https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190216-00000011-ykf-soci
歯周病菌や虫歯菌などの口腔細菌の危険性が、近年さらに明らかになってきている。少数でも、自分以外の他の細菌などを巻き込み、病気を引き起こすものを「キーストーン病原体」というが、その代表が、歯周病菌の一種であるポルフィロモナス・ジンジバリス(ジンジバリス菌)だ。
歯周病患者の口腔細菌を調べてみると、ジンジバリス菌だけがとくに増殖しているわけではない。しかし、他の細菌を爆発的に増殖させ、歯周病を悪化させているのは、この菌の仕業だ。
どうやって他の細菌を増やしているかというと、ジンジバリス菌が分泌するジンジパインというタンパク質分解酵素の働きによる。これが口腔内で分泌されれば、免疫細胞である白血球(好中球)に作用し、免疫機能が誤作動を起こし、周囲の細菌が殺されなくなり増える、という仕組みだ。
この細胞の恐ろしさはまだある。ジンジバリス菌の外側にある「外膜小胞」は、他の細胞の中に入る能力がある。口腔内であれば歯肉の、そして唾液に乗って腸までやってくれば、小腸や大腸の上皮細胞の中に入ってしまう。
そこから、歯周病菌などのグラム陰性菌がもつ内毒素(細胞壁の成分)が入り込んで、リーキーガット(腸管壁浸漏)を起こすと考えられている。
口腔細菌研究の第一人者である、鶴見大学歯学部探索歯学部の花田信弘教授は、この細菌の危険性をこう説明する。
「ジンジバリス菌によってリーキーガットになると、細菌やウイルスやタンパク質、その他の有害物質が血液中に漏れ出し、それが生活習慣病をはじめとする、多くの病気の要因になります」
肥満や動脈硬化、血管性の病気(心臓病、脳卒中)、糖尿病、肝炎、がん、鬱病、認知症など、いわゆる生活習慣病といわれるものの大もとには、慢性炎症がある。炎症とは、本来は自分以外の“外敵”をやっつけるための防御反応だが、それが何らかの理由で健常な部位に起こったり、ずっと続いたりすると、細胞や組織、臓器の機能そのものがダメージを受けていく。
「その慢性炎症を起こす大きな原因の1つは、グラム陰性菌の放出する内毒素です」
このような理由で、ジンジバリス菌が腸内にやってくると、腸内細菌のバランスが崩れたり、リーキーガットになったりと、実に困ったことになるのだ。
その具体例として、最近研究発表され話題になっているのが、ジンジバリス菌と関節リウマチ、アルツハイマー型認知症との関係だ。
新潟大学大学院医歯学総合研究科の山崎和久教授らの、関節リウマチモデルマウスを使った研究では、ジンジバリス菌によって腸内細菌のバランスが乱れると、Th17という炎症を促進させる免疫細胞を優勢にし、関節リウマチが悪化することがわかった。
花田教授はこう続ける。
「ジンジバリス菌には、タンパク質を別のタンパク質に変えてしまう物質(PPAD)があり、それによって性質を変えられた免疫細胞のバランスが乱れ、自己免疫疾患を起こすと考えられます」
この作用が脳に働くと、認知症を引き起こすという、驚きのメカニズムもわかってきている。