脳卒中をやっつけろ!

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脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)ってどんなもの?

2008年01月24日 | 動脈瘤
今回はまず、脳動脈瘤について説明します。

まず最初に、動脈瘤(どうみゃくりゅう)という言葉、ご存知ですか?
テレビでもほぼ毎日医療関係のニュースが流れていますので、「そんなことぐらい知っているよ!」という方が多いかもしれません。
でもちょっと簡単に説明させてください。
脳動脈瘤というのは文字通り、脳の動脈の一部がふくれあがり、「こぶ」になっていることです。「こぶ」の漢字が「瘤」です。血管の壁があたかもチューインガムやお餅が膨らんだようにぺらぺらに薄くなっているわけです。
動脈瘤があるだけではまず症状はないのですが、薄くなった血管の壁がやぶれて、出血することがあります。こぶが「破裂」するわけです。
破裂した場合には、すごい勢いで脳の周りに出血します。脳の太い血管は脳の中でなく、脳の周りに張り付くように走っているからです。その外にくも膜がありますので、脳動脈瘤の破裂による出血は、医学的には「くも膜下出血」と呼ばれます。
動脈瘤の一部が脳の中に入り込んでいる場合には「脳出血」を合併します。
くも膜下出血は恐ろしい状態で、手術をしても3分の1程しか元の状態には回復しません。つまり残り3分の2は、助かっても後遺症が残るか、命を落とすことになります。
ですから、脳動脈瘤の場合には「破裂してから治療しよう」という手段は成り立たないことになります。
逆に「破裂する前に治療してしまおう!」という発想になるわけです。
しかしこの発想には注意が必要です。
つまり、ある患者さんに動脈瘤があったとしても、破裂する確率がすごく少なければ放っておけばいいことになりますし、逆に高い確率で破裂するものであれば治療しなければいけません。
治療だってリスクがあるんですからね。

     

それでは脳の血管に出来た動脈瘤は毎年何パーセントぐらいの確率で破裂するのでしょうか?
一時、海外から有名な医学雑誌に「脳動脈瘤は年間0.05%しか破裂しない」という論文が報告されました。
これは当時、世界的に大きな波紋を呼びました。「脳の動脈瘤はあまり破裂しない」と言っているわけですから、「手術などしなくても良い」ということになるわけです。
手術で合併症が起きたケースでは当時、「手術の不必要な病気に手術をして患者さんを悪くした」などと言われてしまったわけです。このデータが発表される直前に合併症を起こした医師や病院が次々と訴えられたと聞いています。
しかし考えてみれば、「破裂しない」わけがありません。だって現にくも膜下出血の人が毎日のように救急病院に運ばれているのですから。
その後、同じグループがさらに詳しく調査したところ、破裂率はもっと高かったことが分かりました(ISUIA Investigators: Lancet 362, 2003)。
とはいっても、年間0.5%から3%ぐらいです。この数字をどう捉えるかには、かなり個人差があります。「たったそれだけか?」と思いますよね。自分は直感的にそう思いました。でも計算してみると意外な結果になりますよ。

     

例えば、50歳の女性に動脈瘤が見つかったとします。
女性の平均寿命は80歳後半です。つまり単純計算では余命30年以上あるはずです。
その人の動脈瘤の年間破裂率が0.5%とすると
0.5% x 30年 = 15% となり、生涯の推定破裂率は15%ということになります。
一方、もし破裂率が3%の場合には
3% x 30年 = 90% となり、生涯の推定破裂率は90%となります。
同じ人に動脈瘤があったとしても、こんなに破裂率が違うんですね。全く別の病気のようです。
現在、世界的には脳動脈瘤の年間破裂率は0.5%から1.0%と言われていますが、実はそれを規定する因子は動脈瘤の「大きさ」と「場所」であることが分かってきています。
動脈瘤が大きい程、年間破裂率は高くなります。また、破裂しやすい場所は脳の後ろの方で、後頭蓋窩(こうずがいか)と呼ばれる部分にある場合です。
つまり動脈瘤が大きい場合、後頭蓋窩にある場合には、一般に破裂しやすいという訳です。
大型の動脈瘤では年間5-10%以上の破裂率が見込まれる場合もあります。
日本人でも調査が進み、脳動脈瘤の破裂率が徐々に明らかになってきていますが、やはり海外と同程度でした。

     

よく考えると、以前は年間破裂率も分かっていなかったんですよ!
じゃあ、どうやって治療適応を決めていたんだろう?と疑問がわいてきますね (-- ;)?
ちょっと長くなってしまいました。
次回は「動脈瘤の診断編」にしましょう。
今日は当直です。寝れるかなあ?
皆さんはゆっくりおやすみ下さい。
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忙しい...

2008年01月23日 | 閑話休題
今日は比較的時間に余裕があると思っていたのですが、関連病院にくも膜下出血の患者さんがいて、手術の難しい場所に出血源の動脈瘤があるということで、急遽出張手術をしてきました。
手術と言っても、開頭手術ではなく血管内手術です。
開頭手術の難しい場所の場合には、このカテーテルを使った治療が有効です。
しかし今日の動脈瘤は非常にサイズが小さく、血管内手術もリスクが高いものでした。
どういったものが脳血管内手術に適しているか?
どういったものは適していないか?
この適応の決定がもっとも重要です。
とはいってももちろん治療のテクニックも大事ですが...
次回、まず専門家としてこの話題から書いてみようと思います。
初回から日記みたいになってしまいました...(^^;)

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はじめまして!

2008年01月22日 | 学会/研究会
はじめまして!
岐阜大学病院脳神経外科の吉村です。
私は脳卒中を専門としており、みなさんに有用な情報を提供するためにこのブログを開設しました。
一度に大量の情報は提供できませんので、少しづつ書きためていきたいと思います。
質問やコメントがあれば、遠慮なく投稿してください。
コメント (1)
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