NSのクラブハウス「運営側は録音」個人データ保護に不安
ネット・IT2021年2月13日 12:08 日本経済新聞社
人気の音声SNS(交流サイト)「Clubhouse(クラブハウス)」に対し個人データ管理の不透明さを問題視する指摘が出ている。利用者に会話の録音を禁じる一方、運営側は利用者間の会話を録音しデータの扱いの説明も曖昧だ。利用者から知人らの個人情報も集める手法にも欧州当局が警鐘を鳴らす。サービス拡大に向け、データ保護体制の強化が課題になる。
音声でやりとりするSNS「Clubhouse」は世界的に人気が急上昇している
クラブハウスは米アルファ・エクスプロレイションが2020年に立ち上げたアプリ。「room(ルーム)」と呼ばれるテーマごとの部屋で音声だけの会話を楽しむSNSだ。21年初めに日本や欧州でも人気に火が付き、利用者数が200万人以上に急増した。
運営会社が会話を録音
「このアプリはプライバシーに関し多くの疑問点がある」。独ハンブルクのデータ保護当局は2月2日、クラブハウスの個人情報の扱いを問題視する文書を公表した。特に目を引いたのが「運営会社がルーム内の全ての会話を録音・保存している」と指摘した点だ。
自分の会話が、運営側に録音されていると知る利用者は少ない。同アプリは利用者に会話の録音などを原則禁止。「記録の残らないSNS」の印象が強いからだ。
だが実は、利用規約やプライバシーポリシーは「利用者はルーム内の発言が一時的に(運営者側に)録音される」などと明記する。録音データについては「利用者の信頼と安全上の問題が起きた際の調査のためだけに使う」「問題の通報がなければルーム終了時に消す」との説明だ。
録音データの扱いにも不透明さが残る。どんな発言があった場合に調査対象として録音を残すかの基準は曖昧で、データ消去を確認する方法も示されていない。
個人情報に詳しい複数の弁護士は「会話を録音するなら、もっと明瞭な説明や同意手続きにしないと欧州で違法になる恐れがある」とみる。欧州連合(EU)の「一般データ保護規則(GDPR)」は個人情報の収集に明確な同意取得などを求める。クラブハウスは英語版の規約などを熟読しないと録音の事実すら認識しにくく、「対応が不十分にもみえる」(欧州を拠点とする弁護士)。
知人の電話番号も収集
独当局は同アプリの個人情報の収集方法にも問題があるとみている。利用者のスマートフォンなどから、本人だけでなく知人らの名前や電話番号も一緒に集める手法だ。
クラブハウスは招待制のアプリで、利用者が誰かを招待する際は自分のスマホの連絡先データを全てアプリ側に渡す必要がある。運営会社はサービスの利用者以外の個人情報も得るが、これらのデータ管理や削除方法の明確な説明はない。
独当局や専門家はデータ保護体制を疑問視主な懸念点クラブハウス側の説明 (規約などの該当箇所の要約)
①ルーム内の会話を運営側が録音 | 「ルーム内の発言は一時的に録音される」 「録音は問題調査のみに使い、通報がない場合はルーム終了時に消去」 |
②利用者本人以外の個人情報も収集 | 「利用者がつながりを持つ人の情報を集める」 「利用者が許可した場合、利用者に他の利用者(とつながることなど)を薦めたり、利用者の情報を他の人に薦めるために電話帳データを使用する」 |
③利用データを分析し第三者と共有 | 「サービスをパーソナライズ化するためなどに個人情報を活用する」 「データの分析は将来、提携先と共有することもある」 |
データ法制に詳しい杉本武重弁護士は「GDPRは必要最低限のデータ取得が原則だ」と指摘する。招待する人以外の情報も集めるクラブハウスの手法は、データの使い方によっては、この原則に反する恐れがある。独当局はEU域内の個人情報がGDPRの手続きを経ずに米国の運営側に渡る点も懸念する。
利用者データ「他社と共有も」
クラブハウスが集めた利用者データが、本人が知らないうちに第三者に利用される可能性も否定できない。アプリのプライバシーポリシーに「サービスをパーソナライズ化するためなどに個人情報を活用し、分析結果はビジネスパートナーと共有することがある」という記載があるからだ。
その利用者がどんなテーマの話題に関心を示し他のどの利用者と交流しているかなど、クラブハウス側が集める個人データは多様だ。杉本弁護士は規約などの説明を「個人データの使用目的に関する記述は抽象的で、広い解釈が可能」とみる。規約上は個人分析やターゲティング広告に使うこともできそうにみえる。
個人情報を本人に十分に説明せずに詳細な個人分析に使ったり提携企業と共有したりする行為は、米フェイスブックなどが批判を浴びた問題でもある。森亮二弁護士は「クラブハウスは個人情報保護の古典的な問題を抱えている」と指摘する。
他のネット大手は近年、個人データ保護で改善を進める。例えば利用者が提供した連絡先などの情報を後から削除できる仕組みは他社では一般的だ。だがクラブハウスは規約などで、こうした手続きを示していない。
日本経済新聞はアプリ上の会話の録音や個人情報の保護策についてクラブハウス側に質問のメールを送ったが、日本時間の2月13日午前までに回答はなかった。
アプリは立ち上げから1年ほどで、「試用版」の位置づけ。爆発的に増える利用者と個人情報の量に、管理体制が追いついていない。データ保護の説明や利用ルールの強化は今後のサービス拡大に向けた課題だ。
利用者の自覚も必要だ。会話が録音されることに留意しつつ、取引先の連絡先など外に出したくないデータを入れたスマホでの利用には注意するといった使い方の工夫が求められる。(渋谷江里子)