージュ)という風船付きのガイドワイヤーが使えるようになってから状況が一変しました。
もともと普段からCASの時に挿入していたワイヤーに風船がついて、膨らましたりへこましたりできるのです。非常に簡単です。
ですからこの方法はあっという間に日本全国に広がり、そのおかげでCASの治療成績は向上しました。保険適応がとれていない状態だったのに、知らぬ間にCEAより多く治療されるようになってしまったという、CASをメインの治療に押し上げたスグレものです。
しかし企業が日本での正式な認可を申請していなかったため、まだ承認されていません。もうすぐ承認されるとのことですので待ち遠しいです(^^)
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CASにおける脳保護法:歴史

2010年01月19日 | 脳梗塞
脳保護法の歴史をまず説明します。

頚動脈の動脈硬化は他の部分の動脈硬化と比較して、とりわけドロドロした流動体であることが知られています。ですからこの部分の動脈硬化は「おかゆ(粥)」に例えられ、「粥状硬化(じゅくじょうこうか)」と呼ばれます。
脳神経外科医は頚動脈内膜はくり術(CEA)を行ったときに、自分自身の目で見るためにこのことを良く知っています。ですから長らく「頚動脈には血管拡張術は無理」と言われてきました。
私が国立循環器病センターのレジデントだった頃は、「頚動脈を拡張しようとするなんて無知な愚か者だ」と言われていました。
しかし実は、そのころ私は頚動脈をバルーンで広げたことがあります。ひどいレジデントですね(- -;)
お手伝いに行っていた病院で、「80代の高齢でCEAはとても無理な患者さんが一日何回も発作を起こされる、責任は自分が取るから治療してほしい」と言われたのです。
恐れを知らない当時の私でもさすがにひるみましたが、その先生の熱意にうたれてバルーンによる拡張術を行いました。
確か3ミリぐらいの小さなバルーンで少し拡張しただけでやめてしまったのですが、これが程良かったようで、治療中もトラブルなく、術後発作を全く起こさなくなったとのことで大変喜ばれました。確か1994年のことです。

このことは当時の部長とかには内緒にしていましたが、やはり世界的にも同じことをする人たちがいてCEAが危険な患者さんで血管内治療が行われるようになってきました。
もっとも最初はバルーンで広げるだけの治療で、治療中の脳梗塞の問題よりも、不完全拡張や再狭窄が注目されていました(上図真ん中)が、その頃衝撃的とも言える報告がありました。
1996年にアメリカから100例を超えるCASを行ったという報告がなされたのです(Diethrich EB et al, J Endovasc Surg.)。
自分がこっそりバルーンで1例開いていたころにすでにCASを多くの症例に行っていた人がいたのです。
世界は広いですね。

そしてその後私たちもステントを徐々に使うようになりました。
そうするとそれまでの悩みだった不十分な拡張や血管の解離、再狭窄はほとんど解消されましたが、拡げ方が大きくなった分、動脈硬化の飛散が増えたのです(上図右)。
そこで、その防止のためにいくつかの方法が考案されたのです。

これが脳保護法 (cerebral protection) の始まりです。
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センター試験

2010年01月17日 | 閑話休題
昨日は岐阜大学本学でセンター試験の監督をしてきました。
高校生が中心ですが、中には年配の受験者の方もおられるようでした。

試験監督も最近は慣れてきました。
目の前にいる受験生にできるだけいい環境で受験してほしいという気持ちになりますし配慮しますが、別の試験会場の人たちと平等になるようにしないといけないという立場もあるので、努めてマニュアル通りにこなしています。
緊張した大勢の受験生を前に説明を行うのですが、緊張を解くために何か言ってあげたいと思うところを、ぐっとこらえています(^^)
ただ、以前は「受験番号を書き忘れて落ちてしまった」ということを良く耳にしましたが、今回監督をしてみると、試験前はもちろん、終了直後にも受験番号や受験科目を訂正記入するチャンスを設けてあり、またその後もセンター本部に問い合わせができるようです。ですからこういったミスで受験に失敗するということはほとんどなくなったように思います。これはいいことですよね。
昨日は大変寒く、試験監督の私たちも午前中は参りそうでした。午後は大分あったまりましたけどね。
今も試験中です。みんな実力が出せるといいですね。
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ski tour

2010年01月14日 | 閑話休題
先週末は脳神経外科のスタッフ達とスキーツアーに行ってきました。
場所は長野県白馬の栂池高原(つがいけこうげん)。
岐阜大学脳神経外科は創設以来ずっとこのスキーツアーを行っているので、そろそろ30年になるはずです。
以前は八方尾根でスキーをする硬派なツアーでしたが、最近はボーダーの方が多くなってきたので、栂池高原に変更したのです。もはやスキーツアーじゃなくてスノーボードツアーです!?
写真は「鐘の鳴る丘ゲレンデ」で撮った集合写真です。2日目は素晴らしい天気に恵まれました。
後ろにちらっと見えますが、白馬連峰が見事でしたよ!
このツアーには医者だけでなく、看護士さんや放射線技師さん、リハビリ技師さん、などなど色々な職種の人が参加してくれます。
今回はOBの開業医の先生とその息子さん、技師さんの友人の方達も参加して頂けました。
普段は仕事上での付き合いしかなくてなかなか会話できなくても、このツアーに参加して寝食を共にするといっぺんに仲が良くなってしまうのです。スポーツのつながりは不思議ですね。
だからどんなに忙しくても、絶対参加するのです。仲間が増えるのは楽しいですからね!
そうそう、私は今回はじめてスノーボードにも挑戦しました。
意外にも初日から結構滑ることができて楽しかったですよー(^^)v
参加できてラッキーでした。また行きたいです。
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頚動脈ステント留置術における脳保護法:その種類について

2010年01月12日 | 脳梗塞
今回は頚動脈ステント留置術における脳保護法について紹介します。
私たちは初期には脳保護法を用いない頚動脈ステント留置術を行っていました。
というか、当時は「脳保護法」という概念がありませんでした。
脳保護なしでも割とうまく行くのですが、時に重篤な脳梗塞を起こすことがありました。
もともと元気な患者さんが多いので、治療で悪くなるのは非常につらい。
ですからこれをなんとか予防したいと思っていましたが、やはり世界的にも同じことを考える人がいて、はじめられたのが「脳保護法」です。
その方法には3つあります。
「遠位型」と「近位型」、に分類され、さらに遠位型には「フィルター法」と「バルーン法」があります。
これらをうまく使い分けるといい治療ができるはずです。
ちなみに最も早くからはじめられたのは一番左の方法ですが、日本で最初に承認されたのは真ん中の方法です。
一番右の方法は風船を2つ使って手前で止める方法です。
さてどの方法がいいのでしょうか?
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龍馬伝

2010年01月03日 | 閑話休題
いよいよ今日から大河ドラマ「龍馬伝」がはじまりましたね。
福山雅治さんが、あの坂本龍馬を演じる。
それだけでも見たくなりますが、名も無き若者が日本を動かす「龍」へと成長していくストーリーは私たちを元気づけてくれるはずです。
今日の第一回目も迫力の展開でした。
今年の大河ドラマは目が離せません。
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頚動脈ステント留置術のランダム化研究:SPACE

2010年01月03日 | 脳梗塞
頚動脈ステント留置術(CAS)は外科的手術(CEA)がハイリスクな場合に有効性が証明されたことを紹介しました。
しかし外科的手術に問題がない患者さんはどうなのでしょうか?
もしそれでもCASが同等の成績が出せるなら、すべて低侵襲なCASで治療すればいいということになります。

その結果、上の図に示すようにCASはCEAは近い結果を出すことができましたが(CAS 6.84% vs CEA 6.34%)、統計学的には同等ということができませんでした(非劣勢の証明ができなかったということ)。

以上からCEAに問題がない場合には、CEAの方が治療成績は良好ということになります。
ただしこの研究にはいくつか問題点があります。
特に、脳保護がたった27%の患者さんにしか行われていないことは極めて深刻な問題点です。
この脳保護は日本ではほぼ全例に行われており、CASの安全性を高めるために最も重要な手技です。
なぜそれほど脳保護は重要なのでしょうか?
次回、説明します。
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