脳卒中をやっつけろ!

脳卒中に関する専門医の本音トーク
 最新情報をやさしく解説します 

難しい動脈瘤2

2008年11月19日 | 動脈瘤
それでは本幹を残して治療するにはどうしたらいいでしょうか?
1)巨大動脈瘤をクリッピングして本幹を温存する。
 もちろんこの方法もありますが、かなりリスクの高い治療となります。
 それが頭蓋底部や後頭蓋窩などの狭いスペースにあると、なおさらリスクはあがります。
2)ステントを入れてその外だけを詰める。
 これは実際に行われている方法です。
 私自身も経験がありますが、実際には図のように不完全治療となっている事も多いのです。 
 これでは再発や再出血につながります。ステントとコイルの併用後は、ステントが詰まらないように抗血小板剤という薬を複数使うことが多いので、出血したら命取りです。
 また、治療中にステントの中にコイルが出てきても見えません。バルーンを毎回ステントの中でふくらませてコイルが出てくるのを防ぎながら、「多分大丈夫なはず」と祈りながら治療している状態です。
 もう一つの問題は動脈瘤が大きいとたくさんのコイルが必要なことです。脳動脈瘤用のコイルは1本約15万円、20本使うと300万円、30本だと450万円ですよ。コイルだけでこの金額です。医療経済的には問題です。
 ただしこの方法は比較的小さなワイドネック(ネックの広い)の動脈瘤には非常に良い方法で,今後日本でも主流となる可能性があります。現在は心臓のステントを流用していますが、この2年程で脳動脈瘤治療用のステントが日本でも使えるようになるからです。欧米では盛んにこの方法が行われており、今回の名古屋の学会でも外国からはステント+コイルの発表のオンパレードでした。ただし大型の動脈瘤になると、上のように手探りで行わなければならないので、あまり報告はありません。やはり難しいし不確実なのです。

では、他にはどんな方法があるでしょうか?もっとシンプルな方法がありますよね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

難しい動脈瘤

2008年11月17日 | 動脈瘤
前回紹介した我々がやっている新しい動脈瘤治療用の器材開発の解説です。
普通にクリッピングやコイリングが出来る動脈瘤はそれらの治療を行えばいいのですが、どちらの治療も難しい動脈瘤が存在します。
たとえば上の左図のように全体がふくらんだような大きな動脈瘤はどうしたらいいでしょうか?
全体をクリップで処置するのは大掛かりであったり、実質上不可能な事もあります。
またコイルでは本幹が詰まってしまいます。

これまではこういった動脈瘤は本幹ごと止めるしかないとされてきました。
1)血管を止めるだけ
2)血管を止めて血液が足りない場合には、バイパスをつける
という手段がとられてきました。
バイパスがいらない場合は、まあいいです。
しかしバイパスが必要な場合、それも大量の血液を送る大型のバイパス(ハイフローバイパス)がいる場合があります。
私はこの手術も手がけていますが、かなり大きな手術となってしまいます。
またバイパスをつけても血流が足りずに後遺症が出てしまう事もあります。

これを低侵襲にうまく治療できないか?というのがわれわれのテーマなのです。
次回にそのしくみを説明しますね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ポスター賞受賞!

2008年11月15日 | 学会/研究会
第24回日本脳神経血管内治療学会総会に出席中ですが、うれしいことがありました。
4年越しで行ってきた研究をポスター発表したところ、この学会のポスター賞(銀賞)を受賞することができました。
これまでもっと大きな学会賞をもらったこともありますが、今回は格別にうれしい。それはこの脳動脈瘤治療用のステントはカネカメディックスの深谷さん、橋本さんとともに共同研究を行ってきた成果だからです。
正直、彼らなしでは私にはこの研究はできませんでした。
だから特許申請もカネカメディックスと私、そして岐阜大学の共同申請となっています。
数年前に以前からあたためていた自分の発想をお話ししたところ、まず強い興味を持っていただきました。
その後、プロトタイプの器具を何度も改良して頂き、ずっと動物実験につきあっていただきました。
これまで特許申請中であったため発表をひかえていましたが、公にしていい時期に来たとの判断から、今回の学会ではじめて発表したわけです。
次回にその内容は詳しく紹介しますが、とにかくうれしい。
深谷さん、橋本さん、そしてこのような研究の機会を与えていただいた井口社長に心からお礼を申し上げたいと思います。
ぜひ臨床応用目指してがんばりましょう!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宮地先生がんばれ!

2008年11月12日 | 人物紹介
明日から日本脳神経血管内治療学会が始まります。
今日の午後から委員会が始まるので、ずっと日曜日まで名古屋です。
名古屋大学の宮地先生が主催されるのです。
宮地先生はすごく優しい人で、名古屋大学でも慕う人がたくさんいるそうです。
私も親しくさせてもらってます!

上の写真は宮地先生と去年函館の大沼セミナーに行った帰りに函館市内のハンバーガー屋に寄ったときの写真です。

なんでここに「幸福の鐘」があるのかよくわかりませんが、このお店のハンバーガーがとてもおいしくてこの笑顔!
いいでしょう?
私たちはこっそり「みやっちー」と呼んでいます。

ちなみに「ラッキーピエロ」というこのお店のハンバーガー、日本一おいしいかも。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

脳梗塞の診断 問診 TIAについて

2008年11月07日 | 脳梗塞
脳梗塞の診断 その1は問診です。

脳梗塞になるといろいろな症状が出ることが知られていますが、実際には
1)片方の手足の動きが悪い
2)言葉が話しにくい
がほとんどです。
もちろん重症例では意識を失って倒れてしまいます。こういうケースは救急車で病院に搬送されてきます。

問題なのは、一旦症状が出て、すぐに元に戻った状態です。
一時的に脳に血が足りなくなったために症状が出たことを、医学的には一過性脳虚血発作(いっかせいのうきょけつほっさ)といいます。
英語ではtransient ischemic attack (TIA)とよばれています。
このTIAはくせもので、脳梗塞の診断をやっかいにしています。
なぜならCTとかをとっても異常がないからです。
一旦詰まった血管が再開通して起きる症状と考えられています。
麻痺が出て戻らない、だんだん悪くなる、というようなことがあれば誰しも病院へ行きますが、一時的に症状が出ても1-2分で戻ったらどうでしょう。
忙しい現代人が仕事を休んで病院を受診するなど、なかなかできることではありません。
せいぜい近くのクリニックを受診するぐらいです。
しかしクリニック全てがこのTIAを診断できるとは限りません。
「薬で様子を見ましょう!」となることがほとんどです。
そして家に帰ってから再発作で救急車で病院に運ばれる...
我々がしょっちゅう経験することです。

ですから皆さんは「一時的に言葉が出にくくなった」とか「右手足が1-2分動かなくなった」という時には、夜間でも遠慮なく救急病院(できれば脳の専門家がいる病院)を受診してください。
何も遠慮はいりません。
脳の血管が「一旦詰まった」のですから、「また詰まる」原因があることがほとんどで、TIAがあった人の2-3割が脳梗塞に移行すると言われています。
次の発作で取り返しがつかなくなる前に専門家に診てもらいましょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

脳梗塞の原因 

2008年11月05日 | 脳梗塞
前回お話しした脳梗塞の原因ですが、色々な本に分類が載っています。
でも分かりにくいんですよ。
私が学生のために分かりやすくした分類を紹介しましょう。

脳梗塞の原因には頭、くび、心臓の3カ所がある、というものです。
<頭>  脳の血管が動脈硬化で詰まる場合。別名「脳血栓症」
<くび> くびの血管(頸動脈)から血栓が飛んで起きる場合。別名「動脈塞栓症」
<心臓> 心臓の中から不整脈や弁膜症のために出来た血栓が飛んで起きる場合、別名「心原性脳塞栓症」

どうですか?

ある脳梗塞の患者さんを診察する時に、
その原因は頭、首、心臓、どこだろうか?
と考えるのです。
そうすると、それぞれに応じた治療法が自然に明らかになります。

結構気に入ってるんですけどね。この分類。

自分自身や身内に脳梗塞の方がいる場合、頭か首か心臓か?というのを尋ねてみてください。
「??」となるようなドクターだとちょっと心配ですね。
「あなたは心臓が原因なんですよ。だからワーファリンというこの薬が必要なんです」
なんて言ってもらえる先生なら大丈夫。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

なぜ脳梗塞になるのか (脳梗塞の原因)

2008年11月04日 | 脳梗塞
脳の血管が詰まって起きるのは分かりましたが、なぜつまるのでしょう?
それには2つの原因があります。
(1)動脈硬化が徐々に進行して血管が細くなってつまる
(2)不整脈や心臓の弁膜症により心臓の中にできた血栓が脳に飛んでつまる
このふたつは治療も違うんですよ。
このため(1)を脳血栓症(のうけっせんしょう)、(2)を脳塞栓症(のうそくせんしょう)と呼んで区別しています。

脳梗塞の中にこの2種類あるということです。
一般に脳塞栓症の方が重症のことが多いんですよ。
命を落とすのはまずこの(2)なんです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

脳梗塞 はじめに

2008年11月01日 | 脳梗塞
「脳梗塞(のうこうそく)」という言葉、皆さん聞いたことがありますよね。
脳卒中の中でも最も多い病気です。
日本全国で150万人という多くの人がこの病気にかかっており、寝たきりの原因の一位でもあります。
多くの人たちが「最もなりたくない病気の一つ」と考えているでしょうし、自分自身もそう思います。
田中角栄さん、長島茂雄さん、小渕首相をはじめ、多くの有名人も脳梗塞で倒れました。
最近ではサッカーのオシム監督もそうでしたね。
命をなくしてしまうこともあるし、半身麻痺などの重度の障害をかかえてしまうことの多い、こわい病気です。
しかしこの病に倒れた後も、リハビリで元気になられたり、障害をかかえながらも前向きに人生を送られている方が大勢います。
いろんなところに感動的な「脳梗塞体験談」が紹介されています。

ところで、脳梗塞って脳の血管がきれるの?つまるの?
よく混同されます。
順に説明していきましょう。

まずこの病気を一言で言うと、「脳の血のめぐりが悪くて起きる病気」ということになります。
わざわざこう言ったのは、脳の血管に問題がなくても、心臓が一時的に止まったり、全身の血圧が下がって脳梗塞になることがあるためです。
しかし実際には、ほとんどの場合「脳の血管が詰まる」ことにより脳の細胞に血液が足りなくなり、神経細胞が死んでしまうためにおきます。
詰まる原因にはいろいろあります。(後に説明します)

さて一方、「脳の血管が切れた」というのは、「脳出血」を説明するために使われる言葉です。
「詰まるのが脳梗塞」、「切れるのが脳出血」と覚えてください。

さて「脳梗塞は脳の血管が詰まって神経細胞が死ぬ」と説明すると、「一旦かかったらもうだめなんだ」と思ってしまいます。治らない病気だと。
以前は実際にそう考えられており、「一旦かかったらなおらない」「治療法のない」病気の代表的存在とされていました。
「脳梗塞は安静にして寝かせておく他はない」とされていたのです。

しかし、新しい薬の開発、カテーテル治療の開発、手術治療の普及により、この脳梗塞は「治る病気」「予防可能な病気」になってきました。
最近では血栓を溶かす薬が使えるようになり、脳梗塞は「一刻も早く治療すべき」、「治療により劇的に改善する」病気に変わりました。

次回から順にお話ししていこうと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする