心象風景 絵描きブログ

美術のこと、旅のこと、いろいろを心象風景を描くようにつづる絵描きの雑記。

「猫の手研究所」通信 No.7

2019-10-08 23:08:10 | 記憶のかけら

過ごしやすい日が続いている。研究所のドアも窓も開けたまま。ときおり流れ込む風も心地よい。

久しぶりにNさんが訪ねてきた。いつもの元気な声。猫は警戒しているのか隅っこに陣取った。

Nさんは古いピアノを見つけて「弾かせて」と。頷くと「これ弾くと鳥が鳴くよ」とも。

軽やかなタッチに、古びたピアノが若返ったように唄いだした。

すると、窓に鳥の姿。本当に鳴き声が聞こえた。驚いた。いつの間にか、猫も寄って来た。

「調律したほうがいいかもね」と言いながら、Nさんはピアノ椅子からソファーに移った。

中学生のとき、Nさんと映画を観た。

次の日、教室に入ろうとすると、聞いたような曲が流れている。あ、昨日の・・・

Nさんは、昨日一緒に観た映画の曲を聞き覚えて弾いていたのだ。

耳がいいとはこういうことをいうのだと、つくづく感心したのを思い出した。

「あのね、手術受けなくちゃいけなくてね、しばらく会えないからさ」

びっくりして、でも平気をよそおって「そうなんだ」と言ってみた。

Nさんの手術は二度目。胸が締め付けられるようだ。

「調律しておくから、また、あの曲弾いてよ」とピアノを指差しながら言った。

いつの間にか、猫がピアノに乗っている。Nさんと目が合って、二人で笑った。