白雲去来

蜷川正大の日々是口実

「どうしやうもないわたし」がいる。

2014-04-05 16:54:27 | インポート

四月四日(金)晴れ。

昨日に続いて山頭火のことを少々。古い同志の長谷川光良氏が下田に隠遁している頃に、友人と連れ立って良く下田に遊んだ。私が、戦線復帰を果たした平成二年に少々体調を崩し、静養の場に選んだのも、長谷川氏のいる下田だった。その下田で良く利用していたのが「いず松陰」という料理屋。何しろ安くてうまい。今でも下田と聞くとイコール「いず松陰」と頭の中でつながる。久しく行っていないが、過日FBの友人がそのお店のことをアップしていたのを読んで懐かしくなった。しかし「伊豆」で「松陰」なのに、なぜか店の入り口には山頭火の「伊豆はあたたかく野宿によろし波音も」という句碑がある。

その句碑は、伊豆の臨済宗建長寺派のお寺で泰平寺にあるものを写したのだと思う。泰平寺のものは大山澄太の書によるもの。また句の内容は忘れたが、下田駅のすぐ近くの蕎麦屋にも大山澄太が書いた山頭火の句の色紙が飾ってあったのを覚えている。山頭火の句で私が好きなものを列記してみる。

沈み行く夜の底へ底へ時雨落つ

分け入つても分け入つても青い山

啼いてわたしも一人

どうしやうもないわたしが歩いてゐる

捨てきれない荷物のおもさまへうしろ

風の石を拾ふ

年とれば故郷こひしいつくつくぼふし

松はみな枝垂れて南無観世音

越えてゆく山また山は冬の山

うしろすがたのしぐれてゆくか

鉄鉢の中へも霰

うつむいて石ころばかり

ころりと寝ころべば空

まっすぐな道でさみしい

雨のふるさとははだしであるく

歳を取らなければわからないものがある。例えば「蕗の薹の天ぷら」。若いころ、連れていかれたお店で初めて食したとき、「こんなまずい葉っぱに金を出して食うなんて馬鹿じゃねぇの」と正直思った。それが今では、その蕗の薹の「えぐみ」と言おうか、味わいのある苦味に、「春ですねぇー」とか言うようになった。俳句もそうかもしれない。山頭火の俳句も若いころよりも還暦を過ぎて、ある種の無常観に苛まれる時、山頭火の俳句が心に沁みるのである。

夜は、伊豆高原の干物屋の名店「山幸」で買った「さわらのみりん干し」と茗荷をたっぷり添えた「冷奴」で独酌。そうか、最近忘れっぽくなったのは茗荷のせいかもしれない。

 

 


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うしろ姿のしぐれてゆくか。

2014-04-05 16:06:05 | インポート

四月三日(木)雨のち曇り。

CMで何とかというイケメンが、山頭火の俳句を語るのを見た。中々出来の良いCMで個人的には好きなのだが、山頭火の人と俳句をどれだけの人が知っているのか、少々疑問に思った。今の若い人たちは山頭火と聞いたら、ラーメン屋か酒の名前と思うかもしれない。かくいう私も二十代の前半ごろまでは山頭火を中国の人だと思っていたので、余り偉ぶったことは言えない。山頭火の俳句を興味をもって読んでみようと思ったのは、野村秋介先生の句集「銀河蒼茫」の中の句、「砂塵捲く 木枯の夜は山頭火読む」を知ってからだ。

「銀河蒼茫」の初版は昭和五十二年に野村先生が「経団連事件」を起こし、東京拘置所にて公判を待つ間に、故阿部勉さんのご尽力によって出版された。装丁はイラストレーターの黒田征太郎氏だ。(現在弊社から発売されているものは新装版となっている)遅まきながら私が山頭火を知ったのは、その時で二十六歳だった。考えてみれば二十六歳まで自由律俳句の第一人者である山頭火や尾崎放哉、あるいは荻原井泉水などを知らなかったのだから、若い頃、いかに無為な日々を送っていたのか反省しきりである。

本当かどうかはわからないが、以前読んだ本によれば、アメリカで一番人口に膾炙されている俳句とは、芭蕉や一茶や蕪村の句ではなく山頭火の「まっすぐな道でさみしい」というものだそうだ。私も、その句を読むと、その昔アメリカのテレビドラマで見た「ルート16」が浮かぶ。 英訳は「too straight a lane too lonesome」とあったが、私が聞いたのとだいぶ違う。誰か知っている人がいたら教えてください。

山頭火の俳句は、彼の人生や生きざまを知らないと分かりにくいかもしれない。いや山頭火の生きざまを知って読むからこそ彼の句が心に響き、感動もする。尾崎放哉の句もそうだ。幸いに放哉の方は吉村昭の「海も暮れきる」(講談社文庫)という良い本があるので未読の方は是非。

山頭火に関しては彼の熱烈なファンでもあり、山頭火を世に出した大山澄太の山頭火に関する本がたくさんある。山頭火や尾崎放哉のようにある意味で破天荒に生きた人たちを、その昔は愛する度量のある人たちが多かった。もちろん右翼浪人に対してもだ。今では破天荒に生きる人は敬遠されてしまう。多くの日本人が型にはまったブロイラーのようだと思うのは、私のひがみだろうか。

一日、真面目に原稿書きと事務所の書棚の整理。思い切って書棚の本の並びを変えた。通信で古書販売もやるつもりなのでジャンル別に本を入れ替えている。まあ暇を見つけて、気分次第でやっているので遅々として進まないが。夜は酔狂亭で月下独酌。


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